小川 憲洋東洋証券株式会社 取締役社長
LEADER 020
LEADER PROFILE

小川 憲洋

Norihiro Ogawa
東洋証券株式会社
取締役社長

8%を、2年早く。

小川 憲洋

概要

東洋証券株式会社の取締役社長、小川憲洋氏。2024年6月に社長へ就いた。

同社の第六次中期経営計画は2020年4月に始まっている。編集部が第99期から第104期までの有価証券報告書を通して確認したところ、当初の4期分(第99期〜第102期)では、この計画について基本方針と重点施策が示されていたが、達成水準を示す数値目標の開示は確認できなかった。

数値目標が有価証券報告書に表として現れるのは、第103期(2025年3月期)である。同社は2024年10月30日に計画の見直しを公表し、そこで「2028年3月期にROE8%以上」という到達点と、預り資産残高・株式投信残高・NISA口座残高・CX指標という4つの指標を置いた。小川氏の社長就任から4か月後にあたる。

結果を先に書くと、見直し公表後に開示された2期のうち、2026年3月期にROEは12.9%となり、2028年3月期の目標である8%以上を2年早く上回った。預り資産残高も1兆5,740億円で、目標の1兆5,000億円以上を超えている。CX指標は2期続けて前期を上回った。株式投信残高とNISA口座残高の2つは、それぞれ目標の80.4%、94.9%である。

編集部が中身を分解して確認したのは、この期のROE改善を支えたのが本業の利益だという点である。有価証券報告書によると、経常利益は前期の10億3,600万円から32億5,900万円へ、214.3%増えた。一方で投資有価証券売却益は22億4,700万円から14億1,100万円へ減っている。ただし売却益14億1,100万円は税金等調整前当期純利益46億7,900万円の30.2%にあたり、利益への寄与は残っている。

有価証券報告書で目標の開示を確認できなかった計画が、見直しによって検証できる形になり、2期目にそのうち2つが目標水準を超えた。これが編集部の読みである。

COMPANY
東洋証券株式会社
SALES
135億7,600万円
EMPLOYEES
632名
PRESIDENT SINCE
2024年6月
01

経歴

有価証券報告書(第104期・2026年6月23日提出)の「役員の状況」に記載された略歴は次のとおり。

時期役職
1992年4月当社入社
2014年9月当社浜田支店長
2016年3月当社今治支店長
2017年7月当社広島支店長
2021年3月当社業務推進部長
2022年4月当社執行役員営業企画部担当兼東日本ブロック長
2023年4月当社執行役員営業企画部担当
2024年6月当社代表取締役社長兼社長執行役員監査部担当(現任)

生年月日は1970年1月16日。同社の公式サイトの役員一覧(2026年7月1日現在)と有価証券報告書の記載が一致することを確認した。所有株式数は7,800株、取締役会への出席は18回中18回である。

編集部が略歴から読み取ったのは、3つの支店長を務めた営業の現場出身であるという点である。2014年9月から2021年2月までの約6年半、浜田(島根県)・今治(愛媛県)・広島と、いずれも地方の支店長を歴任している。本社の部長職に就いたのは2021年3月で、入社から29年後にあたる。

有価証券報告書に記載された会社の選任理由は次のとおり。

小川憲洋氏は、営業部門での豊富な業務経験を有し、ブロック長のほか営業企画部門の担当役員を歴任したのち、取締役社長に就任し、当社の企業価値向上に貢献してまいりました。これまでの経験と能力、実績から取締役として相応しい経験と能力を有していることから選任しております。

社長就任と同時に監査部担当を兼ねている。

02

会社データ

項目内容
社名東洋証券株式会社(Toyo Securities Co., Ltd.)
証券コード8614(東京証券取引所 プライム市場)
創業1916年(大正5年)
業種証券、商品先物取引業
従業員数632名(2026年3月31日現在・連結)
営業収益135億7,600万円(2026年3月期・連結)
純営業収益132億1,300万円(同)
経常利益32億5,900万円(同)
当期純利益39億3,700万円(同)
自己資本利益率(ROE)12.9%(同)

同社は自らを「地域密着型の総合証券会社」と位置づけ、中期経営計画では「中国株のパイオニアとしての東洋ブランドの再構築」を重点施策に掲げている。創業は1916年で、2026年で110年になる。

03

人物の軌跡

答え合わせ①:当初4期の有価証券報告書では、数値目標の開示を確認できず

第六次中期経営計画は2020年4月に始まっている。第99期(2021年3月期)の有価証券報告書には、その内容がこう書かれていた。

このような環境下、当社は、2020年4月より外部機関の意見も踏まえ、第六次中期経営計画(5カ年計画)「もっと ずっと...ともにTO YOU」をスタートさせました。目指すべき将来像として、世代を超えて信頼され、資産運用・資産形成のアドバイザーとして選ばれる「スーパー・リージョナル(地域密着型)・リテール証券会社」を掲げ、お客さまロイヤルティを追求した営業スタイル改革により、これまで以上に「お客さま本位」の経営で顧客基盤を拡充し、持続的な成長モデルへの進化を目指します。

基本方針は「もっと」「ずっと」「ともに」の3語、重点施策は付加価値戦略・チャネル戦略・業務戦略・組織戦略・人材戦略の5つである。編集部が第100期・第101期・第102期の同じ見出しを確認したところ、内容はほぼ同文だった。第101期以降にIFA事業の展開と不動産賃貸業の開始が重点施策に加わっている。

この4期分の有価証券報告書では、達成水準を示す数値目標の開示を確認できなかった。

なお、社内に数値の計画がなかったという意味ではない。第102期の有価証券報告書には、繰延税金資産の回収可能性に関する記載として「回収可能価額は第六次中期経営計画を基礎とした将来収支計画の見積りに基づいており」という一文がある。計画にもとづく収支の見積りは存在しており、編集部が確認できなかったのは、有価証券報告書における目標値の開示である。

答え合わせ②:見直しで、計画は5年から8年になり、数値目標が開示された

2024年10月30日、同社は計画の見直しを公表した。有価証券報告書に置かれた説明は次のとおりである(第103期・第104期に同一文で記載)。

当社グループは、2024年10月30日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を踏まえ現状分析と評価を行い、株主・投資家並びにお客さまをはじめ、従業員を含むすべてのステークホルダーの皆さまの期待にお応えするため、更なる成長戦略等が必要と考え、改めて第六次中期経営計画の見直しを公表しております。PBR1倍以上の達成を目指した財務施策を打ち出すとともに、中長期的な企業価値向上を実現するために「経営理念」に立ち返り、お客さまはもちろんのこと、ステークホルダーの皆さまとの信頼関係をより深め、期待に応えてまいります。

この見直しで変わったのは3点である。

項目当初版(2020年4月)見直し後(2024年10月)
計画の名称第六次中期経営計画「もっと ずっと...ともにTO YOU」第六次中期経営計画「〜お客さまの信頼がすべて〜」
期間5カ年計画(2020年4月〜2025年3月)2020年4月〜2028年3月(3年延長)
数値目標有価証券報告書での開示は確認できずKGI 1項目+KPI 4項目を開示

編集部が有価証券報告書の「株式の保有状況」を確認すると、見直し後の計画は「修正6次中期経営計画」という名称で呼ばれ、政策保有株について「修正6次中期経営計画期間中において、改めて保有の是非(含む一部売却)を毎年検証してまいります」という記載が複数の銘柄で使われている。

そして開示された数値目標が次の5つである。

区分項目数値目標(2028年3月末)
KGIROE8%以上(2028年3月期)
KPI預り資産残高1兆5,000億円以上
KPI株式投信残高5,000億円以上
KPINISA口座残高1,040億円以上
KPICX指標(購入意向・継続意向・推奨意向)(毎期)前期比改善

KGIはKey Goal Indicatorの略で、目標達成の最終的な指標を指す。同社はこれをROEに置いた。なお、この見直しは会社名義で公表されたものである。編集部が確認できたのは公表の日付と内容であり、社内での立案の経緯は公開情報からは分からない。

答え合わせ③:2026年3月期に、ROEと預り資産残高が目標水準を上回った

見直しの公表は第103期(2024年4月〜2025年3月)の期央にあたる。公表後に開示された2期分の実績は次のとおりである。

区分項目目標(2028年3月末)2025年3月末2026年3月末状況
KGIROE8%以上7.6%12.9%目標水準を上回った
KPI預り資産残高1兆5,000億円以上1兆2,953億円1兆5,740億円目標水準を上回った
KPI株式投信残高5,000億円以上3,239億円4,018億円目標の80.4%
KPINISA口座残高1,040億円以上704億円987億円目標の94.9%
KPICX指標(毎期)前期比改善6.28(前期5.99)6.38(前期6.28)2期連続で前期を上回った

ROEは8%以上という目標に対して12.9%、預り資産残高は1兆5,000億円以上に対して1兆5,740億円である。いずれも目標年度の2028年3月期より2年早い到達になる。ただし目標年度まではまだ2期あり、この水準を維持できるかは今後の実績によることになる。

CX指標は5つのうち唯一、到達水準ではなく「毎期の前期比改善」を条件としている。実績は5.99(2024年3月末)、6.28(2025年3月末)、6.38(2026年3月末)と2期続けて上がっている。

途上にある2つも、1年で残りを詰めている。株式投信残高は3,239億円から4,018億円へ779億円、NISA口座残高は704億円から987億円へ283億円増えた。

編集部が10期分のROEを並べると、次のようになる。

期決算年月ROE
第95期2017年3月1.6%
第96期2018年3月4.3%
第97期2019年3月△6.1%
第98期2020年3月△1.6%
第99期2021年3月2.5%
第100期2022年3月2.2%
第101期2023年3月△8.1%
第102期2024年3月3.5%
第103期2025年3月7.6%
第104期2026年3月12.9%

この10期で8%を超えたのは第104期だけである。次に高いのが第96期(2018年3月期)の4.3%で、その差は8.6ポイントある。小川氏が就任する直前の第102期は3.5%だった。

※第95期〜第99期は第99期有価証券報告書、第100期〜第104期は第104期有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」から取得した。

答え合わせ④:2期で、利益の出どころが入れ替わっている

同じROEの改善でも、2025年3月期と2026年3月期では中身が違う。

期決算年月経常利益投資有価証券売却益当期純利益ROE
第102期2024年3月14億3,700万円1億1,700万円13億500万円3.5%
第103期2025年3月10億3,600万円22億4,700万円26億5,300万円7.6%
第104期2026年3月32億5,900万円14億1,100万円39億3,700万円12.9%

第103期は、経常利益が前期より4億100万円減っている。それでも当期純利益が13億500万円から26億5,300万円へ倍増した背景には、特別利益に計上された投資有価証券売却益22億4,700万円がある。前期の1億1,700万円から約19倍に増えた。

第104期は関係が変わっている。売却益は22億4,700万円から14億1,100万円へ減り、経常利益が32億5,900万円へ214.3%増えた。有価証券報告書はこの構図をこう書いている。

一方、投資有価証券売却益(特別利益)が減少したため、親会社株主に帰属する当期純利益は39億37百万円(前連結会計年度比48.3%増)と経常利益と比較して増加率は減少しました。

前期より売却益が減ったため、当期純利益の増加率(48.3%)は経常利益の増加率(214.3%)を下回った、という説明である。

ただし、売却益がなくなったわけではない。第104期の売却益14億1,100万円は、税金等調整前当期純利益46億7,900万円の30.2%にあたる。編集部が参考として試算すると、有価証券報告書に記載された法定実効税率30.6%を売却益に一律に適用して当期純利益から除いた場合、ROEは約9.7%となり、目標の8%以上は上回る。売却益に対応する実際の税額は開示資料から特定できないため、あくまで感応度の目安である。

なお、第104期の税効果会計適用後の法人税等の負担率は15.8%で、法定実効税率30.6%を下回っている(前期は10.0%)。

政策保有株については、有価証券報告書に「修正6次中期経営計画期間中において、改めて保有の是非(含む一部売却)を毎年検証してまいります」という方針が記載されている。ただし、この方針と第103期・第104期の売却益との直接的な関係は、有価証券報告書からは確認できない。

答え合わせ⑤:自己資本の水準も変わっている

ROEは利益を自己資本で割った指標である。したがって分母の水準も数字に影響する。

同社は第103期(2025年3月期)に自己株式を80億円取得し、そのうち73億9,700万円を消却した(有価証券報告書の連結株主資本等変動計算書)。純資産額はこう動いている。

期決算年月純資産額前期比
第102期2024年3月394億400万円―
第103期2025年3月301億2,200万円△92億8,200万円
第104期2026年3月306億3,900万円+5億1,700万円

第104期の自己株式の取得はほぼゼロで、単元未満株式の買取627株(34万3,581円)のみである。有価証券報告書の財務活動によるキャッシュ・フローの説明には「自己株式の取得による支出△0百万円(前連結会計年度比79億99百万円の増加)」と書かれている。

編集部が単純な感応度分析として、期中平均自己資本を第102期末の水準(394億400万円)と仮定して第104期の当期純利益で計算すると、ROEは約10.0%となる。この場合も8%以上の目標は上回る。ただしこの試算は、自己株式の取得が利益や資産運用に与える影響を反映していない。

なお、同社の中期経営計画では自己資本を「純資産合計−株式引受権−新株予約権−非支配株主持分」と定義しており、上表の純資産額とは範囲が異なる。

株主還元も第103期から水準が変わっている。1株当たり配当額は第102期の10円から、第103期・第104期は50円へ上がった(いずれも特別配当20円を含む)。配当性向は第103期が144.0%、第104期が86.3%である。同社は連結配当性向60%以上を方針として掲げている。

答え合わせ⑥:売買代金の伸びより、手数料の伸びが大きい

第104期は株式市場全体が伸びた期である。編集部が有価証券報告書から市場と自社の数字を並べると、次のようになる。

項目第104期前期比
東証の1日平均売買代金7兆1,018億円+33.1%
同社の国内株式委託売買代金1兆431億円+20.1%
同社の外国株式委託売買代金693億円+23.4%
同社の株式の委託手数料50億2,600万円+41.8%
同社の委託手数料 合計51億400万円+41.2%
同社の受入手数料 合計113億9,100万円+32.8%

※東証の数字は市場全体の1日平均、同社の数字は年間の合計である。集計の対象と算定方法が異なるため、伸び率の単純な比較には留意が必要である。

同社に限って見ると、株式の委託売買代金は国内が20.1%増、外国が23.4%増で、株式の委託手数料は41.8%増えている。取り扱った金額の伸びよりも、そこから得た手数料の伸びが大きいという関係である。

有価証券報告書は営業収益の増加要因を「投資信託の販売手数料、投資信託の代行手数料、国内株委託手数料、中国株手数料やソリューションビジネス関連収益が増加したため」と説明している。ただし手数料の伸びが売買代金の伸びを上回った要因(単価か商品構成か)については、有価証券報告書から特定できる範囲を超えるため、編集部では確認できていない。

※参考として、有価証券報告書のMD&Aには「株式投資信託の預り資産の平均残高」という別の指標も記載されている。第99期の2,366億円から第104期の3,868億円へ推移しており、KPI表の期末残高(4,018億円)とは定義が異なる。

04

経営哲学

「社会的使命」という言葉を、財務の言葉と並べている

小川氏の名義で公開されている文章は、同社の公式サイトに3本ある。いずれも「取締役社長 小川 憲洋」の署名がある。

「経営者のご挨拶」には、計画の見直しについてこう書かれている。

当社は2020年4月に第六次中期経営計画をスタートいたしました。その後、策定時には想定し得なかった要因を踏まえ、2024年10月に見直しを行いました。

そして同じ文章のなかに、次の一文が置かれている。

当社は、「お客さまの大切な資産をお預かりし、守り、育てることが私たちの社会的使命」であり、その実現こそが私たちの唯一の存在価値であると確信し、「お客さま本位」の更なる深化を目指します。

「株主・投資家の皆さまへ」では、見直しが財務の文脈で説明されている。

そして昨年度は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の公表や中期経営計画の見直しを行いました。その達成を通じて、さらなる企業価値の向上に努めてまいります。

編集部が読み取ったのは、同じ見直しが2つの言葉で説明されていることである。顧客に向けた文章では「社会的使命」「お客さま本位の更なる深化」として、株主に向けた文章では「資本コストや株価を意識した経営」「企業価値の向上」として書かれている。

開示された5つの数値目標も、この2つに分かれている。KGIのROEは資本効率の指標である。KPI4つのうち、預り資産残高・株式投信残高・NISA口座残高は顧客から預かった資産の量で、CX指標は購入意向・継続意向・推奨意向という顧客の評価そのものである。指標の4つが顧客側に置かれている。

目標に、顧客の評価が入っている

CX指標は、5つの目標のなかで唯一、金額でも比率でもない。目標の書き方も「(毎期)前期比改善」であり、到達すべき水準ではなく、毎期上げ続けることを条件にしている。

実績は5.99(2024年3月末)、6.28(2025年3月末)、6.38(2026年3月末)と2期続けて上がっている。指標の上限や、業界での目安となる水準は公開情報には示されていない。

なお、この指標が採用された理由、および小川氏の経歴との関係は、公開資料からは確認できない。小川氏は浜田・今治・広島と3つの支店長を務め、その後に営業企画部担当の執行役員と東日本ブロック長を兼ねている。

※ここで確認したのは有価証券報告書と同社公式サイトの公開情報の範囲である。統合報告書やその他の任意開示資料、決算説明会の内容は確認していない。

05

人物像

リーダーシップタイプ

編集部の分析では、小川氏が社長を務める期間の経営に見える特徴は「検証できる形が用意されている」ことである。なお、以下の3点はいずれも会社名義の開示にもとづくもので、本人が個別に語ったものではなく、社内での立案の経緯も公開情報からは分からない。

根拠は3つある。

1. 小川氏の就任から4か月後に計画が見直され、それまで有価証券報告書での開示を確認できなかった数値目標が、KGIとKPIとして公表された

2. 開示された目標が、顧客側の指標(預り資産・株式投信・NISA・CX)と資本効率の指標(ROE)に分かれている

3. 計画の期間が5年から8年へ延長され、到達年度が2028年3月期に置き直された

3つに共通しているのは、達成の可否を後から検証できる形が整えられたことである。

強み・特徴(編集部分析)

1. 数値目標が公表されてからの2期で、ROEと預り資産残高が目標水準を上回っている。ROEは8%以上に対して12.9%、預り資産残高は1兆5,000億円以上に対して1兆5,740億円である

2. この期のROE改善を支えたのは本業の利益である。経常利益は10億3,600万円から32億5,900万円へ214.3%増えた。投資有価証券売却益は22億4,700万円から14億1,100万円へ減っている(ただし売却益は税金等調整前当期純利益の30.2%にあたる)

3. 10期で唯一、ROEが8%を超えた期をつくっている。第95期から第104期までで8%超は第104期だけで、次に高い第96期は4.3%である

4. 目標に金額以外の指標が入っている。CX指標は購入意向・継続意向・推奨意向という顧客の評価で、5つの目標のうちこれだけが金額でも比率でもない。実績は2期連続で上がっている

5. 地方の支店長を3か所務めた営業出身である。浜田・今治・広島と約6年半にわたり支店長を歴任し、本社の部長職に就いたのは入社29年後の2021年3月である

発言・記載と実績の対応

発言・記載時期その後
(会社)第六次中期経営計画(5カ年計画)「もっと ずっと...ともにTO YOU」をスタートさせました2021年6月(第99期有報)以降第102期までの4期分の有価証券報告書に、この計画の数値目標の開示は確認できなかった
(会社)2024年10月30日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を踏まえ(中略)改めて第六次中期経営計画の見直しを公表しております。PBR1倍以上の達成を目指した財務施策を打ち出すとともに2024年10月30日公表<br>(第103期有報に記載)数値目標(KGI 1項目・KPI 4項目)が有価証券報告書に表として掲載された
(会社)KGI ROE 8%以上(2028年3月期)2025年6月(第103期有報)2026年3月期に12.9%。目標年度より2年早く目標水準を上回った
(会社)KPI 預り資産残高 1兆5,000億円以上同上1兆2,953億円(2025年3月末)→1兆5,740億円(2026年3月末)で目標水準を上回った
(会社)KPI 株式投信残高 5,000億円以上同上3,239億円→4,018億円。目標の80.4%
(会社)KPI NISA口座残高 1,040億円以上同上704億円→987億円。目標の94.9%
(会社)KPI CX指標(毎期)前期比改善同上5.99→6.28→6.38と2期連続で前期を上回った
(本人名義)その後、策定時には想定し得なかった要因を踏まえ、2024年10月に見直しを行いました公式サイト「経営者のご挨拶」見直しで計画は5年から8年になり、数値目標が公表された
06

編集部総評

小川氏が社長に就いてからのこの2期を、編集部は「検証できる形が整えられた期間」と読んだ。

第六次中期経営計画は2020年4月に始まり、就任時点で4期が過ぎていた。この4期の有価証券報告書に載っていたのは基本方針と重点施策で、達成水準を示す数値目標の開示は確認できなかった。小川氏の就任から4か月後の2024年10月30日、計画は見直され、期間は2028年3月まで延び、ROE8%以上を最終指標とする5つの目標が公表された。

そして2026年3月期に、ROEは12.9%、預り資産残高は1兆5,740億円で、いずれも2028年3月期の目標水準を上回っている。CX指標も2期続けて改善した。第95期から第104期までの10期で、ROEが8%を超えたのはこの期だけである。

編集部が中身を分解して確認したのは、この期のROE改善を本業の利益が支えているという点である。経常利益は10億3,600万円から32億5,900万円へ214.3%増え、その一方で投資有価証券売却益は22億4,700万円から14億1,100万円へ減った。ただし売却益は税金等調整前当期純利益の30.2%にあたり、利益への寄与は残っている。編集部の参考試算では、法定実効税率30.6%を売却益に一律適用して除いた場合のROEは約9.7%、期中平均自己資本を第102期末の水準と仮定した場合は約10.0%で、いずれも8%を上回る。

一方で、株式投信残高(目標の80.4%)とNISA口座残高(同94.9%)の2つは途上にある。純営業収益も、公式サイトが示す見通しの143億3,000万円に対して132億1,300万円である。目標年度までは2期ある。

今後の焦点として読み取れる点

1. 目標水準を上回った2項目をどう扱うか。ROEと預り資産残高は目標年度より2年早く目標水準に達した。2028年3月期までの残り2期で、目標を引き上げるのか、現在の水準の維持を目標に置き直すのかは、公開情報からは判断できない

2. 本業の伸びが続くかどうか。第104期の経常利益の伸びは、東証の1日平均売買代金が33.1%増えた市場環境のなかで生まれている。同社の株式の委託手数料の伸び(41.8%)が委託売買代金の伸び(国内20.1%・外国23.4%)を上回った要因は有価証券報告書から特定できず、市場環境が変わったときにどうなるかも読み取れる範囲を超える

3. 顧客側の2指標の詰め方。株式投信残高は残り982億円、NISA口座残高は残り53億円である。直近1年の増加額は779億円と283億円で、この水準が続けばNISA口座残高は次期に目標水準へ達する計算になる(編集部の試算)

4. CX指標をどこまで上げるか。この指標だけは到達水準ではなく毎期の改善が条件である。5.99から6.38まで2期で0.39上がっているが、上限や目安となる水準は公開情報には示されていない

参考情報

1. 東洋証券株式会社「第99期有価証券報告書」(2021年6月24日提出)

2. 東洋証券株式会社「第100期有価証券報告書」(2022年6月28日提出)

3. 東洋証券株式会社「第101期有価証券報告書」(2023年6月28日提出)

4. 東洋証券株式会社「第102期有価証券報告書」(2024年6月25日提出)

5. 東洋証券株式会社「第103期有価証券報告書」(2025年6月24日提出)

6. 東洋証券株式会社「第104期有価証券報告書」(2026年6月23日提出)

7. 東洋証券株式会社 公式サイト「経営者のご挨拶」

8. 東洋証券株式会社 公式サイト「株主・投資家の皆さまへ」

9. 東洋証券株式会社 公式サイト「中期経営計画」

10. 東洋証券株式会社 公式サイト「役員一覧」(2026年7月1日現在)

本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。