北村 裕司
代表取締役社長執行役員兼CEO
20%に、4年かけた。

概要
2026年4月28日、サイバートラストの決算説明会で、北村裕司氏はこう述べています。
当面の目標だった営業利益率20%を超えて20.1%の予想です。
この「20%」という数字には、4年前からの経緯があります。同社が2022年4月に公表した中期経営計画「BizX20/40」は、最終年度である2025年3月期に売上高100億円、営業利益20億円以上、そして営業利益率20〜24%を掲げていました。計画を公表したのは当時の社長である眞柄泰利氏です。北村氏はこの時点では取締役副社長執行役員でした。
編集部が注目したのは、その目標を北村氏が自分の言葉で説明していたことです。2023年4月27日の決算説明会で、当時社長の眞柄氏が「中期経営計画と成長戦略については、取締役副社長の北村よりご説明します」と引き継ぎ、以降を北村氏が担当しています。書き起こしには「北村でございます。中期経営計画と成長戦略については私からご説明します」と本人の発言が残っており、続けてこう述べています。
営業利益率は20%から24%を目標としてさらなる成長を目指してまいります。
この時点で北村氏はすでにCEOに就いており、代表取締役社長への就任は約2か月後です。さらに、計画の初年度である2022年4月からCOO兼CTOを務めています。計画を作った側ではないものの、期間中の執行を担う立場にありました。
社長就任後も、本人は同じ数字を掲げています。2023年のWeb株主通信では、就任した北村氏のインタビューとして次の記述があります。
これら5つの重要テーマに取り組むことで、2025年3月期に売上高100億円、営業利益20億円を目指して邁進していきたいと考えております。
編集部では、この継続した説明を答え合わせの起点に置きました。前任者が掲げた計画であっても、就任の前後を通じて本人が投資家に向けて説明している以上、その後の数字は本人の仕事として読めるからです。
編集部が検証したのは、「率」と「額」のどちらが先に目標へ近づいたかです。結論を先に書くと、営業利益率は目標の期限から2年遅れて20%台に入る見込みとなり、売上高と営業利益の金額は期限内には目標に届きませんでした。同じ計画の中で、性質の違う3つの約束が別々の結果になっています。何が起きていたのかを、公開資料でたどります。
経歴
プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 北村 裕司(きたむら ゆうじ) |
| 生年月日 | 1971年6月8日 |
| 現職 | サイバートラスト株式会社 代表取締役社長執行役員兼CEO |
| 就任 | 2023年6月 |
| 所有株式数 | 24,300株 |
※役職の表記は有価証券報告書(第26期)の記載に従いました。会社の適時開示では「代表取締役社長CEO」、自社サイトの役員紹介では「代表取締役社長」と、資料によって表記が異なります。
経歴
| 年月 | 内容 |
|---|---|
| 1995年4月 | テクノソフトウエアサービス株式会社 入社 |
| 1996年11月 | 株式会社エヌ・エス・ジェー(旧サイバートラスト株式会社)入社 |
| 2002年3月 | 同社 取締役兼CTO |
| 2004年3月 | 同社 取締役兼執行役員兼技術統括本部長兼CTO |
| 2005年6月 | 同社 技術本部長(ソフトバンクBB株式会社への第三者割当増資に伴い取締役退任) |
| 2007年5月 | 同社 技術統括本部長兼CTO |
| 2009年4月 | 同社 技術本部長兼新規事業開発室長兼CTO兼CISO |
| 2013年4月 | 同社 取締役兼技術本部長兼CTO |
| 2014年7月 | ソフトバンク・テクノロジー株式会社 技術統括セキュリティソリューション本部 副本部長(出向) |
| 2016年4月 | 同社 技術統括セキュリティソリューション本部長兼CISO(出向) |
| 2017年4月 | サイバートラスト株式会社 品質管理本部長兼CTO |
| 2017年10月 | 同社 副社長執行役員兼CTO兼CISO |
| 2020年6月 | 同社 取締役副社長執行役員 認証・セキュリティ事業部長兼CTO兼CISO |
| 2021年4月 | 同社 取締役副社長執行役員 認証・セキュリティ事業部長兼CTO |
| 2022年4月 | 同社 取締役副社長執行役員兼COO兼CTO |
| 2023年4月 | 同社 取締役副社長執行役員兼CEO |
| 2023年6月 | 同社 代表取締役社長執行役員兼CEO(現任) |
編集部が経歴から読み取ったのは、2点です。
ひとつは、技術の職名を長く保ち続けたことです。2002年に初めてCTOに就任し、2023年4月にCEOとなる直前までCTOを務めています。ただし2005年6月から2007年5月、および出向していた2014年7月から2017年4月は、公開されている略歴に技術責任者の肩書きがありません。CISO(情報セキュリティ最高責任者)も2009年から複数の期間にわたって兼務しています。入社から約30年、経営に近づいてからも技術の看板を外していません。
もうひとつは、いまの会社が「合併された側」から来た人物であることです。北村氏が1996年に入社したのは「株式会社エヌ・エス・ジェー(旧サイバートラスト株式会社)」です。現在のサイバートラストは、2017年10月に旧ミラクル・リナックス株式会社を存続会社として旧サイバートラストを吸収合併し、商号を変更した会社です。つまり北村氏は、合併で消えた側の会社の技術責任者から、統合後の会社の社長になっています。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | サイバートラスト株式会社(Cybertrust Japan Co., Ltd.) |
| 本社 | 東京都港区赤坂一丁目12番32号 アーク森ビル31階 |
| 設立 | 2000年6月(ミラクル・リナックス株式会社として。資本金2億2千万円) |
| 上場 | 2021年4月15日 東京証券取引所マザーズ市場(2022年4月にグロース市場へ移行) |
| 証券コード | 4498 |
| 事業 | デジタルトラスト事業(2025年4月に「トラストサービス事業」から名称変更) |
| 従業員数 | 286名(2026年3月期・連結) |
| グループ | 連結子会社2社、持分法適用関連会社1社 |
| 売上高 | 83億6,030万円(2026年3月期・連結) |
人物の軌跡
国産Linuxの会社と、電子認証の会社が合わさった
いまのサイバートラストは、性格の違う2つの事業が合併でひとつになった会社です。存続会社となったミラクル・リナックスは2000年6月に設立され、日本オラクルと日本電気を主要株主として、企業向けの国産Linuxディストリビューションを開発していました。一方の旧サイバートラストは電子認証局を運営する会社で、北村氏はこちら側で技術を担ってきました。
2017年10月の合併から、会社は2つの柱を並べる形になりました。現在の区分では、電子証明書や本人確認を担う「トラストサービス」と、Linuxを中心としたOSの提供・サポートを担う「プラットフォームサービス」です。北村氏が2023年4月の説明会で成長の牽引役として名前を挙げた3つのサービス——iTrust、Linuxサポート、EMLinux——は、この2つの柱にまたがっています。
一度、取締役を降りている
経歴の中に、役職が下がった年があります。2005年6月、「ソフトバンクBB株式会社への第三者割当増資に伴い取締役退任」と有価証券報告書に記載されています。資本構成が変わったことに伴う退任です。北村氏はこのとき技術本部長として現場に残り、2013年4月に再び取締役に就いています。
編集部では、この8年間を経歴の空白とは読みませんでした。この間に本人の担当は、技術統括本部長、新規事業開発室長、CTO、CISOへと広がっています。役職の階段を上がるのとは別の軸で、扱う範囲が増えています。
親会社へ出向し、戻ってきた
2014年7月から2017年4月まで、北村氏は在籍会社を離れています。同年、当時のソフトバンク・テクノロジー株式会社(現在の商号はSBテクノロジー株式会社)がサイバートラストの株式を取得し、同社の連結子会社となりました。北村氏はその親会社に出向し、セキュリティソリューション本部の副本部長、本部長、CISOを務めています。
戻ったのは、合併の半年前です。2017年4月に品質管理本部長兼CTOとして復帰し、同年10月の合併・商号変更のタイミングで副社長執行役員に就いています。会社の形が大きく変わる場面に、外から戻って合流した形です。
経営哲学
中期経営計画「BizX20/40」が掲げた3つの数字を、順に照らし合わせます。計画の公表は2022年4月28日、対象期間は2022年4月から2025年3月までの3か年です。
答え合わせ①:営業利益率20〜24%——2027年3月期予想で20.1%
まず、実際の推移です。
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 57億3,127万円 | 8億6,878万円 | 15.2% |
| 2023年3月期 | 61億6,766万円 | 10億5,374万円 | 17.1% |
| 2024年3月期 | 64億6,654万円 | 11億1,218万円 | 17.2% |
| 2025年3月期 | 74億4,203万円 | 14億2,139万円 | 19.1% |
| 2026年3月期 | 83億6,030万円 | 16億4,937万円 | 19.7% |
| 2027年3月期(予想) | 92億5,000万円 | 18億6,000万円 | 20.1% |
※2022年3月期から2026年3月期は有価証券報告書(第26期)の連結経営指標。営業利益率は編集部が売上高と営業利益から算出しました。2027年3月期は会社公表の通期予想です。
目標の期限だった2025年3月期の営業利益率は19.1%でした。目標レンジの下限である20%まで0.9ポイントです。翌期は19.7%、そして2027年3月期の会社予想が20.1%です。期限から2年遅れて、レンジの下限に入る見込みとなりました。
この見込みを、本人が明示的に述べています。2026年4月28日の決算説明会で、北村氏は単独で説明を行い、2027年3月期の予想についてこう語っています。
売上高は10.6%増の92億5,000万円、営業利益は12.8%増の18億6,000万円です。当面の目標だった営業利益率20%を超えて20.1%の予想です。
編集部が着目したのは「当面の目標だった」という言い方です。目標を掲げたのは前任者ですが、本人は就任の前後を通じてこの数字を掲げ続け、その到達の見込みを自ら報告しています。なお20.1%は2027年3月期の会社予想であり、確定した実績ではありません。
答え合わせ②:売上高100億円——2025年3月期は74億4,200万円
計画の最終年度の売上高は74億4,203万円でした。目標100億円に対する達成率は74.4%です。
目標が想定していた成長のペースを、編集部で計算しました。2022年3月期の57億3,127万円から3年で100億円に届くには、年平均20.4%の成長が必要です。北村氏が2023年4月の説明会で「3カ年でCAGR 20%の売上成長を目指してまいります」と述べた数字と一致します。実際の3年間の年平均成長率は9.1%でした。
一方で、売上高そのものは伸び続けています。2026年3月期は83億6,030万円で、2027年3月期の予想は92億5,000万円です。当初の目標だった100億円という水準に、2年遅れで近づいています。
答え合わせ③:営業利益20億円以上——2025年3月期は14億2,100万円
営業利益は14億2,139万円で、目標20億円に対する達成率は71.1%です。
目標が置いていた伸び方は、売上よりも急でした。北村氏の説明にはこうあります。
また、営業利益目標は20億円以上を掲げています。こちらはCAGR 32%から40%としています。これは外部環境の不確実性による影響を鑑みてレンジ設定となっています。
8億6,878万円から3年で20億円に届くには、年平均32.0%の成長が必要です。計画が示したレンジの下限と一致します。実際は年平均17.8%でした。目標の半分強のペースです。
答え合わせ④:率が先に目標へ近づいた背景
3つの約束のうち、率だけが届く見込みになりました。編集部で数字から確認できるのは、次のことです。3年間で売上高は年平均9.1%、営業利益は年平均17.8%で伸びています。利益の伸びが売上の伸びを上回った結果、率が先に目標へ近づきました。
その理由について、会社は継続課金型サービスの伸長を挙げています。経営の重要指標に何を置いているかは、有価証券報告書に書かれています。
(i)事業進捗及び収益性を計る指標として「売上高」及び「営業利益及び営業利益率」に加え設備投資を要する事業であることから疑似的なキャッシュ・フロー指標であるEBITDAを、また(ii)リカーリング型ビジネスによる高収益率の事業を目指しているためリカーリング売上及び全体の売上に占める割合(リカーリング売上比率)を経営の重要指標と考えております。
リカーリング(継続課金)の売上比率を重要指標に置いていることは、有価証券報告書に明記されています。北村氏が2026年4月の説明会で述べた実績の説明も、この線に沿っています。
2026年3月期の通期業績は、売上高、営業利益ともに通期11期連続で増収増益となりました。高成長牽引サービスが伸長した結果、営業利益率は19.7%まで向上しております。
就任後の3期で、数字はこう動いています。北村氏が社長に就いたのは2023年6月です。就任1年目にあたる2024年3月期から2026年3月期までの2年間で、売上高は64億6,654万円から83億6,030万円へ29.3%増、営業利益は11億1,218万円から16億4,937万円へ48.3%増。営業利益率は17.2%から19.7%へ2.5ポイント上がっています。
編集部では、この3年を「額の目標には届かなかったが、率の改善は止めなかった期間」と読みました。ただし、率の改善が本人の技術者としての経歴によるものかどうかは、公開資料からは判断できません。確認できるのは、会社が継続課金型サービスの伸長を理由として挙げていることまでです。
人物像
北村氏の発言に共通するのは、時間の長さへの言及です。Web株主通信2026年版のトップインタビューで、本人はインフラ領域の事業について次のように述べています。
投資回収まで長い期間を要する一方で、一度社会実装されると長期にわたり利用され続けるという特徴があります。
新規事業についても、着手からの年数を語っています。同じインタビューでは、量子技術分野への取り組みを「2030年頃を見据えながら、すでに数年前から準備を進めています」と説明しています。
編集部が見たのは、こうした時間感覚が数字の扱い方にも表れていることです。営業利益率20%は、2022年4月に置かれた目標です。期限の2025年3月期には19.1%で、そこから2期かけて20.1%の予想に至っています。目標を掛け替えるのではなく、同じ数字を持ち続けた形です。
技術者としての経歴は、会社の主力サービスと重なっています。北村氏が2023年4月の説明会で成長の牽引役に挙げたiTrustは2018年の提供開始で、当時の本人は副社長執行役員兼CTOでした。技術責任者を務めていた時期に始まったサービスが、社長就任後の利益率改善を支えた構図になります。
編集部総評
サイバートラストの中期経営計画は、3つの数字を並べていました。売上高100億円、営業利益20億円以上、営業利益率20〜24%。金額の2つは2025年3月期の期限内には届かず、率は2年遅れて到達する見込みとなりました。
編集部が評価したのは、目標を持ち続けたことです。計画の期限が過ぎた時点で、率の目標を下げる、あるいは新しい計画に置き換えて古い数字を消すという選択もありました。実際には、期限から1年後の決算説明会で本人が「当面の目標だった営業利益率20%」と述べ、同じ数字への到達見込みを示しています。答え合わせができる状態が保たれています。
数字が積み上がってきたことも記録しておきます。2026年3月期は11期連続の増収増益で、営業利益率は19.7%。売上高は計画の起点となった2022年3月期から4年で57億3,127万円から83億6,030万円へ、営業利益は8億6,878万円から16億4,937万円へと伸びています。
今後の焦点として読み取れる点
ひとつは、次の数値目標です。編集部が2026年9月時点の公開資料を確認した範囲では、「BizX20/40」に代わる、金額と期限を伴う新しい中期経営計画は公表されていません。会社のIRサイトには中期経営計画のページへのリンクがありますが、アクセスするとページが表示されない状態です。2026年3月期の決算説明では、中長期の成長イメージとして「新規事業」「グローバル」「M&A」の3つの方向性が示されています。方向性は示され、数字はまだ置かれていない段階です。
もうひとつは、体制の変化です。2026年4月27日の適時開示で、代表取締役会長の眞柄泰利氏が同年6月24日の定時株主総会終結時をもって退任することが発表されました。中期経営計画を掲げた前任者が代表取締役を退き、北村氏の単独代表体制になっています。眞柄氏は現在も、CBXO(最高ビジネストランスフォーメーション責任者)兼シニアエグゼクティブアドバイザーとして会社の業務執行体制に名を連ねています。引き継いだ目標に一区切りをつけた直後に、自分の名前で次の数字を置く場面が来ていると編集部では読みました。
3つ目は、成長領域への投資の回収時期です。有価証券報告書には、内部留保資金を活用して「AI・半導体」「デジタル・サイバーセキュリティ」「量子」の3分野へ投資する方針が記されています。本人がインフラ領域の特徴として「投資回収まで長い期間を要する」と述べている以上、これらの投資が営業利益率にどう影響するかは、次の数値目標の置き方と合わせて見る必要があります。
参考情報
1. サイバートラスト株式会社「有価証券報告書-第26期(2025年4月1日-2026年3月31日)」2026年6月23日提出
2. サイバートラスト株式会社「2023年3月期 決算説明会レポート(書き起こし)」説明会開催日2023年4月27日(書き起こしの公表は2023年5月12日)
3. サイバートラスト株式会社「2026年3月期 決算説明会レポート(書き起こし)」説明会開催日2026年4月28日(書き起こしの公表は2026年5月8日)
4. サイバートラスト株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年7月30日
5. サイバートラスト株式会社「(訂正・数値データ訂正)「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について」2026年6月23日
6. サイバートラスト株式会社「代表取締役等の異動に関するお知らせ」2023年3月28日
7. サイバートラスト株式会社「代表取締役の異動(退任)及び役員人事に関するお知らせ」2026年4月27日
8. サイバートラスト株式会社「Web株主通信 2026年版」
9. サイバートラスト株式会社「Web株主通信 2023年版」(社長就任後の本人インタビュー)
10. サイバートラスト株式会社 業務執行体制(2026年9月8日確認)
11. EDINET DB(財務データの照合に使用)
本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。



