原 一将
代表取締役社長
3年先を下げ、6年先を上げた。

概要
マクニカホールディングス株式会社の代表取締役社長、原一将氏。2019年6月に社長へ就き、在任は7年3か月にあたる。
同社が2022年5月に公表した中期経営計画(2022〜2024年度)には、連結売上高9,700億円以上、連結営業利益480億円以上という目標が置かれていた。
結果を先に書くと、この目標は計画の1年目で達成された。2023年3月期の売上高は1兆293億円、営業利益は616億46百万円である。原氏自身が決算説明の場でこう述べている。
2024年度の経営数値目標を2年前倒しで達成することとなりました。
達成した同じ日に、目標は引き上げられた。売上高1兆2,000億円、営業利益670億円である。2年目も営業利益率は6.20%と、引き上げ後の目標(5.6%以上)を上回っている。
3年目は半導体市場の調整局面と重なった。同社は2024年5月に目標を1兆1,000億円・640億円へ置き直し、最終年度の実績は売上高1兆342億円・営業利益396億49百万円となった。
ここまでは、市況に沿って目標が動いた3年間である。編集部が注目したのはその先である。
目標を引き下げた2024年5月の翌月に提出された有価証券報告書で、2030年度の長期経営目標は引き上げられていた。売上高1.3兆円以上から2兆円以上へ、営業利益1,000億円以上から1,500億円以上へ。手前の3年の目標を下げた年に、6年先の目標は約1.5倍の水準に書き換えられている。
そして原氏は、3年間を単年ではなく累計で総括した。
最終年度は目標値に届かなかったものの、2019年度から2021年度の中期経営計画期間での連結当期純利益の累計に比べて、この2022年度から2024年度の累計金額は約2.7倍となる1,144億円まで増加しました。
編集部はこの1,144億円という数値を有価証券報告書で検算した。2023年3月期410億30百万円、2024年3月期480億69百万円、2025年3月期252億79百万円の合計は1,143億78百万円である。前の計画期間の3期合計423億6百万円に対して2.70倍にあたる。本人が述べた数値は、開示の数値と一致している。
3年先を下げ、6年先を上げた。これが編集部の読みである。
経歴
有価証券報告書(第11期・2026年6月23日提出)の「役員の状況」に記載された略歴は次のとおり。
| 時期 | 役職 |
|---|---|
| 1995年9月 | ㈱マクニカ入社 |
| 2007年4月 | 同社テクスター カンパニー第1営業統括部長 |
| 2011年4月 | 同社テクスター カンパニー プレジデント |
| 2018年4月 | 同社イノベーション戦略事業本部長 |
| 2018年6月 | 同社取締役 |
| 2019年6月 | 当社代表取締役社長(現任)/㈱マクニカ代表取締役社長(現任) |
生年月日は1971年10月18日。所有株式数は240,936株である。
編集部が略歴から読み取ったのは、事業の現場を通ってきた人物であるという点である。1995年に入社し、12年後の2007年に半導体を扱うカンパニーの営業統括部長、16年後の2011年に同カンパニーのプレジデントに就いている。事業会社の取締役になったのは2018年6月で、その1年後の2019年6月に持株会社の社長へ就いた。取締役就任から社長就任までの期間は1年である。
もう一点ある。原氏は持株会社の社長と、事業会社である株式会社マクニカの社長を兼ねている。有価証券報告書には「当社代表取締役社長(現任)」と「㈱マクニカ代表取締役社長(現任)」が並記されている。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | マクニカホールディングス株式会社(MACNICA HOLDINGS, INC.) |
| 証券コード | 3132(東京証券取引所 プライム市場) |
| 設立 | 2015年4月1日 |
| 業種 | 卸売業 |
| 連結子会社等 | 56社 |
| 従業員数 | 連結5,261名(2026年3月31日現在) |
| 売上高 | 1兆2,141億96百万円(2026年3月期・連結) |
| 営業利益 | 419億50百万円(同) |
| 経常利益 | 373億92百万円(同) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 277億65百万円(同) |
| 自己資本利益率(ROE) | 10.5%(同) |
同社は2015年4月1日に、株式会社マクニカと富士エレクトロニクス株式会社が共同株式移転の方法で経営統合し、両社を完全子会社とする共同持株会社として設立された。設立と同時に東京証券取引所市場第一部に上場している。商号がマクニカホールディングス株式会社になったのは2022年8月である。
事業は半導体事業、サイバーセキュリティ事業、CPSソリューション事業の3つで構成される。このうちサイバーセキュリティ事業は、2026年3月期に「ネットワーク事業」から「サイバーセキュリティ及びその他ITソリューション事業」へ名称が変更された。有価証券報告書には「本変更は名称変更のみであり、セグメントの区分、範囲、測定方法の変更はありません」と記されている。
人物の軌跡
答え合わせ①:3年の計画の目標は、1年目で達成された
中期経営計画(2022〜2024年度)は、2022年5月9日に公表された。目標は次のとおりである。
| 指標 | 2024年度目標(2022年5月9日発表) |
|---|---|
| 連結売上高 | 9,700億円以上 |
| 連結営業利益 | 480億円以上 |
| 連結営業利益率 | 5.0%以上 |
| 連結当期純利益 | 300億円以上 |
| 連結ROE | 15.0% |
| 運転資本回転率 | 3.8回以上 |
初年度にあたる2022年度(2023年3月期)の実績は、売上高1兆293億円、営業利益616億46百万円、当期純利益410億30百万円、ROE22.2%である。売上高は前年比35.1%増、営業利益は同67.9%増だった。
3年後の目標として置かれた数値のうち、売上高・営業利益・当期純利益・ROEの4指標を、1年目の実績がいずれも上回っている(運転資本回転率の2022年度の実績は、編集部が確認した資料では確認できていない)。原氏はこれを「2年前倒しで達成」と表現した。
なお同社の有価証券報告書には、この初年度の状況について「旺盛な半導体需要と為替が円安水準で推移したことなどから、集積回路及び電子デバイスその他事業において想定を上回る成長を実現し」と記されている。
答え合わせ②:達成した同じ日に、目標は引き上げられた
目標の修正が発表されたのは2023年5月8日、2023年3月期の決算説明の場である。第2部に登壇した原氏は次のように述べている。
このような事業環境を勘案し、2024年度の経営数値目標を連結売上高1兆2,000億円に上方修正します。売上高の成長に加え、新システムを有効に活用し、効率化を進めることで、5.6パーセント以上の連結営業利益率と連結営業利益670億円を目標とします。
修正の内容は有価証券報告書(第8期)にも表として掲載されている。
| 指標 | 当初(2022年5月9日発表) | 修正(2023年5月8日発表) |
|---|---|---|
| 連結売上高 | 9,700億円以上 | 1.2兆円以上 |
| 連結営業利益 | 480億円以上 | 670億円以上 |
| 連結営業利益率 | 5.0%以上 | 5.6%以上 |
| 連結当期純利益 | 300億円以上 | 500億円以上 |
| 連結ROE | 15.0% | 15.0%以上 |
| 運転資本回転率 | 3.8回以上 | 3.8回以上 |
売上高は約24%、営業利益は約40%、当期純利益は約67%の引き上げにあたる。ROEと運転資本回転率は据え置かれている。
原氏はこの日の説明をこう締めくくっている。
まずは本日ご説明した中期経営計画における目標を確実に達成し、一歩一歩着実に前進していきますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
答え合わせ③:2年目の営業利益率は、最終年度の目標として置かれた水準を超えていた
2023年度(2024年3月期)の実績は、売上高1兆287億円、営業利益637億33百万円、当期純利益480億69百万円、ROE21.6%である。
編集部が有価証券報告書の数値から計算した営業利益率は次のとおり。
| 年度 | 決算年月 | 営業利益率(編集部計算) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2022年度 | 2023年3月期 | 5.99% | 目標の引き上げ(2023年5月8日)はこの年度の実績を受けて行われた |
| 2023年度 | 2024年3月期 | 6.20% | 最終年度の目標として置かれた5.6%以上を超える水準 |
※各期の有価証券報告書に記載された営業利益を売上高で除して算出した。5.6%以上は2024年度(最終年度)に対する目標であり、上表は途中年度の実績をその水準と比べたものである。
引き上げ後の5.6%以上という水準を、2年目の時点ですでに超えていた。当期純利益480億69百万円も、最終年度の目標として置かれた500億円に対して96.1%の水準にあった。
答え合わせ④:3年目の直前に、目標は置き直された
2024年5月7日、2024年3月期の決算説明の場で、目標は再び修正された。原氏の説明は次のとおりである。
2022年度から2024年度の中期経営計画の状況についてご説明します。はじめに、中期経営計画の修正についてご説明します。(中略)当初の中期経営計画は、半導体事業の想定を上回る成長により、2年前に前倒しで達成できました。
こちらを受け、2023年5月に上方修正しました。しかし、不安定な国際情勢や中国経済の低迷、米中貿易摩擦などの影響により、今年度の見通しは不透明な状況です。このような中で、半導体事業は国内シェアの拡大は見込んでいるものの、年度下期から引き続き市場の調整局面が継続するという事業環境を勘案し、修正しました。
修正後の数値は有価証券報告書(第9期)に記載されている。
| 指標 | 2023年5月8日発表 | 2024年5月7日発表 |
|---|---|---|
| 連結売上高 | 1.2兆円以上 | 1.1兆円 |
| 連結営業利益 | 670億円以上 | 640億円 |
| 連結営業利益率 | 5.6%以上 | 5.8% |
| 連結当期純利益 | 500億円以上 | 420億円 |
| 連結ROE | 15.0%以上 | 15.0%以上 |
| 運転資本回転率 | 3.8回以上 | 3.8回以上 |
ここで目を引くのは、営業利益率だけが5.6%以上から5.8%へ上がっている点である。売上高と営業利益の絶対額は下がり、率は上がった。売上高1.1兆円・営業利益640億円で計算すると5.82%にあたる。
同じ日の説明で、原氏は市場での位置についても触れている。
左側の棒グラフは、弊社の日本国内シェアの推移です。2021年までは10パーセント強のシェアで推移していましたが、直近の3年間で12.8パーセントから22パーセントへ大きく伸ばすことができました。
右側の円グラフのとおり、ワールドワイドシェアは3.5パーセントまで上昇し、世界で5位のポジションを確立しています。
※国内シェアは調査会社Gartner社による国内半導体商社市場の分析にもとづく数値で、暦年ベースである。同社は後述のとおり年度ベースの数値も示している。
答え合わせ⑤:最終年度の実績は、置き直した目標の水準には届かなかった
2024年度(2025年3月期)の実績は次のとおりである。
| 指標 | 2024年5月7日発表の目標 | 2025年3月期実績 | 達成率(編集部計算) |
|---|---|---|---|
| 連結売上高 | 1.1兆円 | 1兆342億円 | 94.0% |
| 連結営業利益 | 640億円 | 396億49百万円 | 62.0% |
| 連結当期純利益 | 420億円 | 252億79百万円 | 60.2% |
| 連結ROE | 15.0%以上 | 10.2% | ― |
| 運転資本回転率 | 3.8回以上 | 3.4 | ― |
売上高は3期を通じて1兆円台を保っている。利益面については、2025年5月7日の決算説明で取締役の大河原誠氏が「半導体事業については、当社の主力である産業機器向けの弱さが年度を通じて続いており、これが足を引っ張って大幅な減益となりました。こちらは収益率が高い分野のため、この減少は売上以上に利益に影響して、利益率が下がっています」と説明している。
この年度については、期中にもう一段の修正がある。2025年5月7日の決算説明で、取締役の大河原誠氏はこう述べている。
まず連結全体では、売上高が1兆342億円、営業利益が396億円と、前年に比べて若干の増収ではあるものの、大幅な減益となりました。直近の計画では営業利益を445億円としていましたが、遺憾ながらこれに対しては未達となりました。
運転資本回転率について、原氏は次のように述べている。
運転資本回転率に関しては、在庫調整局面の影響で目標である3.8に対して3.4という結果となりましたが、継続した課題として取り組んでいきます。
答え合わせ⑥:目標を下げた時期に、2030年度の目標は上がっていた
編集部は、同社の有価証券報告書4期分で「長期経営目標」の記載を突き合わせた。結果は次のとおりである。
| 有価証券報告書 | 提出日 | 2030年度の長期経営目標 |
|---|---|---|
| 第8期 | 2023年6月28日 | 連結売上高1.3兆円以上・連結営業利益1,000億円以上・営業利益率7.5%以上・ROE15.0%以上 |
| 第9期 | 2024年6月26日 | 連結売上高2兆円以上・連結営業利益1,500億円以上・営業利益率7.5%以上・ROE15.0%以上 |
| 第10期 | 2025年6月25日 | 連結売上高2兆円・連結営業利益1,500億円・営業利益率7.5%・ROE15.0% |
| 第11期 | 2026年6月23日 | 同上 |
2030年度の売上目標が1.3兆円以上から2兆円以上へ、営業利益が1,000億円以上から1,500億円以上へ変わったのは、第9期(2024年6月26日提出)の有価証券報告書である。中期経営計画の目標を置き直した2024年5月7日の、翌月にあたる。
ただし、この変更がいつ決められたかは、編集部が確認した資料では特定できない。有価証券報告書の上で言えるのは、第8期(2023年6月28日提出)と第9期(2024年6月26日提出)の間に変わった、ということである。
手前の3年の目標を1兆1,000億円へ下げた年に、6年先の目標は2兆円へ上がっている。
また、編集部が確認した範囲では、2024年5月7日の決算説明の書き起こしに長期目標の数値を引き上げたという説明はない。同じ日の締めくくりは「今年度は、中期経営計画の最終年度となります。目標を達成し、ビジョン2030に向けて着実に前進していく所存です」というものだった。
新しい数値が本人の言葉で説明されているのを編集部が確認できた最も早い記録は、2024年10月11日の統合報告書に関する説明会である。
経済的価値については、2030年の目標数値として、売上高2兆円以上、営業利益1,500億円以上、営業利益率7.5パーセント以上、そしてROE15パーセント以上の実現を目指しています。
そして2025年5月7日、新しい中期経営計画(2025〜2027年度)の目標として原氏が示した数値は、売上高1兆4,000億円、営業利益800億円、営業利益率5.7%、ROE15%である。この1兆4,000億円は、引き上げ前の長期目標(2030年度1.3兆円以上)をすでに上回る水準にあたる。
答え合わせ⑦:3年間を、単年ではなく累計で総括している
2025年5月7日、原氏は前の中期経営計画の結果を次のように総括した。
スライドのとおり、この中期経営計画期間では売上高1兆円を超える大きな成長となりました。また、最終年度は目標値に届かなかったものの、2019年度から2021年度の中期経営計画期間での連結当期純利益の累計に比べて、この2022年度から2024年度の累計金額は約2.7倍となる1,144億円まで増加しました。
中期経営計画期間の後半は市場が調整局面に入ったものの、3年間の営業利益の総額で見ると2019年度から2021年度の累計442億円に対し、2022年度から2024年度の累計は約3倍の1,383億円と、全体的には大きく収益を上げることができました。
編集部はこの2つの数値を有価証券報告書で検算した。
連結当期純利益の累計
| 年度 | 決算年月 | 当期純利益 |
|---|---|---|
| 2022年度 | 2023年3月期 | 410億30百万円 |
| 2023年度 | 2024年3月期 | 480億69百万円 |
| 2024年度 | 2025年3月期 | 252億79百万円 |
| 合計 | 1,143億78百万円 |
前の計画期間(2019〜2021年度)の合計は、56億33百万円・108億75百万円・257億98百万円で423億6百万円である。1,143億78百万円はこの2.70倍にあたる。
半導体事業の営業利益の累計
原氏が述べた1,383億円は、半導体事業についての振り返りの中で示された数値である。各期の有価証券報告書に記載された同事業のセグメント営業利益は、553億29百万円、566億55百万円、263億28百万円で、合計は1,383億12百万円となる。
本人が述べた「1,144億円」「1,383億円」「約2.7倍」は、いずれも開示の数値と一致している。
このほか、この日の総括では次の数値が示されている。
- 半導体事業の国内市場シェアは2021年度の約13%から2024年度には20%へ(約7ポイントの拡大)※こちらは年度ベースの数値で、答え合わせ④に引用した暦年ベースの数値とは基準が異なる
- ネットワーク事業は3年間のCAGR約23%、売上高1,539億円
- CPSソリューション事業は「売上目標の120億円は未達となったものの、2021年度比で2倍以上となる93億円まで伸ばすことができました」
- 海外の進出国は2021年度の9カ国から2024年度の22カ国へ
IR活動については、次のように述べている。
投資家のみなさまとの対話の機会を3倍以上に増やしました。私自身も、年間100件を超える投資家さまとの面談を実施しました。
答え合わせ⑧:新しい計画の1年目に、半導体事業の売上高は初めて1兆円を超えた
新しい中期経営計画(2025〜2027年度)の1年目にあたる2026年3月期の実績は、売上高1兆2,141億96百万円(前期比17.4%増)、営業利益419億50百万円(同5.8%増)である。売上高は3期続いた1兆円台から一段上がった。
有価証券報告書の報告セグメント別の実績は次のとおり。
| 報告セグメント | 売上高 | 前期比 | 営業利益 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 集積回路及び電子デバイスその他事業 | 1兆400億45百万円 | +18.2% | 247億35百万円 | △6.1% |
| サイバーセキュリティ及びその他ITソリューション事業 | 1,742億30百万円 | +13.2% | 172億13百万円 | +29.2% |
この集積回路及び電子デバイスその他事業(半導体事業)の売上高は、有価証券報告書によれば2023年3月期9,290億20百万円、2024年3月期9,078億3百万円、2025年3月期8,802億42百万円と推移していた。1兆円台に乗ったのは2026年3月期が最初である。
同社は営業利益が前期比6.1%減となった理由について、有価証券報告書で「比較的利益率の低い海外の売上高比率が高まったこと及び新規事業への中長期的な事業拡大を目的とした投資による販管費の増加により」と説明している。
2026年5月11日の決算説明で、原氏は事業別の数値を次のように示した。
事業別の実績と計画です。半導体事業は2025年度に売上1兆円を超え、2026年度は1兆880億円を計画しています。営業利益は2025年度の325億円に対し、2026年度は375億円を見込んでいます。
結果として、グループ連結では2026年度の売上を1兆3,000億円、営業利益を520億円と計画し、中期経営計画最終年の目標に向けて着実に取り組んでいきます。
※この事業別の数値は、原氏が「報告セグメントの数字とは異なっています」と注記しているとおり、CPSソリューション事業を切り出して重複なく示したものである。編集部が確認したところ、半導体事業の325億円からCPSソリューション事業の営業損失79億円を差し引くと246億円となり、有価証券報告書の報告セグメントの247億35百万円とほぼ一致する。
新しい計画の目標に対する1年目の位置を実績で見ると、売上高は1兆4,000億円に対する86.7%、営業利益は800億円に対する52.4%にあたる。会社が示した2026年度の計画値(営業利益520億円)で見ると65.0%の水準になる。
経営哲学
目標を、市況に合わせて動かしている
3年の計画期間に、目標は2回修正された。2023年5月の引き上げと、2024年5月の置き直しである。いずれも修正の理由が決算説明の場で説明され、修正前後の数値を並べた表が有価証券報告書に掲載されている。
同社の有価証券報告書は、修正のたびに「○年○月○日発表」という日付を付けた2列の比較表を載せている。当初の数値を消さずに残す形式である。
手前の目標と、長期の目標を分けて扱っている
中期経営計画の目標が引き下げられた時期に、2030年度の長期経営目標は引き上げられた。同社の長期経営構想は、2022年度から2030年度までを3つの中期経営計画に区切る形をとっている。原氏は2025年5月7日にこう説明している。
この長期経営目標を、2022年度から2030年度までの3つの中期経営計画により達成していこうという構想です。今中期経営計画は、その真ん中の中期経営計画に当たります。
3年の計画は市況に合わせて動かし、9年の構想は据えたまま水準を上げる。目標の扱いが2層に分かれている。
市場での位置を、外部のデータで示す
原氏の説明には、自社の数値だけでなく市場での位置を示す外部データがしばしば用いられる。2024年10月11日の説明では次のように述べている。
左の表は世界の半導体市場の約80パーセントを占めるTOP21社の半導体メーカーを記載しています。ご覧のとおり、当社はこれら世界のTOP企業のうち、16社と代理店契約を締結しています。
右のグラフは、半導体商社における国内とグローバルでのシェアを表していますが、当社は国内シェア第1位、グローバルシェア第5位のポジションを確立しています。
国内シェアの推移については、調査会社Gartner社による国内半導体商社市場の分析が用いられている。
累計で見る
最終年度の結果について、原氏は「最終年度は目標値に届かなかったものの」と述べたうえで、3年間の累計の数値を示している。単年の増減ではなく、計画期間全体で前の期間と比べる見方である。
前述のとおり、この総括で示された数値は開示の数値と一致していた。
自ら投資家と会っている
「私自身も、年間100件を超える投資家さまとの面談を実施しました」(2025年5月7日)、「私自身も昨年度は100件を超える投資家面談に出席し、自ら株主・投資家のみなさまと対話をしたことで、多くの気づきが得られました」(2024年10月11日)と、2つの場で同じ内容を述べている。
同社は3年間のIR活動の成果として、決算短信と適時開示の日英同時開示を東証のルール変更より1年前倒しで実施したこと、統合報告書を2023年度から毎年発行していることを挙げている。
人物像
リーダーシップタイプ
目標を公開の場で動かし、その理由を自分で説明する型。
3年の計画期間に目標を2回修正し、いずれも決算説明の場で本人が理由を述べている。引き上げのときは「2年前倒しで達成することとなりました」、置き直しのときは「事業環境を勘案し、修正しました」と、判断の根拠を市況に置いて説明している。
一方で、同じ年に提出された有価証券報告書では、6年先の目標は逆方向に動いている。手前の見通しと長期の構想を分けて扱う姿勢が、目標の動かし方に表れている。
強み・特徴(編集部分析)
| 特徴 | 根拠 |
|---|---|
| 事業の現場を通ってきた | 1995年入社、2007年営業統括部長、2011年カンパニープレジデント、2018年取締役、2019年社長 |
| 持株会社と事業会社の社長を兼ねる | 有価証券報告書に「当社代表取締役社長(現任)」「㈱マクニカ代表取締役社長(現任)」と並記 |
| 数値を累計で示す | 2025年5月7日の総括で3年累計の当期純利益・営業利益を提示。いずれも開示と一致 |
| 市場での位置を外部データで示す | Gartner社の国内半導体商社市場の分析、世界TOP21社中16社との代理店契約などを説明に用いる |
| 自ら投資家と会う | 年間100件超の投資家面談を2つの場で言及 |
発言・記載と実績の対応
| 時期 | 発言・記載 | 対応する実績 |
|---|---|---|
| 2022年5月9日 | 中期経営計画 売上高9,700億円以上・営業利益480億円以上 | 2023年3月期に売上高1兆293億円・営業利益616億46百万円で達成 |
| 2023年5月8日 | 「連結売上高1兆2,000億円に上方修正します」 | 目標年度である2024年度(2025年3月期)の売上高は1兆342億円 |
| 2024年5月7日 | 「事業環境を勘案し、修正しました」(1.1兆円・640億円へ) | 2025年3月期は売上高1兆342億円・営業利益396億49百万円 |
| 2024年6月26日 | 有価証券報告書の長期経営目標が2兆円以上・1,500億円以上に | 2026年3月期の売上高は1兆2,141億96百万円 |
| 2025年5月7日 | 「約2.7倍となる1,144億円まで増加しました」 | 有価証券報告書の3期合計1,143億78百万円と一致 |
| 2026年5月11日 | 2026年度の計画 売上高1兆3,000億円・営業利益520億円 | 2027年3月期第1四半期の売上高は前年同期比39.7%増 |
編集部総評
原一将氏が2019年6月に社長へ就いてから、同社の売上高は2019年3月期の5,242億円から2026年3月期の1兆2,141億96百万円へ、2.32倍になった。連結従業員数は、編集部が確認できた最も早い2021年3月期の3,513名から2026年3月期の5,261名へ、1.50倍である。
この7年のうち、中期経営計画(2022〜2024年度)の3年間は、中期経営計画の目標が2回修正され、最終年度には期中の業績予想も修正された3年間だった。2023年5月の引き上げ、2024年5月の置き直し、そして最終年度の期中の修正である。
編集部が注目したのは、目標の動かし方が2層に分かれている点である。手前の3年の目標は市況に合わせて下げ、同じ年に提出された有価証券報告書では6年先の2030年度の目標が1.3兆円以上から2兆円以上へ引き上げられている。前者は決算説明の場で本人が理由を述べ、後者は有価証券報告書の記載として現れた。
指標の推移を見ると、営業利益率は途中年度の2023年度に6.20%と、最終年度の目標として置かれた5.6%以上を超える水準にあった。目標年度である2024年度は3.83%である。
総括の仕方にも特徴がある。原氏は最終年度の結果を単年で説明したうえで、3年間の累計を前の計画期間と比べる形をとった。そこで示された連結当期純利益1,144億円と半導体事業の営業利益1,383億円は、いずれも有価証券報告書の数値と一致していた。編集部が検算したこの3つの数値(1,144億円・1,383億円・約2.7倍)については、公開の場で述べた内容が開示と突き合わせて検証できるというのが、編集部が確認した事実である。
新しい中期経営計画(2025〜2027年度)の1年目にあたる2026年3月期は、売上高が1兆2,141億96百万円と前期比17.4%増になり、半導体事業の売上高は初めて1兆円を超えた。一方で営業利益は419億50百万円(同5.8%増)で、営業利益率は3.45%である。目標の5.7%との差は、残る2年の焦点になる。
今後の焦点として読み取れる点
1. 営業利益率の水準。新しい計画の目標は5.7%で、2026年3月期の実績は3.45%である。売上高は目標1兆4,000億円に対して86.7%の水準まで来ている一方、率の回復が課題として残る
2. CPSソリューション事業の損益。2026年3月期の営業損失は79億円で、同社は2026年度に56億円まで縮める計画を示している。2027年3月期第1四半期の営業損失は26億円で、前年同期から7億円拡大した。自治体向けの自動運転EVバスの導入が遅れているためと説明されている
3. 2030年度の目標との距離。引き上げ後の長期経営目標は売上高2兆円・営業利益1,500億円である。2026年3月期の実績はそれぞれ60.7%、28.0%の水準にあたる
参考情報
出典
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 有価証券報告書 第11期(2026年3月期・2026年6月23日提出) | 役員の状況、長期経営目標、新中期経営計画、セグメント別実績 |
| 有価証券報告書 第10期(2025年3月期・2025年6月25日提出) | 主要な経営指標等の推移、最終年度の実績 |
| 有価証券報告書 第9期(2024年3月期・2024年6月26日提出) | 中期経営計画の修正(2024年5月7日発表)、長期経営目標の引き上げ |
| 有価証券報告書 第8期(2023年3月期・2023年6月28日提出) | 中期経営計画の当初目標と上方修正、引き上げ前の長期経営目標 |
| ログミーファイナンス「2023年3月期決算説明」(2023年5月8日開催) | 上方修正についての本人発言 |
| ログミーファイナンス「2024年3月期決算説明」(2024年5月7日開催) | 修正についての本人発言、国内シェア |
| ログミーファイナンス「2025年3月期決算説明」(2025年5月7日開催) | 3年間の総括、新中期経営計画、長期経営目標 |
| ログミーファイナンス「2026年3月期決算説明」(2026年5月11日開催) | 新中期経営計画の1年目の実績と2026年度の計画 |
| ログミーファイナンス「2027年3月期第1四半期決算説明」(2026年7月27日開催) | 第1四半期の実績 |
| ログミーファイナンス「よくわかる マクニカのしくみ」(2024年10月11日開催) | 長期経営目標、市場での位置、投資家面談 |
注記
- 本記事の数値は、特記のない限り各期の有価証券報告書による
- 営業利益率・達成率・累計・倍率のうち「編集部計算」と記した数値は、有価証券報告書の数値から編集部が算出した
- 発言の引用は、話者名が明記された書き起こしから本人の発言のみを採った。ログミーファイナンスの決算説明の書き起こしのうち、2024年5月7日・2025年5月7日・2026年5月11日・2026年7月27日・2024年10月11日の各回には「提供:マクニカホールディングス株式会社」の表記がある
- 2027年3月期第1四半期決算説明(2026年7月27日開催)に原氏の発言はなく、本記事では取締役の大河原誠氏の説明として扱った
- 2024年10月1日付で普通株式1株につき3株の株式分割が行われている。本記事では1株当たりの数値を用いていない



