荒川 隆治
代表取締役社長
先に、信頼を置いた。

概要
アルフレッサ ホールディングス株式会社の代表取締役社長、荒川隆治氏。2020年6月に社長へ就き、在任は6年3か月にあたる。
2022年5月、荒川氏は就任後はじめての中期経営計画「22-24中期経営計画 未来への躍進 〜進化するヘルスケアコンソーシアム®〜」を発表した。最終年度である2025年3月期に、売上高2兆7,000億円、営業利益率1.5%以上を目指す、という内容である。
その計画を発表した直後の取材で、荒川氏は目指す姿をこう語っている。
医薬品流通を中心とした真のリーディングカンパニーを目指す。即ち、医療機関の『マインドシェアNo.1になる』という想いがあります
売上や利益の数字ではなく、医療機関に最初に相談してもらえる存在になること。それを先に置いた発言である。
3年が経ち、同社は2025年6月提出の有価証券報告書に、自ら答え合わせの表を載せた。
| 2025年3月期 | 22-24中期経営計画の目標 | 実績 |
|---|---|---|
| 売上高(連結) | 2兆7,000億円 | 2兆9,610億円 |
| 営業利益率(連結) | 1.5%以上 | 1.3% |
| 投資計画(3年間累計) | 1,200億円 | 960億円 |
| 株主還元 | DOE 2.4%以上 | DOE 2.4% |
出典:アルフレッサ ホールディングス株式会社『有価証券報告書』第22期(2025年6月24日提出)
売上高は計画を2,610億円上回った。株主還元は守り切った。同じ計画に置かれていた女性管理職比率(目標6%→実績6.6%)とCO2排出量削減(目標10%削減→実績13%削減)も、目標を超えている。
届かなかったのは、率と投資額だった。営業利益率は1.5%以上の目標に対して1.3%。会社はその要因を「薬価の中間年改定等によるマイナス影響」「人件費、物流費および減価償却費等のコスト増」と説明している。
そして2025年5月に発表された次の中期経営計画で、同社は利益の物差しを変えた。営業利益「率」に代えて、営業利益「額」435億円と、ROE3年平均7%水準を置いたのである。
その初年度にあたる2026年3月期、売上高は3兆1,040億円となり、はじめて3兆円を超えた。
経歴
有価証券報告書(第23期・2026年6月23日提出)の「役員の状況」に記載された略歴は次のとおり。
| 時期 | 役職 |
|---|---|
| 1987年4月 | 山之内製薬株式会社(現アステラス製薬株式会社)入社 |
| 1999年4月 | 株式会社中薬(現アルフレッサ株式会社)入社 |
| 2000年6月 | 同社 取締役 |
| 2005年6月 | シーエス薬品株式会社(現アルフレッサ株式会社)常務取締役 |
| 2007年6月 | 同社 専務取締役/当社 取締役 |
| 2008年6月 | 同社 取締役専務執行役員 |
| 2009年4月 | 同社 代表取締役社長 |
| 2016年6月 | 当社 取締役 |
| 2016年10月 | 当社 取締役常務執行役員 事業開発担当 |
| 2020年4月 | 当社 取締役専務執行役員 コーポレートコミュニケーション・事業開発・海外事業担当 |
| 2020年6月 | 当社 代表取締役社長(現在) |
| 2025年4月 | アルフレッサ株式会社 代表取締役会長(現在) |
1963年3月5日生まれ。名古屋市出身、立教大学卒。1987年に山之内製薬(現アステラス製薬)へ入社し、中薬(現アルフレッサ)を経て、2009年にシーエス薬品の社長に就いた。
🔑持株会社の取締役になったのは、自分が役員を務めていた会社がグループへ入った年である。荒川氏は当時をこう振り返っている。
03年のHD 設立時、その前身の福神と、私が勤めていたシーエス薬品とは業務提携の関係でした。その後、シーエス薬品が完全子会社としてアルフレッサグループ入りをした07年に、アルフレッサHD の取締役を拝命。当時、事業会社の社長がHD の取締役会に集まり、侃々諤々話し合う熱量、醍醐味は非常にインパクトが強く、これが全国展開するアルフレッサグループなのだなと実感しました。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | アルフレッサ ホールディングス株式会社 |
| 証券コード | 2784(東京証券取引所 プライム市場) |
| 設立 | 2003年9月(株式会社アズウェルと福神株式会社が株式移転により設立) |
| 決算期 | 3月31日 |
| 本店 | 東京都千代田区大手町一丁目1番3号 |
| 報告セグメント | 医療用医薬品等卸売/セルフメディケーション卸売/医薬品等製造/調剤薬局等 |
| 従業員数 | 連結12,525名(2026年3月31日現在・外、平均臨時雇用者3,085名) |
| 売上高 | 3兆1,040億64百万円(2026年3月期・連結) |
| 営業利益 | 361億64百万円(同) |
| 経常利益 | 386億34百万円(同) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 417億46百万円(同) |
| 自己資本利益率(ROE) | 8.4%(同) |
| 自己資本比率 | 33.7%(同) |
2026年3月期のセグメント別の販売実績は次のとおり。
| セグメント | 売上高 | 営業利益 |
|---|---|---|
| 医療用医薬品等卸売事業 | 2兆7,825億84百万円(前期比5.4%増) | 332億97百万円(同0.7%増) |
| セルフメディケーション卸売事業 | 2,670億74百万円(同0.5%増) | 30億12百万円(同2.1%増) |
| 医薬品等製造事業 | 521億79百万円(同3.5%減) | 12億3百万円(同7.1%減) |
| 調剤薬局等事業 | 371億74百万円(同0.4%増) | 4億99百万円 |
※売上高はセグメント間の内部売上高を含む
🔑売上の約9割を医療用医薬品等卸売事業が占める。同事業の2026年3月期の営業利益率は1.20%で、この構成が会社全体の利益率をほぼ決めている。2026年3月期は薬価の中間年改定によるマイナス影響と物流費の高騰があったなかで、スペシャリティ医薬品等の限定流通品の取扱い増加により、市場の伸長を上回る増収となった。
人物の軌跡
答え合わせ①:就任の前後に、会社は信頼を問われていた
荒川氏が社長に就いたのは2020年6月である。その前後、グループで医療用医薬品卸を手掛けるアルフレッサ株式会社は、独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会による立入検査を受けていた。対象となったのは、独立行政法人国立病院機構本部が2016年5月20日から2019年6月3日にかけて行った入札等である。
処分が出たのは、就任から3年近く経った2023年3月だった。同社は公正取引委員会から排除措置命令および課徴金納付命令を受けている。22-24中期経営計画の期間中のことである。有価証券報告書は、この件を「優先的に対処すべき事業上の課題」の筆頭に置いた。
当社および当社グループは、このような事態に至りましたことを厳粛に受け止め、役職員一同、再発防止策の徹底に引き続き取り組んでまいります。
荒川氏は2022年の取材で、その背景を自分の言葉で語っている。
『医療機関、その先の患者さまのために』というのが、私たちの一番の使命ですが、それがいつの間にか売上計画や利益計画達成のために、という数字目標にすり替わってしまった
そのうえで会社が進めたのは、再発防止と、グループ理念の周知徹底だった。同じ取材で荒川氏は、2011年頃にグループが「売上志向」から「利益志向」へ転換した経緯にも触れている。
当時の先輩方が、それまで売上志向だったグループの営業姿勢を意識改革し、2年かけて利益志向へ変革していきました
売上志向から利益志向へ。そして、数字が目的化したことへの反省から、もう一度「医療機関とその先の患者」へ。何を先に置くかを、就任前後の会社は問い直していた。
答え合わせ②:就任2年目に、最初の中期経営計画を出した
2022年5月、同社は「22-24中期経営計画 未来への躍進 〜進化するヘルスケアコンソーシアム®〜」を発表した。荒川氏が社長として策定した最初の中期経営計画である。計画期間は2023年3月期から2025年3月期までの3年間。
最終年度の目標は、次のように置かれた。
| 指標 | 2025年3月期の目標 |
|---|---|
| 売上高(連結) | 2兆7,000億円 |
| 営業利益率(連結) | 1.5%以上 |
| 当期純利益率※ | 1.4%以上 |
| 投資計画(3年間累計) | 1,200億円 |
| 株主還元 | DOE 2.4%以上 |
| 女性管理職比率 | 6% |
| CO2排出量削減 | 10%削減(2020年度比) |
※親会社株主に帰属する当期純利益
財務の指標だけでなく、人と環境の目標が同じ表に並んでいる。この7項目が、3年後に照合されることになる。
答え合わせ③:掲げたのは「マインドシェアNo.1」だった
計画の発表直後、荒川氏は取材にこう答えている。
医薬品流通を中心とした真のリーディングカンパニーを目指す。即ち、医療機関の『マインドシェアNo.1になる』という想いがあります
記事の書き手は、この発言を「何かあればまずアルフレッサグループに相談してもらえる顧客との信頼関係をより一層強化することが重要で、売上や利益はその後についてくるという発想だ」と要約している。
同じ取材で、荒川氏は事業の性格についてもこう述べている。
医薬品を適正な方法で、お得意さまである医療機関へ安心・安全に届ける。その先には薬が必要な患者様がいる。弊社グループの事業は、水道や電気と同じ社会インフラのひとつであるという自負を持ち、私たちは日々仕事に取組んでいます
人財についても、具体的な数字を挙げている。
既に、医薬品等卸売事業の2000人を超える営業担当者が『医療経営士』という資格を取得しました。医療や経営に関する知識・スキルを備えた人財として、地域包括ケアのコーディネーターとして活躍してほしい
答え合わせ④:売上高は、計画を2,610億円上回った
2025年3月期の売上高は2兆9,610億51百万円。計画の2兆7,000億円に対して、2,610億円多い。
3年間の推移は次のとおりである。
| 決算年月 | 売上高 | 前期比 |
|---|---|---|
| 2022年3月(計画の前年) | 2兆5,856億43百万円 | — |
| 2023年3月 | 2兆6,960億69百万円 | +1,104億円 |
| 2024年3月 | 2兆8,585億00百万円 | +1,624億円 |
| 2025年3月(最終年度) | 2兆9,610億51百万円 | +1,025億円 |
会社が挙げた要因は「市場伸長、中でも特許品・新薬創出加算品等の販売増加」と「一部製薬企業の流通体制変更の影響」である。
答え合わせ⑤:株主還元は、3年間守り切った
株主還元の目標はDOE(連結純資産配当率)2.4%以上。実績は2.4%で、2023年度は2.8%だった。
会社が挙げた内訳は次のとおりである。
- 普通配当は21期連続増配
- 460億円の自己株式を取得
- 3年間累計の総還元性向は100%
配当の実額でみると、2022年3月期の54円から、2023年3月期57円、2024年3月期70円(うち設立20周年記念配当10円)、2025年3月期63円と推移している。記念配当を除いた普通配当は、この3年間を通じて増え続けた。
答え合わせ⑥:人と環境の目標も、超えた
| 項目 | 目標 | 実績 |
|---|---|---|
| 女性管理職比率 | 6% | 6.6% |
| CO2排出量削減 | 10%削減(2020年度比) | 13%削減(新連結会社を除く) |
女性管理職比率について会社が挙げた要因は「採用の強化」「働きがいと働きやすさの追求」「女性活躍推進関連の研修」。CO2については「減車、EV車導入、エコドライブ推進、AIによる輸送効率向上等」「太陽光発電の導入、LED化、クリーンエネルギー利用」である。
7つの目標のうち、売上高・株主還元・女性管理職比率・CO2排出量削減の4つが、目標を超えた。
答え合わせ⑦:届かなかったのは、率と投資額だった
残る3項目について、会社は要因まで添えて公表している。
| 項目 | 計画 | 実績 | 会社が挙げた主な要因 |
|---|---|---|---|
| 営業利益率 | 1.5%以上 | 1.3% | 薬価の中間年改定等によるマイナス影響/人件費、物流費および減価償却費等のコスト増 |
| 当期純利益率 | 1.4%以上 | 0.9% | 投資有価証券売却や減損処理 |
| 投資総額(3年累計) | 1,200億円 | 960億円 | 事業継続投資案件の一部に期ずれ/M&Aや出資等の事業拡大投資の一部未実施 |
投資の内訳は次のとおりである。
| 区分 | 計画 | 実績 |
|---|---|---|
| 事業継続投資 | 700億円 | 532億円 |
| 新事業領域投資 | 400億円 | 322億円 |
| システム投資 | 100億円 | 105億円 |
🔑3区分のうち、計画を超えたのはシステム投資だけである。22-24中期経営計画のグループ経営方針には「DXの展開」が置かれ、既存業務プロセスの効率を上げる「守りのDX」と、グループのデータを一元管理する「攻めのDX」が示されていた。投資の残る2区分について、会社は事業継続投資を「期ずれ」、新事業領域投資を「一部未実施」と、理由を分けて示している。
答え合わせ⑧:次の3年は、率を額と資本効率に置き換えた
2025年5月15日、同社は「25-27中期経営計画 Vision2032 Stage2 〜総合力で未来を切り拓く〜」を発表した。2023年5月に公表した「アルフレッサグループ中長期ビジョン」(2032年度が目標年度)の第2ステージにあたる。
目標の置き方が変わっている。
| 指標 | 22-24中計(2025年3月期) | 25-27中計(2028年3月期) | 中長期ビジョン(2032年度) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆7,000億円 | 3兆3,000億円 | 4兆円 |
| 利益 | 営業利益率1.5%以上 | 営業利益435億円 | 営業利益700億円以上 |
| 資本効率 | (指標になし) | ROE 3年平均7%水準 | ROE 8%以上 |
| 投資(3年累計) | 1,200億円 | 1,200億円規模(うち新規・成長領域700億円) | 25-32累計3,200億円 |
| 株主還元 | DOE 2.4%以上 | DOE 2.5%以上かつ累進配当 | 段階的なDOE向上 |
利益の目標が「率」から「額」に変わり、資本効率の指標が新しく加わった。ROE7%水準について、会社は「当社推計の資本コスト以上」と説明を添えている。株主還元にも「累進配当」——減配せず維持または増配する方針——が加わった。
この計画の初年度が、2026年3月期である。
| 指標 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2兆9,610億51百万円 | 3兆1,040億64百万円(前期比4.8%増) |
| 営業利益 | 380億80百万円 | 361億64百万円(同5.0%減) |
| 経常利益 | 404億85百万円 | 386億34百万円(同4.6%減) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 273億89百万円 | 417億46百万円(同52.4%増) |
| ROE | 5.7% | 8.4% |
| 1株当たり配当額 | 63円 | 68円 |
売上高は、はじめて3兆円を超えた。
営業利益は前期比5.0%減となっているが、会社は販売費及び一般管理費に再生医療関連事業およびバイオシミラー施設整備関連等の事業投資費21億73百万円が含まれていることを注記し、これを除いた場合は383億37百万円(同0.7%増)であるとしている。
純利益が52.4%増となった主因は、特別利益に計上した投資有価証券売却益253億31百万円である。これは政策保有株式の縮減によるもので、同じ縮減によって、政策保有株式の連結純資産比率は9.19%(保有金額466億円)となった。この比率について同社は「2028年3月期に10%未満」を目標に掲げており、初年度で目標の水準に達している。
ROE8.4%も、この売却益を含んだ数字である。売却益253億31百万円は、当期純利益417億46百万円に対して小さくない規模にあたる。会社の目標は3年平均で7%水準であり、初年度の単年度の値がこれを上回ったことと、3年間の目標の達成とは別である。
経営哲学
社会インフラという自負
荒川氏が事業を語るときに繰り返すのは、公共性である。
医薬品を適正な方法で、お得意さまである医療機関へ安心・安全に届ける。その先には薬が必要な患者様がいる。弊社グループの事業は、水道や電気と同じ社会インフラのひとつであるという自負を持ち、私たちは日々仕事に取組んでいます
公式サイトの社長挨拶にも、同じ言葉が置かれている。
私たちは医薬品等を「安心」「安全」「誠実」にお届けするという社会インフラを担うグループとして、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
数字が目的になった時期を、自分の言葉で語る
就任直前の独占禁止法違反事件について、荒川氏は原因を外に置かなかった。
『医療機関、その先の患者さまのために』というのが、私たちの一番の使命ですが、それがいつの間にか売上計画や利益計画達成のために、という数字目標にすり替わってしまった
この認識と、「マインドシェアNo.1」という目標の置き方は、同じ順序を示していると読める。顧客との信頼関係を先に置き、売上や利益はその後に続くものとして扱う。同社が中期経営計画の指標に女性管理職比率とCO2排出量削減を並べているのも、財務の数字だけを到達点にしない設計として読める。
大同団結という発想
同社が長期の目標に掲げる「ヘルスケアコンソーシアム®」について、荒川氏はその言葉を選んだ理由から説明している。
コンソーシアムとは金融業界でよく使われる、一つの目的に向かって大同団結して進む形のことを表す言葉です。私どもはヘルスケアの大同団結、ヘルスケアコンソーシアム® と命名しました
同社は2003年、2つの広域卸の株式移転によって設立された持株会社である。その後、東北・東海・北陸・四国・中国地方・沖縄の地域卸が加わり、OTC医薬品の卸、医薬品の製造、調剤薬局、研究用試薬卸へと事業を広げてきた。連合体として育った会社の歴史が、そのまま言葉に入っている。
説明責任を、当たり前のこととして語る
2023年、同社は代表取締役を3人体制に改めた。その狙いを問われた荒川氏は、市場環境の変化を挙げている。
業界を取り巻く環境が大きく変わっています。具体的には、21年から毎年薬価改定になったことで、採算性が非常に厳しくなりました
東証一部がプライム市場になり、投資家や株式市場に対しての説明責任が問われています。これは本来、上場会社にとって当たり前のことですが、日本は欧米と比べてそのあたりが多少緩やかな時代が長かった。それがいよいよグローバルスタンダードで求められるようになり、われわれも対応が必須となりました。
同社は「株主との建設的な対話に関する方針」のなかで、直前事業年度に年間110回の個別面談を実施したことを開示している。また、株価が2020年以降PBR1倍割れで推移していることを課題として捉え、東京証券取引所が公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」も踏まえて、2023年5月に中長期ビジョンを発表したと説明している。
健康寿命という到達点
創立20周年の取材では、読者へのメッセージとして次のように述べている。
日本は世界に冠たる長寿国ですが、平均寿命と健康寿命の差が約10年あります。われわれは健康寿命の延伸、地域の医療への貢献に本気で取り組んでいきます。互いの強みを生かして、ヘルスケア・イノベーションを起こしましょう。
人物像
リーダーシップタイプ
順序提示型。数字を掲げる前に、何を先に置くかを言葉で示す型と読める。「マインドシェアNo.1」を目標として語り、売上や利益をその後に続くものとして位置づけた発言、数字が目的化した過去を自ら振り返った発言、そして財務指標と並べて人と環境の目標を中期経営計画に置いた設計——いずれも同じ順序を示している。
強み・特徴(編集部分析)
1. 答え合わせを、自分から出す
同社は22-24中期経営計画の達成状況を、有価証券報告書の本文に4項目の表として載せている。決算説明会資料ではこれを7項目に広げ、届かなかった3項目には要因を添えた。計画を出した会社が、その計画の結果を同じ形式で並べたことになる。
2. 届かなかった理由を、時期の問題と中身の問題に分けている
投資総額960億円について、会社は「事業継続投資案件の一部に期ずれが発生」「M&Aや出資等の事業拡大投資の一部未実施」と、2つの理由を分けて示した。期ずれと未実施では、次の計画への持ち越し方が変わる。実際、25-27中期経営計画でも投資枠は1,200億円規模が維持され、うち700億円が新規・成長領域に配分されている。
3. 物差しを、実態に合わせて変える
22-24中期経営計画の利益指標は営業利益率だった。25-27中期経営計画では営業利益額とROEに変わっている。同社の営業利益率は1%台であり、売上高は薬価改定や流通体制の変更に左右される。利幅の薄い商品の取扱いが増えれば、増収であっても率は下がりうる。額と資本効率への切り替えは、その構造を踏まえた変更として読める。
4. 財務以外の目標を、同じ表に置き続けている
女性管理職比率とCO2排出量削減は、22-24中期経営計画の目標として財務指標と同じ表に並び、3年後の答え合わせにも同じ表で登場している。25-27中期経営計画でも、サステナビリティ重要課題が8つ特定されている。
発言・記載と実績の対応
| 発言・記載 | 時期 | 実績 |
|---|---|---|
| 「医療機関の『マインドシェアNo.1になる』という想いがあります」 | 2022年(月刊「事業構想」2022年9月号) | 22-24中期経営計画の売上高は計画比+2,610億円。医療用医薬品等卸売事業は2026年3月期も市場の伸長を上回る増収 |
| 「売上計画や利益計画達成のために、という数字目標にすり替わってしまった」 | 同上 | 22-24中期経営計画に女性管理職比率・CO2排出量削減を財務指標と並べて設定し、3年後に同じ表で開示 |
| 「2000人を超える営業担当者が『医療経営士』という資格を取得しました」 | 同上 | 25-27中期経営計画でも、人的資本戦略が基盤事業の項目に置かれている |
| 売上高2兆7,000億円・営業利益率1.5%以上(22-24中期経営計画) | 2022年5月 | 売上高2兆9,610億円(達成)、営業利益率1.3% |
| 「投資家や株式市場に対しての説明責任が問われています」 | 2023年(ドラッグマガジン2023年10月号) | 直前事業年度に年間110回の個別面談を実施。PBR1倍割れを課題として明記 |
| 政策保有株式の連結純資産比率10%未満(2028年3月期) | 2025年5月 | 2026年3月期に9.19%(保有金額466億円)。初年度で目標の水準に到達 |
編集部総評
荒川氏の在任6年3か月を数字で見ると、売上高は2020年6月の就任時から3兆円台に乗り、2026年3月期の純利益417億円とROE8.4%は、いずれも直近5期でもっとも高い水準にある。
ただし、編集部がこの6年間でもっとも特徴的だと考えたのは、業績そのものではない。掲げた目標に対して、会社が自分から答え合わせを出したことである。
22-24中期経営計画の7項目は、2025年6月提出の有価証券報告書に表として載った。売上高、営業利益率、投資計画、株主還元——4項目が有価証券報告書に、当期純利益率・女性管理職比率・CO2排出量削減を加えた7項目が決算説明会資料に並び、届かなかった3項目には要因が添えられている。計画を出した会社が、その結果を同じ形式で並べた。
そのうち4項目が目標を超えた。売上高は2,610億円上回り、株主還元はDOE2.4%を守って総還元性向100%、女性管理職比率は6.6%、CO2排出量は13%削減である。
届かなかったのは、営業利益率1.5%以上に対する1.3%、当期純利益率1.4%以上に対する0.9%、投資総額1,200億円に対する960億円だった。医療用医薬品等卸売事業が売上の約9割を占める同社にとって、薬価の毎年改定と物流費・人件費の上昇は、率に直接効く。荒川氏自身、2023年の取材で「21年から毎年薬価改定になったことで、採算性が非常に厳しくなりました」と述べている。
そして次の3年、同社は利益の物差しを率から額へ、さらにROEを加えた形に変えた。初年度の2026年3月期、売上高は3兆1,040億円で3兆円を超え、政策保有株式の連結純資産比率は9.19%となって、2028年3月期の目標水準に初年度で到達している。
「マインドシェアNo.1」——2022年に荒川氏が掲げたのは、売上でも利益率でもなかった。顧客に最初に相談してもらえる存在になること。その順序で経営を組み立てた3年間の結果が、売上と還元と人と環境の達成であり、率と投資額は目標に届かなかった、というのが編集部の読みである。
今後の焦点として読み取れる点
- 2028年3月期の営業利益435億円:2026年3月期の営業利益は361億64百万円(事業投資費を除くと383億37百万円)。目標まで73億円の増益が必要になる。会社は3年間の累計営業利益額を約1,190億円と示している
- ROE7%水準の中身:2026年3月期のROE8.4%には、政策保有株式の縮減に伴う投資有価証券売却益253億31百万円が含まれる。目標は3年平均であり、売却益に頼らない水準をどう積み上げるかが焦点になる
- 売上高3兆3,000億円:2026年3月期の3兆1,040億円から、2028年3月期までに約2,000億円の増収が必要になる
- 新規・成長領域への700億円:25-27中期経営計画の投資1,200億円規模のうち、700億円が新規・成長領域に配分されている。22-24では新事業領域投資が400億円の計画に対し322億円だった
- PBR1倍割れ:会社は2020年以降のPBR1倍割れを課題として明記している。2026年3月期の株主総利回りは133.1%(比較指標の配当込みTOPIXは202.2%)
参考情報
出典
- アルフレッサ ホールディングス株式会社『有価証券報告書』第23期(2026年6月23日提出)、第22期(2025年6月24日提出)、第21期(2024年6月26日提出)、第20期(2023年6月27日提出)
- 同社『2025年3月期 決算説明会資料』(2025年5月15日)
- 同社『アルフレッサグループ 25-27中期経営計画 Vision2032 Stage2 総合力で未来を切り拓く』(2025年5月15日)
- 同社公式サイト「代表取締役社長挨拶」「トップメッセージ」「株主との建設的な対話に関する方針」(2026年9月14日確認)
- 同社公式サイト掲載のインタビュー記事「社会インフラを維持する覚悟 医療用医薬品の流通を担う」(出典表記=月刊「事業構想」2022年9月号/学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学出版部)
- 同社公式サイト掲載のインタビュー記事「健康寿命の延伸と地域医療への貢献で目指すヘルスケア・イノベーション」(出典表記=ドラッグマガジン2023年10月号/株式会社ドラッグマガジン)
注記
- 本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです
- 本記事に引用した荒川氏の発言は、いずれも第三者の媒体による取材記事を同社公式サイトが転載したものです。引用にあたっては媒体名と掲載号を出典に明記しています
- 「売上や利益はその後についてくるという発想だ」は、月刊「事業構想」2022年9月号の記事本文にある書き手による記述であり、荒川氏の発言としては記載されていません。本記事でも発言とは区別して扱っています
- 25-27中期経営計画の売上高目標について、有価証券報告書(第22期・第23期)は「3兆3,000億円」、2025年5月15日の中期経営計画資料は「3兆3,300億円、CAGR4%」と記載しています。本記事は有価証券報告書の表記に統一しています
- 2026年3月期のROE8.4%および親会社株主に帰属する当期純利益417億46百万円には、政策保有株式の縮減に伴う投資有価証券売却益253億31百万円が含まれます
- 2026年3月期の営業利益361億64百万円について、同社は販売費及び一般管理費に含まれる事業投資費21億73百万円(再生医療関連事業およびバイオシミラー施設整備関連等)を除いた場合の営業利益を383億37百万円と注記しています
- 2024年3月期の1株当たり配当額70円には、設立20周年記念配当10円が含まれます。「21期連続増配」は同社が2025年3月期時点で普通配当について示した表現です
- CO2排出量削減の実績13%は、同社の決算説明会資料に「新連結会社を除く」と注記されています
- 引用文中の数字と単位のあいだの空白、および「HD」表記の前後の空白は、原文の体裁に従っています
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