竹内 啓
代表取締役 社長執行役員 CEO
20%は達成し、7%は書かれなかった。

概要
大東建託株式会社の代表取締役社長執行役員CEO、竹内啓氏。2023年4月に社長へ就き、在任は3年5か月にあたる。
同社の有価証券報告書には「目標とする経営指標」という短い欄がある。そこには少なくとも2019年3月期から2025年3月期までの7期にわたって、同じ2つの指標が並んでいた。「売上高営業利益率7%以上」と「ROE(自己資本当期純利益率)20%」である。
2026年3月期、ROEは20.45%となった。そして2026年6月25日に提出された有価証券報告書には、この7期で初めての表現が現れる。
当期においては、ROE20.5%となり目標とする経営指標を達成しました。
いっぽう、同じ有価証券報告書には「売上高営業利益率」という語が1か所も出てこない。編集部が全文を検索した結果、該当は0件だった。実績は6.815%(営業利益1,352億56百万円÷売上高1兆9,847億43百万円・編集部計算)で、7%には届いていない。
7期並んでいた2つの目標のうち、届いた側だけが「達成しました」と書かれ、届かなかった側は書かれなかった。
編集部がその背景として注目したのは、竹内氏が統合報告書2026のトップメッセージに自ら書いた次の言葉である。
計画策定時に掲げた数値目標は、売上高2兆円、営業利益1,400億円、ROE20%で、特に重視したのは売上高でした。
さらに、その売上高の目標は引き上げられた。
最終年度に入るにあたり、現場のコンセンサスを得たうえで、売上高目標を2兆500億円に引き上げました。
引き上げ後の数値(売上高2兆500億円・営業利益1,420億円)を割ると、営業利益率は6.927%になる。当初の数値(2兆円・1,400億円)はちょうど7.00%だった。
20%は達成し、7%は書かれなかった。これが編集部の読みである。
経歴
有価証券報告書(第52期・2026年6月25日提出)の「役員の状況」および同社公式サイトの役員一覧に記載された略歴は次のとおり。
| 時期 | 役職 |
|---|---|
| 1989年4月 | 当社入社 |
| 2007年4月 | 首都圏営業部長 |
| 2010年4月 | 東海営業部長 |
| 2012年4月 | 執行役員 テナント営業統括部長 |
| 2014年6月 | 取締役 執行役員 テナント営業統括部長 |
| 2015年4月 | 取締役 執行役員 中日本建築事業本部長 |
| 2016年4月 | 取締役 中日本建築事業本部長 |
| 2017年4月 | 取締役 不動産事業本部長 |
| 2018年4月 | 常務取締役 不動産事業本部長 |
| 2020年4月 | 常務取締役 西日本建築事業本部長 |
| 2021年4月 | 常務取締役 建築事業本部長 |
| 2023年4月 | 代表取締役社長 執行役員 建築事業本部長 |
| 2024年4月 | 代表取締役社長 執行役員 CEO 兼 建築事業本部長 |
| 2026年4月 | 代表取締役 社長執行役員 CEO 兼 建築事業本部長 兼 東京建築開発事業本部長(現) |
1965年11月29日生まれ。1989年に入社し、営業と建築の現場を歩いてきた。首都圏営業部長・東海営業部長、テナント営業統括部長、中日本建築事業本部長、西日本建築事業本部長を経て、2021年4月に建築事業本部長となり、その2年後に社長へ就いている。
🔑社長就任とCEO就任が1年ずれている。2023年4月に代表取締役社長となり、CEOの肩書が加わるのは2024年4月である。
🔑社長になったあとも建築事業本部長を兼務し続けている。2026年4月からは東京建築開発事業本部長も兼ねる。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 大東建託株式会社(Daito Trust Construction Co., Ltd.) |
| 証券コード | 1878(東京証券取引所 プライム市場) |
| 決算期 | 3月31日 |
| 本店 | 東京都港区港南二丁目16番1号 |
| 設立 | 1974年6月(名古屋市千種区・大東産業株式会社・資本金100万円) |
| 資本金 | 290億60百万円 |
| 報告セグメント | 建設事業/不動産賃貸事業/不動産開発事業/金融事業/その他 |
| 従業員数 | 連結19,326名(2026年3月31日現在・平均臨時雇用人員4,330名は外数) |
| 売上高 | 1兆9,847億43百万円(2026年3月期・連結) |
| 営業利益 | 1,352億56百万円(同) |
| 経常利益 | 1,391億69百万円(同) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 990億30百万円(同) |
| 自己資本利益率(ROE) | 20.45%(同) |
事業は5つの報告セグメントに分かれる。2026年3月期の内訳は、建設事業が完成工事高5,442億83百万円(前年同期比0.6%増)・営業利益451億48百万円(同4.2%減)、不動産賃貸事業が売上高1兆2,030億91百万円(同3.3%増)・営業利益855億54百万円(同6.5%増)、不動産開発事業が売上高1,470億83百万円(同186.5%増)・営業利益185億35百万円(同259.8%増)、金融事業が売上高128億8百万円(同5.1%増)・営業利益63億86百万円(同4.5%減)、その他が売上高774億75百万円(同5.8%増)・営業利益131億33百万円(同0.5%減)である。
売上高の約6割を占めるのは不動産賃貸事業で、これは「賃貸経営受託システム」による一括借上物件の家賃収入を中心とする。
人物の軌跡
答え合わせ①:有価証券報告書の目標欄には、7期にわたって2つの指標が並んでいた
同社の有価証券報告書には「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」のなかに「(2) 目標とする経営指標」という欄がある。編集部が第45期(2019年6月提出)から第52期(2026年6月提出)までの8期分を確認した結果、第51期までは一貫して同じ文面だった。
当社グループは、「売上高営業利益率7%以上」「ROE(自己資本当期純利益率)20%」を確保することを重要な経営指標目標として定めています。
その欄に併記された各期の実績は次のとおりである。
| 有価証券報告書 | 決算期 | 売上高営業利益率 | ROE |
|---|---|---|---|
| 第45期 | 2019年3月 | 8.0% | 29.8% |
| 第46期 | 2020年3月 | 8.1% | 30.6% |
| 第47期 | 2021年3月 | 5.8% | 20.9% |
| 第48期 | 2022年3月 | 6.3% | 20.1% |
| 第49期 | 2023年3月 | 6.0% | 18.2% |
| 第50期 | 2024年3月 | 6.1% | 18.4% |
| 第51期 | 2025年3月 | 6.5% | 21.5% |
| 第52期 | 2026年3月 | 記載なし(編集部計算6.8%) | 20.5% |
※営業利益率とROEは、各期の有価証券報告書の「目標とする経営指標」の欄に会社が記載した数値である。2026年3月期の営業利益率のみ、記載がないため編集部が算出した。
2019年3月期と2020年3月期は8%台で、「7%以上」を満たしていた。2021年3月期に5.8%となり、以後は6%台で推移している。
竹内氏が社長に就いたのは2023年4月で、第50期(2024年3月期)から社長としての期にあたる。
答え合わせ②:ROE20%は達成した。そして初めて「達成しました」と書かれた
2026年3月期のROEは20.45%となり、目標の20%を上回った。第52期の有価証券報告書にはこう書かれている。
当社グループは、「ROE(自己資本当期純利益率)20%」の達成を重要な経営指標として定めています。当期においては、ROE20.5%となり目標とする経営指標を達成しました。
編集部が注目したのは、この「達成しました」という書き方が、確認した8期のなかで初めて現れたことである。
ROEが20%を上回った期は、これが最初ではない。2019年3月期は29.8%、2020年3月期は30.6%、2021年3月期は20.9%、2022年3月期は20.1%、そして前期の2025年3月期は21.5%で、いずれも20%を超えている。しかしその5期の書き方は「となっています」であって、「達成しました」ではなかった。
| 決算期 | ROE | 有価証券報告書の書き方 |
|---|---|---|
| 2022年3月 | 20.1% | 「売上高営業利益率6.3%、ROE20.1%となっています」 |
| 2025年3月 | 21.5% | 「売上高営業利益率6.5%、ROE21.5%となっています」 |
| 2026年3月 | 20.5% | 「ROE20.5%となり目標とする経営指標を達成しました」 |
前期の2025年3月期はROE21.5%で、2026年3月期の20.45%より高い。それでも「達成しました」とは書かれていない。違いは、隣に並んでいた指標である。2022年3月期と2025年3月期の文には、ROEの隣に未達の営業利益率(6.3%・6.5%)が置かれていた。2026年3月期の文には、ROEだけが書かれている。
答え合わせ③:売上高営業利益率7%以上は、6期続けて届かなかった
営業利益率の実績は、2021年3月期から2026年3月期まで6期にわたって7%を下回っている。2026年3月期は編集部の計算で6.815%だった。
- 営業利益 135,256百万円 ÷ 売上高 1,984,743百万円 = 6.815%
この計算方法が会社の表記と同じものであることは、過去の期で確認できる。
| 決算期 | 編集部計算 | 有価証券報告書の表記 |
|---|---|---|
| 2019年3月 | 7.985% | 8.0% |
| 2020年3月 | 8.066% | 8.1% |
| 2025年3月 | 6.452% | 6.5% |
同じ計算で2026年3月期を出すと6.815%となり、会社の表記に合わせれば6.8%にあたる。7%には0.2ポイント届いていない。
なお、水準そのものは改善している。2023年3月期の6.0%から、6.1%(2024年3月期)、6.5%(2025年3月期)、6.8%(2026年3月期)と3期続けて上がっており、2021年3月期の5.8%からは1.0ポイント回復した。
答え合わせ④:最新の有価証券報告書に、その目標は書かれていない
第52期の有価証券報告書には、「売上高営業利益率」という語が1か所も出てこない。編集部が全文を検索した結果、該当は0件だった。「営業利益率」という語も同様である。7期にわたって置かれていた「売上高営業利益率7%以上」は、この期の目標欄から外れている。
🔑ただし、収益性という方向そのものは残っている。同じ有価証券報告書には、当期の取り組みとしてこう書かれている。
建設事業における受注確保と収益性の向上、不動産賃貸事業におけるストック収益の拡大と入居率の維持向上、さらに注力分野である不動産開発事業の強化・拡大に取り組みました。
なくなったのは「7%以上」という数値の目標であって、収益性を高めるという方針ではない。
🚨会社はこの記載がなくなった理由を説明していない。有価証券報告書にも、決算説明会資料にも、統合報告書にも、その説明は見当たらなかった。以下は編集部の読みである。
答え合わせ⑤:本人が「特に重視した」のは売上高だった
竹内氏は社長就任の翌年度を始期とする中期経営計画(2024年度〜2026年度)を策定している。第49期(2023年6月提出=就任の2か月後)の有価証券報告書には中期経営計画の記載が実質的になく、第50期(2024年6月提出)に「2024年度を始期とする新たな3ヵ年計画を策定しました」と書かれた。計画は竹内氏が社長1年目に作ったものである。
その計画の数値目標について、竹内氏は統合報告書2026のトップメッセージでこう書いている。
本年、2026年度は中期経営計画最終年度です。計画策定時に掲げた数値目標は、売上高2兆円、営業利益1,400億円、ROE20%で、特に重視したのは売上高でした。"簡単ではないが、努力次第で到達可能な水準"を狙って設定した目標であり、何より「2兆円企業になる」というインパクトは、社員の挑戦意欲を高めるうえでも大きな意味を持つという考えがありました。
3つの数値のうち、本人が「特に重視した」と書いているのは売上高である。同じページの見出しには、本人の言葉としてこう掲げられている。
「2兆円企業」という大きな目標をグループ全体で共有し、同じベクトルで走り続ける。
答え合わせ⑥:引き上げた目標が示す営業利益率は、6.93%になる
2026年3月期の売上高は1兆9,847億43百万円となり、2兆円の目標に対して残りは152億57百万円となった。ここで目標が引き上げられる。
しかし、この大きな目標を共有し、グループ全体で同じベクトルで走り続けた結果、2026年3月期の売上高は1兆9,847億円となり、目標達成が視野に入ってきています。そこで、もう一勝負です。最終年度に入るにあたり、現場のコンセンサスを得たうえで、売上高目標を2兆500億円に引き上げました。「一つ乗り越えたら、次の挑戦へ。」
会社は決算説明会資料に、当初の目標と引き上げ後の目標を並べて示している。
| 項目 | 当初目標 | 現在の目標 |
|---|---|---|
| 売上 | 2兆円 | 2兆500億円 |
| 営業利益 | 1,400億円 | 1,420億円 |
| ROE | 20% | 20%(変更なし) |
この2組の数値を割ると、次のようになる。
- 当初の目標=1,400億円 ÷ 2兆円 = 7.00%
- 現在の目標=1,420億円 ÷ 2兆500億円 = 6.927%
🔑当初の目標はちょうど7.00%で、7期並んでいた「売上高営業利益率7%以上」と整合していた。引き上げ後の目標は6.93%で、7%を下回る。その有価証券報告書から「7%以上」の記載がなくなっている。
🚨2点を補足しておく。第一に、中期経営計画の数値目標に営業利益率は含まれていない。「売上高営業利益率7%以上」は有価証券報告書の「目標とする経営指標」の欄に置かれていた別の指標である。第二に、本人が引き上げを説明しているのは売上高だけで、営業利益の目標も1,400億円から1,420億円へ上がっているが、その点についての本人の言葉は見当たらなかった。
答え合わせ⑦:利益は6年ぶりの最高となり、配当性向50%も達成している
竹内氏は同じトップメッセージで、当期の業績についてこう書いている。
変化に順応するマインドの浸透は、2026年3月期に6年ぶりの最高益を達成できた大きな要因だと考えています。
編集部が有価証券報告書9期分で確認した結果は次のとおりである。
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2019年3月 | 1兆5,911億78百万円 | 1,270億47百万円 | 1,322億40百万円 | 899億30百万円 |
| 2020年3月 | 1兆5,862億93百万円 | 1,279億56百万円 | 1,330億28百万円 | 903億80百万円 |
| 2021年3月 | 1兆4,889億15百万円 | 867億38百万円 | 906億7百万円 | 622億85百万円 |
| 2022年3月 | 1兆5,830億3百万円 | 995億94百万円 | 1,036億71百万円 | 695億80百万円 |
| 2023年3月 | 1兆6,576億26百万円 | 1,000億円 | 1,038億98百万円 | 703億61百万円 |
| 2024年3月 | 1兆7,314億67百万円 | 1,048億19百万円 | 1,087億20百万円 | 746億85百万円 |
| 2025年3月 | 1兆8,423億57百万円 | 1,188億75百万円 | 1,294億55百万円 | 938億58百万円 |
| 2026年3月 | 1兆9,847億43百万円 | 1,352億56百万円 | 1,391億69百万円 | 990億30百万円 |
※売上高・経常利益・純利益は各期の有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」、営業利益は各期の連結損益計算書から編集部が採った。純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」である。
営業利益は2020年3月期の1,279億56百万円を上回り、経常利益も2020年3月期の1,330億28百万円を上回った。2021年3月期から2025年3月期の5期はいずれもその水準に届いていない。この2つについては、6年ぶりに最高を更新したことになる。
🚨いっぽう純利益では、2025年3月期の938億58百万円が2020年3月期の903億80百万円をすでに上回っている。純利益で見ると2026年3月期は2期連続の最高益にあたる。「6年ぶり」という表現が当てはまるのは営業利益と経常利益である。
配当についても目標が置かれている。有価証券報告書の「配当政策」には「連結業績に応じた利益還元分として連結配当性向50%を目標として設定しています」とあり、当期の見込みはこう書かれている。
株式分割を考慮した場合の中間配当金は1株当たり68.4円、年間配当金は1株当たり150.4円相当となり、前事業年度から1株当たり7.6円増配、当期の配当性向は、50.3%となる見込みです。
同社は2025年10月1日付で普通株式1株を5株に分割しており、会社自身も中間配当と期末配当を単純合算していない。分割を考慮した年間配当金は150.4円相当(前期142.8円相当)となる。
目標が置かれた3つのうち、ROE20%と配当性向50%は達成し、売上高営業利益率7%以上は書かれなかったという形である。
経営哲学
自社を「環境適応業」と呼ぶ
竹内氏が繰り返し使う言葉が「環境適応業」である。
当社グループは、創業以来、自らのビジネスを「建築業」や「不動産業」といった枠に当てはめてきたわけではありません。私たちが目指してきたのは、社会の変化の中で求められる価値を見抜き、それを提供し続ける「環境適応業」というあり方です。私は、2023年の社長就任以来、この「環境適応業」というワードを前面に出し、全社員に対して環境に応じたアグレッシブな変化を促し続けています。
就任以来この語を掲げてきたと本人が書いている。統合報告書2026は、発行の趣旨として「変化する社会の課題に寄り添い続ける『環境適応業』としての歩みを整理しました」と記している。
エリアを絞るという判断
2025年度は、営業エリアを絞り込むというリスクを取り、高賃料・高入居率の都市中心部に物件の供給を集中させる戦略を実行しました。営業エリアを縮小するという判断は、一般的に見れば無謀ともいえるものです。加えて、需要が高いエリアであるがゆえに競合も多く、戦いは厳しいものになります。しかし、2040年以降の国内の人口減少や地方の賃貸需要の低下予測と、当社が提供する賃貸住宅の時間軸を踏まえれば、エリアを絞り、事業の質を高める方向へ舵を切るのは今このタイミングだと、決断をしました。
この期の事業環境について、有価証券報告書は新設住宅着工戸数が711,171戸(前年同期比12.9%減)、主要市場である賃貸住宅着工戸数が308,906戸(同13.5%減)と記載している。市場が縮むなかで、供給する場所を絞る判断を取ったことになる。
その判断の結果は、受注の数字に現れている。有価証券報告書は建設事業の受注についてこう書いている。
受注工事高は、建築費高騰及び入居斡旋状況を踏まえた販売エリアの適正化により、前年同期比4.4%減の5,705億14百万円となり、2026年3月末の受注工事残高は、前年同期比2.3%減の7,836億34百万円となりました。
エリアを絞る判断は、受注の減少という形で数字に出ている。会社自身が「販売エリアの適正化により」と理由を書いている点に、本人の言う「リスクを取った」判断が読み取れる。
社員満足を顧客満足の前提に置く
当社グループには、「人はコストではない、キャピタル(資本)だ。」という考え方が創業時から強く根づいており、現在取り組んでいる中期経営計画においても、人的資本経営のさらなる推進を一丁目一番地に掲げています。私は、社員の満足なくして、お客様の満足はないと考えています。社員が自分の仕事に納得し、いきいきと働くことで初めて、その気持ちと力がお客様に伝わり、さらにすべてのステークホルダーへと価値が波及していく。この流れこそが人的資本経営の本質だと思っています。世の中では「顧客満足を高める」とよく言われますが、私はその前提として、まず社員満足を高めることが重要であり、それが結果として顧客満足の向上につながると考えています。
有価証券報告書も、中期経営計画の「一丁目一番地と位置付ける人的資本経営(働きやすさと働きがいの両立)の推進を起点として」と書いており、本人の言葉と会社の記載が一致している。
自ら現場の責任者を兼ねる
私は営業全体の本部長に加え、新設した東京建築開発事業部の本部長も兼任しています。さらに、新築空室対策プロジェクトの責任者も担っており、自らが先頭に立って事業の進化を推進している状況です。
有価証券報告書の役員一覧にある役職名も「代表取締役 社長執行役員 CEO 兼 建築事業本部長 兼 東京建築開発事業本部長」となっている。社長就任から3年を超えても、主力である建築事業の本部長を手放していない。
人物像
リーダーシップタイプ
現場の合意を取りながら、数値の目標を上げていく型。
竹内氏は目標の引き上げについて「現場のコンセンサスを得たうえで」と書いている。掲げ方も「2兆円企業になる」というインパクトを社員の挑戦意欲と結びつけて説明しており、目標を社内へ向けた言葉として使っている。建築事業本部長を兼務し続け、新築空室対策プロジェクトの責任者も自ら担っている点も、現場との距離の近さとして読める。
強み・特徴(編集部分析)
| 特徴 | 根拠 |
|---|---|
| 建築・営業の現場出身 | テナント営業統括部長→中日本建築事業本部長→西日本建築事業本部長→建築事業本部長(有価証券報告書の略歴) |
| 社長就任後も主力事業の本部長を兼務 | 役職名が「代表取締役 社長執行役員 CEO 兼 建築事業本部長 兼 東京建築開発事業本部長」 |
| 売上高を重視すると明言している | 「計画策定時に掲げた数値目標は(中略)特に重視したのは売上高でした」(統合報告書2026) |
| 目標を社内共有の道具として使う | 「『2兆円企業になる』というインパクトは、社員の挑戦意欲を高めるうえでも大きな意味を持つ」(同) |
| 人的資本を経営の起点に置く | 「社員の満足なくして、お客様の満足はない」(同)/有価証券報告書も「一丁目一番地」と記載 |
| 縮む市場で供給地域を絞る判断を取った | 「営業エリアを絞り込むというリスクを取り」(同)/賃貸住宅着工戸数は前年同期比13.5%減 |
発言・記載と実績の対応
| 時期 | 発言・記載 | 対応する実績 |
|---|---|---|
| 有価証券報告書(第45期〜第51期) | 「売上高営業利益率7%以上」「ROE20%」 | 2026年3月期はROE20.45%で達成。営業利益率は編集部計算6.815%で未達。第52期の有価証券報告書に営業利益率の記載はない |
| 中期経営計画(2024年度〜2026年度・当初) | 売上高2兆円・営業利益1,400億円・ROE20% | 2026年3月期は売上高1兆9,847億43百万円・営業利益1,352億56百万円・ROE20.45% |
| 統合報告書2026 | 「売上高目標を2兆500億円に引き上げました」 | 引き上げ後の目標が示す営業利益率は6.927%(編集部計算) |
| 統合報告書2026 | 「2026年3月期に6年ぶりの最高益を達成できた」 | 営業利益・経常利益は2020年3月期を上回り6年ぶりの最高。純利益は2025年3月期に更新済みで2期連続 |
| 統合報告書2026 | 「営業エリアを絞り込むというリスクを取り」 | 有価証券報告書は「販売エリアの適正化により、前年同期比4.4%減の5,705億14百万円」と受注工事高の減少を記載。完成工事高は5,442億83百万円(前年同期比0.6%増)、建設事業の営業利益は451億48百万円(同4.2%減) |
| 統合報告書2026 | 不動産開発事業は「賃貸住宅事業に次ぐ第二の柱として順調に成長」 | 不動産開発事業の売上高1,470億83百万円(前年同期比186.5%増)・営業利益185億35百万円(同259.8%増) |
| 有価証券報告書(配当政策) | 「連結配当性向50%を目標」 | 当期の配当性向は50.3%となる見込み |
編集部総評
竹内啓氏が2023年4月に社長へ就いてから3年5か月が経つ。この間、売上高は1兆6,576億26百万円(2023年3月期)から1兆9,847億43百万円(2026年3月期)へ増え、1.20倍になった。営業利益と経常利益は6年ぶりに最高を更新し、ROEは18.2%(2023年3月期)から20.45%へ戻っている。
編集部が読み取ったのは、目標の並びが変わったことである。
有価証券報告書の目標欄には、2019年3月期から7期にわたって「売上高営業利益率7%以上」と「ROE20%」が並んでいた。2026年3月期、ROEは20.45%となって目標を上回り、有価証券報告書には8期で初めて「達成しました」と書かれた。同じ有価証券報告書に、営業利益率の記載はない。
本人が「特に重視したのは売上高でした」と書いているとおり、この3年で売上高は伸び続けている。そして最終年度に入るにあたって、その売上高の目標は2兆円から2兆500億円へ引き上げられた。引き上げ後の目標(2兆500億円・1,420億円)が示す営業利益率は6.927%で、当初の目標(2兆円・1,400億円)が示した7.00%を下回る。
この2つの出来事の間に会社が説明した関係はない。ただ、「7%以上」という数値が有価証券報告書から外れた期は、計画の2つの数値が引き上げられ、その比が7%を下回った期と重なっている。しかも引き上げ後の目標(2兆500億円・1,420億円)は、「7%以上」の記載がなくなった同じ有価証券報告書に記載されている。
収益性を高めるという方向自体は残っている。有価証券報告書は「建設事業における受注確保と収益性の向上」と書き、実績の営業利益率も6.0%→6.1%→6.5%→6.8%と3期続けて上がっている。なくなったのは方向ではなく、7%という水準の明示である。
今後の焦点として読み取れる点
- 2026年度(2027年3月期)の着地。売上高2兆500億円まで残り652億57百万円、営業利益1,420億円まで残り67億44百万円である。両方に届いた場合の営業利益率は6.93%となり、7%には届かない
- 次期中期経営計画に営業利益率が入るか。竹内氏は「次期中期経営計画については、現在策定を進めている最中です。現中期経営計画の骨格を引き継ぎながら」と書いている
- 建設事業の利益。完成工事総利益率は25.4%へ0.1ポイント上昇した一方、人件費等の高騰により営業利益は4.2%減となっている
- 不動産開発事業の伸び方。当期は株式会社アスコットの連結子会社化を含み売上高が2.9倍になった。本人は「第二の柱」と位置づけている
参考情報
出典
- 大東建託株式会社 有価証券報告書 第52期(2026年6月25日提出)/第51期(2025年6月25日提出)/第50期(2024年6月25日提出)/第49期(2023年6月28日提出)/第48期(2022年6月30日提出)/第47期(2021年6月25日提出)/第46期(2020年6月30日提出)/第45期(2019年6月25日提出)
- 同社「統合報告書2026」トップメッセージ(P.04・P.07)
- 同社 2026年3月期 決算説明会資料(P.38「2026年度目標(中計最終年度)」)
- 同社公式サイト「中期経営計画」「役員一覧」
注記
- 本記事の「2026年3月期」は2025年4月1日から2026年3月31日までを指す。
- 売上高営業利益率のうち2026年3月期の6.815%は、有価証券報告書の営業利益および売上高から編集部が算出した。会社は同期の有価証券報告書に営業利益率を記載していない。算出方法は、会社が記載していた過去の期(2019年3月期8.0%・2020年3月期8.1%・2025年3月期6.5%)と編集部の計算値が一致することで確認した。
- 中期経営計画の目標が示す営業利益率(当初7.00%・現在6.927%)は、会社が示した売上高と営業利益の目標値から編集部が算出したものである。会社は営業利益率の目標を中期経営計画に含めていない。
- 「6年ぶりの最高益」は統合報告書2026の本人の記述である。編集部が有価証券報告書で確認した範囲では、営業利益と経常利益は2020年3月期を上回り6年ぶりの最高となる。純利益は2025年3月期に2020年3月期を上回っており、2026年3月期は2期連続の最高益にあたる。
- 各期の営業利益は、有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」には記載がないため、各期の連結損益計算書に記載された金額を用いた。2021年3月期から2024年3月期の金額(867億38百万円・995億94百万円・1,000億円・1,048億19百万円)を売上高で割ると、会社が目標欄に記載した営業利益率(5.8%・6.3%・6.0%・6.1%)と一致する。
- 同社は2025年10月1日付で普通株式1株につき5株の割合で株式分割を実施している。配当金は会社の記載にしたがい、株式分割を考慮した金額(2026年3月期150.4円相当・2025年3月期142.8円相当)を用いた。
- 統合報告書2026および公式サイトの社長メッセージには、署名として「代表取締役 社長執行役員 CEO」という肩書のみが記載されており、氏名の活字表記は確認できなかった。氏名は有価証券報告書の【代表者の役職氏名】および役員一覧、公式サイトの役員一覧で確認している。
- 竹内氏の在任期間は2023年4月から2026年9月までの3年5か月として記載した。



