相川 善郎大成建設株式会社 代表取締役社長
LEADER 021
LEADER PROFILE

相川 善郎

Yoshiro Aikawa
大成建設株式会社
代表取締役社長

1,400億円に、2年で届いた。

相川 善郎

概要

大成建設株式会社の代表取締役社長、相川善郎氏。2020年6月に社長へ就いた。

その翌年に始まった中期経営計画(2021-2023)には、6つの数値目標が置かれていた。そのうちグループ営業利益は1,400億円である。この目標は3年間、いちども修正されなかった。

最終年度である2024年3月期の実績は、営業利益264億円だった。目標の18.9%にあたる。

そして2024年5月、同社は次の中期経営計画(2024-2026)を策定した。有価証券報告書には「中期経営計画(2021-2023)の反省を踏まえ、利益重視の経営数値目標を設定しました」と書かれている。新しい計画の営業利益の目標は1,200億円だった。目標年度は3年後ろの2026年度だが、前の計画が2023年度に掲げていた1,400億円より低い水準から再出発した形である。

結果を先に書くと、その1,200億円は1年目(2025年3月期)に1,201億円で達成され、2年目(2026年3月期)には1,879億円になった。前の計画が掲げていた1,400億円も、2年目に超えている。純利益は目標800億円に対して1,700億円、ROEは目標8.5%程度に対して18.7%である。

編集部が注目したのは、この立て直しが建築事業で起きている点である。建築事業の営業損益は2024年3月期の561億円の損失から、2026年3月期には783億円の利益へ変わった。2年で約1,345億円の差である。相川氏は2011年に東京支店建築部長を務めた、建築部門の出身である。

目標を置き直し、置き直した目標を2年で前の計画の水準ごと超えた。これが編集部の読みである。

COMPANY
大成建設株式会社
SALES
2兆890億円
EMPLOYEES
18,503名
PRESIDENT SINCE
2020年6月
01

経歴

有価証券報告書(第166期・2026年6月16日提出)の「役員の状況」に記載された略歴は次のとおり。

時期役職
1980年4月大成建設株式会社入社
2011年4月同社東京支店建築部長
2013年4月同社執行役員就任
2016年4月同社常務執行役員就任
2019年6月同社取締役就任
2020年6月同社代表取締役社長就任(現任)

生年月日は1957年9月20日。所有株式数は6,165株、取締役会への出席は15回中15回(100%)である。任期は2025年6月から1年となっている。

編集部が略歴から読み取ったのは、入社から40年を建築の現場と組織で過ごした人物であるという点である。2011年4月の東京支店建築部長を経て2013年に執行役員、2016年に常務執行役員、2019年6月に取締役、その1年後に社長へ就いた。取締役になってから社長就任までは1年である。

後述するとおり、この期間に同社の損益を大きく動かしたのは建築事業だった。

02

会社データ

項目内容
社名大成建設株式会社(TAISEI CORPORATION)
証券コード1801(東京証券取引所 プライム市場)
創業1873年
業種建設業
従業員数連結18,503名(2026年3月31日現在・臨時従業員5,085名は外数)
売上高2兆890億円(2026年3月期・連結)
営業利益1,879億円(同)
経常利益1,957億円(同)
当期純利益1,700億円(同)
自己資本利益率(ROE)18.7%(同)

グループ理念は「人がいきいきとする環境を創造する」。有価証券報告書には、自由闊達・価値創造・伝統進化の3つの価値を「大成スピリット」として全役職員が共有する、と記載されている。創業は1873年で、2026年で153年になる。

03

人物の軌跡

答え合わせ①:就任の翌年に始まった計画の目標は、3年間変わらなかった

中期経営計画(2021-2023)は、相川氏の社長就任(2020年6月)の翌年度に始まった計画である。第161期(2021年3月期)の有価証券報告書には「新たにスタートした『中期経営計画(2021-2023)』は『[TAISEI VISION 2030]の実現に向けて、この3年間で集中的に取り組むこと』と位置付けております」と書かれている。

その数値目標は次のとおりである(原文)。

ROE 10%程度  グループ売上高 2兆円

配当性向 25%程度  グループ営業利益 1,400億円

純有利子負債 実質無借金の維持  グループ純利益 1,000億円

見出しには「■2023年度数値目標(M&Aの実現を織り込んでいない)」と書かれている。M&Aによる上乗せを見込まない前提での目標である。

編集部が第161期・第162期・第163期の3期分を同じ見出しで確認したところ、この6つの目標はいずれの期も同一で、修正は見当たらなかった。

答え合わせ②:会社は最終年度の1年前に、目標と予想の差を自分で表にした

第163期(2023年3月期)の有価証券報告書には、「最終年度(2023年度)における数値目標(連結)」という表が置かれている。目標と業績予想を並べ、差額まで示したものである。

項目数値目標業績予想差額
売上高20,000億円17,600億円△2,400億円
営業利益1,400億円640億円△760億円
当期純利益1,000億円450億円△550億円
ROE10%程度5.4%―
配当性向25%程度53.7%―

理由も同じ有価証券報告書に書かれている(原文)。

このような状況の下、2023年度を最終年度とする「中期経営計画(2021-2023)」に取り組んでおりますが、事業量拡大に向けた生産体制整備の遅れや、高騰した建設資材価格の価格転嫁が進まなかったこと、厳しい競争の中で複数の大型工事を低い利益率で受注したこと等の影響を受け、2023年度の業績予想は、中期経営計画最終年度の数値目標を下回る見通しとなっております。

続けて、次の計画についてこう書かれている。

2023年度は、中期経営計画未達の原因分析を行い、2024年度から始まる次期中期経営計画を策定してまいります。

編集部が注目したのは、目標との差を、差額を含む表の形で自社の有価証券報告書に載せている点である。

答え合わせ③:営業利益は4期続けて下がっていた

最終年度である第164期(2024年3月期)の実績は次のとおりである。

項目目標予想(1年前)実績目標に対して
売上高20,000億円17,600億円17,650億円88.3%
営業利益1,400億円640億円264億円18.9%
当期純利益1,000億円450億円402億円40.2%
ROE10%程度5.4%4.6%―

※目標に対する比率は編集部の計算である。

売上高は予想をわずかに上回った。一方で営業利益は、1年前に示した予想640億円に対して264億円だった。予想の41.3%である。

営業利益を並べると、この期が谷にあたる。

決算年月営業利益
2020年3月期1,677億円
2021年3月期1,305億円
2022年3月期960億円
2023年3月期547億円
2024年3月期264億円
2025年3月期1,201億円
2026年3月期1,879億円

※2020年3月期・2021年3月期は第161期有価証券報告書、2022年3月期以降は各期の有価証券報告書のMD&A比較表から取得した。

理由は第164期の有価証券報告書に3点、原文で書かれている。

・全体的な基調として、建設物価の上昇影響により、原価低減や追加工事の獲得による収支改善が進捗しなかったこと。

・見積提出後、契約・着工までに長期間を要し、建設物価の上昇影響を強く受けた一部の大型工事において、原価低減に寄与する資材調達交渉等が全ては完了しておらず、当連結会計年度末時点の収支状況に基づいた決算処理をせざるを得ないこと。

・一部の大型工事における工程逼迫への対応に伴い、収支が悪化する見込みとなったこと。

この期、建築事業は561億円の営業損失だった(前期は66億円の営業損失)。

工事損失引当金の残高も、この間に大きく積み上がっている。

決算年月工事損失引当金
2022年3月期141億6,300万円
2023年3月期478億9,700万円
2024年3月期966億6,100万円
2025年3月期1,026億7,800万円
2026年3月期764億円

なお、有価証券報告書で個別に工事名が記載されたのは1件だけである。第163期にこう書かれている。

当社札幌支店が施工中の「(仮称)札幌北1西5計画」において発生した鉄骨建方等の精度不良に係る是正工事関連費用として、工事原価が約240億円増加したこと。

それ以外は「複数の国内大型建築工事」「一部の大型工事」という表現にとどまる。

答え合わせ④:新しい計画は、3つの数値目標を前計画より低い水準に置いた

2024年5月、同社は【TAISEI VISION 2030】達成計画と中期経営計画(2024-2026)を策定した。第164期の有価証券報告書には、その位置づけがこう書かれている(原文)。

当社グループでは、中期経営計画(2021-2023)の反省を踏まえ、利益重視の経営方針を明確化するとともに、[TAISEI VISION 2030]の実現に向け、7年間で取り組んでいく方針と施策を整理した[TAISEI VISION 2030]達成計画を策定しました。

同じ有価証券報告書には「中期経営計画(2024-2026)は、この達成計画に基づき、利益重視の経営数値目標を設定しました」とも書かれている。

新しい計画の数値目標は3つである。売上高は「(参考)」として添えられており、数値目標には数えられていない。

項目前計画の目標<br>(2023年度)新計画の目標<br>(2026年度)差
グループ営業利益1,400億円1,200億円△200億円
グループ純利益1,000億円800億円△200億円
ROE10%程度8.5%程度△1.5ポイント
売上高(参考・数値目標ではない)2兆円19,500億円程度△500億円

※目標年度が3年違うため、同じ年度の目標を引き下げたものではない。前の計画が終わったあと、新しい年度に対して低い水準の目標を置き直した形である。

新しい計画は【TAISEI VISION 2030】の第2フェーズにあたり、公式サイトには「3年後のマイルストーンとして、数値目標を中心に策定しております」と書かれている。

答え合わせ⑤:1年目に、3つの目標をすべて超えた

有価証券報告書には、この計画の目標と実績を並べた表がそのまま載っている。

項目2026年度<br>目標(策定時)2024年度<br>実績2025年度<br>実績2026年度<br>予想
グループ営業利益1,200億円1,201億円1,879億円1,880億円
グループ純利益800億円1,238億円1,700億円1,510億円
ROE8.5%程度13.8%18.7%15.4%
(参考)売上高19,500億円程度21,542億円20,890億円24,200億円

1年目である2024年度(2025年3月期)の時点で、3つの目標はすべて超えている。

項目目標1年目実績達成率
グループ営業利益1,200億円1,201億円100.1%
グループ純利益800億円1,238億円154.8%
ROE8.5%程度13.8%1.62倍

※達成率は編集部の計算である。

この1,200億円という水準は、どの期を出発点に見るかで印象が変わる。策定時点の直近実績である2024年3月期の営業利益264億円の4.5倍にあたるが、その2期前の2022年3月期の960億円と比べれば1.25倍である。編集部は、これを「直近実績からの立て直し幅」として読んだ。

答え合わせ⑥:2年目に、前の計画の水準も超えた

2年目である2025年度(2026年3月期)の実績を、前の計画の目標と並べるとこうなる。

項目前計画の目標<br>(2023年度)2026年3月期の実績前計画の目標に対して
グループ営業利益1,400億円1,879億円134.2%
グループ純利益1,000億円1,700億円170.0%
ROE10%程度18.7%―

※比率は編集部の計算である。

さらに、2021年に示された【TAISEI VISION 2030】の2030年度の「業績数値イメージ」(グループ売上高2.5兆円程度・グループ純利益1,500億円程度・ROE10%程度)のうち、純利益1,500億円程度とROE10%程度の水準は2026年3月期に超えている。売上高2.5兆円程度についても、2027年3月期の予想は2兆4,200億円である。

なお編集部が確認した範囲では、この「業績数値イメージ」の表は2024年提出分以降の有価証券報告書には掲載されていない。セグメント別の定性的な「2030年度に目指す姿」の記述に置き換わっている。公式サイトの達成計画資料(PDF)には「【TAISEI VISION 2030】目標達成のイメージ」という項目があるが、編集部はその中身を確認していない。

答え合わせ⑦:動いたのは建築事業だった

編集部がセグメント別の営業損益を並べると、この2年で何が変わったかが1つの事業に集まる。

期決算年月建築事業の営業損益有価証券報告書の説明
第163期2023年3月△66億円札幌の工事の是正費用と大型工事の収支悪化
第164期2024年3月△561億円手持工事の利益率低下や工事損失引当金の計上
第165期2025年3月+113億円「増収に加え受注時採算の改善等による利益率好転」
第166期2026年3月+783億円「不採算工事の減少に伴う利益率好転」

2年で約1,345億円の差である(セグメント情報の百万円単位の数値による編集部の計算。△561億4,300万円から+783億7,000万円へ)。第166期の建築事業の営業利益の伸びは、前期比590.6%増と記載されている。

一方でこの期、建築事業の売上高は減っている。

項目第166期前期比
土木事業 売上高7,202億円+8.5%
土木事業 営業利益955億円+9.1%
建築事業 売上高1兆2,744億円△9.0%
建築事業 営業利益783億円+590.6%

有価証券報告書は建築事業の減収を「当社において国内の大型工事が工程の初期段階にあるものが多く進捗が本格化していないこと」と説明し、増益を「不採算工事の減少に伴う利益率好転」と説明している。土木事業の増収については「東洋建設株式会社を連結子会社化したこと等により」と書かれている。

全社の売上総利益も、この構図を示している。完成工事総利益は1,934億4,300万円から2,913億7,800万円へ50.6%増え、売上総利益の合計は2,311億3,900万円から3,300億5,500万円へ42.8%増えた。売上高が3.0%減るなかでの増加である。

なお経営環境について、第166期の有価証券報告書には「建設投資が堅調に推移し、価格転嫁が着実に進展しました」と記載されている。

答え合わせ⑧:ROE 18.7%は、分子と分母の両方が動いている

有価証券報告書は、当期純利益の増加要因をこう説明している(原文)。

親会社株主に帰属する当期純利益は、投資有価証券売却益の増加等に伴う特別損益の好転により、同37.3%増の1,700億円となりました。なお、ROE(自己資本当期純利益率)は、前連結会計年度比4.9%好転の18.7%となりました。

分子の側では、特別利益の内訳のうち投資有価証券売却益が大半を占めている。

決算年月投資有価証券売却益特別利益合計税金等調整前当期純利益
2023年3月期24億500万円65億6,700万円680億9,400万円
2024年3月期179億800万円198億7,900万円570億9,300万円
2025年3月期461億9,700万円488億9,400万円1,782億5,000万円
2026年3月期546億5,600万円552億2,500万円2,464億1,700万円

2026年3月期の投資有価証券売却益546億5,600万円は、税金等調整前当期純利益2,464億1,700万円の22.2%にあたる(編集部の計算)。

第166期の有価証券報告書の目標表には、ROEについて「政策保有株式売却が目標通りに進捗した場合は10%程度」という注記が付されている。会社は、売却が進んだ場合のROE水準を別に示している形である。ただし編集部が確認した範囲では、この注記は第166期の有価証券報告書にのみ記載されており、第164期・第165期の目標表には付いていない。計画の策定時(2024年5月)の資料に同じ注記があったかは確認していない。

分母の側も動いている。同社は2024年11月7日の取締役会で、30,000,000株(1,500億円)を上限とする自己株式の取得を決議した。取得の実績は2025年3月期に10,917,700株・720億5,800万円、2026年3月期に9,062,900株・779億4,200万円である。

期決算年月純資産額自己資本比率
第164期2024年3月9,610億円36.0%
第165期2025年3月9,006億円35.7%
第166期2026年3月9,899億円34.9%

第165期の純資産の減少について、有価証券報告書は「自己株式の取得、株式相場下落及び投資有価証券売却に伴うその他有価証券評価差額金の減少等により、前連結会計年度末比6.3%・603億円減の9,006億円」と説明している。

編集部が9期分のROEを並べると、次のようになる。

期決算年月ROE
第158期2018年3月20.5%
第159期2019年3月16.2%
第160期2020年3月16.6%
第161期2021年3月11.6%
第162期2022年3月8.4%
第163期2023年3月5.6%
第164期2024年3月4.6%
第165期2025年3月13.8%
第166期2026年3月18.7%

相川氏の就任は2020年6月で、第161期(2021年3月期)の途中にあたる。ROEはそこから第164期まで下がり、第165期・第166期で戻った。第166期の18.7%は、第158期(2018年3月期)の20.5%以来の水準である。

※第158期〜第162期は第162期有価証券報告書、第162期〜第166期は第166期有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」から取得した(第162期は両方に記載があり、数値が一致することを確認した)。

04

経営哲学

「利益重視」という言葉が、目標の置き方に表れている

会社が新しい計画の位置づけとして書いたのは「中期経営計画(2021-2023)の反省を踏まえ、利益重視の経営方針を明確化する」であり、目標については「利益重視の経営数値目標を設定しました」だった。

編集部が読み取ったのは、この言葉が項目ごとの水準の置き方に表れていることである。

項目前計画の目標<br>(2023年度)新計画の目標<br>(2026年度)差
売上高(参考)2兆円19,500億円程度△2.5%
グループ営業利益1,400億円1,200億円△14.3%
グループ純利益1,000億円800億円△20.0%

※差は編集部の計算である。

売上高の水準はほぼ据え置かれ、利益の水準が大きく引き下げられている。前計画の未達の理由として書かれていたのは「事業量拡大に向けた生産体制整備の遅れ」「価格転嫁が進まなかったこと」「複数の大型工事を低い利益率で受注したこと」であり、いずれも量ではなく採算に関するものだった。

そして実績は逆の形になった。2026年3月期の売上高は2兆890億円で、参考として置かれた19,500億円程度を上回っている一方、営業利益1,879億円は目標1,200億円の1.57倍である。低く置き直した項目のほうが、大きく上回った。

見積りの厳しさは、6期続けて監査の論点である

編集部が確認したところ、同社の有価証券報告書には「工事原価総額の見積りの合理性」が、監査上の主要な検討事項(KAM)として2021年提出分から2026年提出分までの6期分すべてに記載されている。KAMは、監査人がその年の監査で特に重要と判断した事項を記載する項目である。業績の良い期も、そうでない期も継続して論点になっている。

工事損失引当金の残高は、2022年3月期の141億6,300万円から2025年3月期の1,026億7,800万円へ7.2倍になり、2026年3月期に764億円へ減った。残高が減少に転じたのは2026年3月期である。

建設業では、工事の採算は着工から完成までの長い期間にわたって見積り直される。前計画の未達の理由に「見積提出後、契約・着工までに長期間を要し、建設物価の上昇影響を強く受けた」と書かれていたのは、この構造にあたる。

株主還元の方針を引き上げている

公式サイトの「株主の皆様へ」(2026年5月・代表取締役社長 相川善郎 署名)には、配当方針の変更が書かれている。

加えて、2027年3月期より、株主還元の更なる充実を目的として配当性向を30%から引き上げ、「下限付き配当性向40%」といたします。この方針に基づき、2027年3月期の配当金につきましては、当初予想の連結当期純利益に対する配当性向40%である1株当たり年380円(うち、中間配当金190円、配当性向41.0%)を下限として設定し、業績が予想を上回る場合には、配当性向40%に基づき配当予想を上方修正いたします。

2026年3月期の配当は年間310円(中間125円・期末185円)で、前期から100円の増配である。前の計画では配当性向25%程度を目標としていた。

同じ文書には、2027年3月期の見通しも書かれている。

また、2027年3月期の通期連結業績予想につきましては、売上高2兆4,200億円(前期比15.8%・3,309億円増)、営業利益1,880億円(同0.0%・0億円増)、経常利益1,870億円(同4.5%・87億円減)、親会社株主に帰属する当期純利益1,510億円(同11.2%・190億円減)となる見通しです。

売上高は15.8%伸びる見通しだが、営業利益は横ばい、経常利益と当期純利益は減る見通しである。

※ここで確認したのは有価証券報告書と同社公式サイトの公開情報の範囲である。統合報告書や中期経営計画の本体資料、決算説明会の内容は確認していない。

05

人物像

リーダーシップタイプ

編集部の分析では、相川氏が社長を務める期間の経営に見える特徴は「数字を置き直し、その数字で結果を出している」ことである。なお、以下の3点はいずれも会社名義の開示にもとづくもので、本人が個別に語ったものではなく、社内での立案の経緯も公開情報からは分からない。

根拠は3つある。

1. 前の計画の目標との差を、差額を含む表の形で有価証券報告書に載せた(第163期)

2. 次の計画では利益の水準を大きく引き下げ、売上高の水準はほぼ据え置いた(営業利益△14.3%・純利益△20.0%に対し、売上高△2.5%)

3. その置き直した目標を1年目に超え、2年目には前の計画の水準も超えた

3つに共通しているのは、達成できなかった数字を伏せずに置き直したうえで、次の期間の実績で上回っているという順序である。

強み・特徴(編集部分析)

1. 置き直した目標を1年目に超えている。営業利益は目標1,200億円に対して1年目1,201億円、2年目1,879億円である

2. 前の計画の水準も2年目に超えた。営業利益1,400億円に対して1,879億円、純利益1,000億円に対して1,700億円である

3. 立て直したのは建築事業である。営業損益は2024年3月期の561億円の損失から2026年3月期の783億円の利益へ、2年で約1,345億円動いた

4. 売上が減るなかで利益を伸ばしている。2026年3月期の売上高は3.0%減だが、売上総利益は42.8%増、営業利益は56.4%増である

5. 工事損失引当金の残高を減少に転じさせている。2022年3月期の141億6,300万円から2025年3月期に1,026億7,800万円まで積み上がった残高が、2026年3月期に764億円へ減った

6. 建築部門の出身である。2011年に東京支店建築部長、2013年に執行役員、2016年に常務執行役員を経て2020年6月に社長へ就いた

発言・記載と実績の対応

発言・記載時期その後
(会社)ROE 10%程度/グループ売上高 2兆円/グループ営業利益 1,400億円/グループ純利益 1,000億円2021年6月(第161期有報)以降3期最終年度の2024年3月期の実績は営業利益264億円(目標の18.9%)・純利益402億円(同40.2%)・ROE4.6%
(会社)2023年度の業績予想は、中期経営計画最終年度の数値目標を下回る見通しとなっております2023年6月(第163期有報)目標と予想の差額を含む表を掲載。営業利益の予想は640億円だったが、実績は264億円
(会社)2023年度は、中期経営計画未達の原因分析を行い、2024年度から始まる次期中期経営計画を策定してまいります同上2024年5月に中期経営計画(2024-2026)を策定
(会社)中期経営計画(2021-2023)の反省を踏まえ、利益重視の経営方針を明確化する/利益重視の経営数値目標を設定しました2024年6月(第164期有報)新計画の目標は営業利益1,200億円・純利益800億円・ROE8.5%程度で、いずれも前計画の水準より低い
(会社)グループ営業利益 1,200億円/グループ純利益 800億円/ROE 8.5%程度同上1年目(2025年3月期)に営業利益1,201億円・純利益1,238億円・ROE13.8%で3項目すべて超過
(会社)政策保有株式売却が目標通りに進捗した場合は10%程度(ROEの注記)2026年6月(第166期有報の目標表の注記)2026年3月期のROEは18.7%。投資有価証券売却益は546億5,600万円で、税金等調整前当期純利益の22.2%
(会社)2026年度末までに連結純資産額の20%未満とすることを目指しております(政策保有株式の縮減目標)2026年6月(第166期有報)<br>※2024年提出分で2030年度末の目標を前倒し2026年3月末の政策保有株式は上場・非上場合計で2,212億円。同時点の純資産9,899億円に対して約22%(編集部の計算)
(本人名義)中期経営計画の最終年度となる本年度は、これまでの取り組みを仕上げる1年であると同時に、【TAISEI VISION 2030】達成に向けた新たな成長の起点として2026年5月<br>公式サイト「株主の皆様へ」2027年3月期は売上高15.8%増の見通しだが、営業利益は横ばい、当期純利益は11.2%減の見通し
(本人名義)2027年3月期より、株主還元の更なる充実を目的として配当性向を30%から引き上げ、「下限付き配当性向40%」といたします同上1株年380円を下限として設定。前の計画の目標は配当性向25%程度だった
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編集部総評

相川氏が社長を務めるこの期間を、編集部は「目標を置き直し、置き直した目標を2年で超えた期間」と読んだ。

就任の翌年度に始まった計画が掲げたグループ営業利益1,400億円は、3年間いちども修正されないまま、最終年度に264億円で終わった。目標の18.9%である。会社はその1年前に、目標と予想の差額を含む表を有価証券報告書に載せ、「中期経営計画未達の原因分析を行い、次期中期経営計画を策定してまいります」と書いた。

2024年5月に置かれた新しい目標は、営業利益1,200億円・純利益800億円・ROE8.5%程度だった。前の計画の水準より低い。ただし策定時点の直近実績(2024年3月期の営業利益264億円・純利益402億円)から見れば、営業利益で4.5倍、純利益で約2倍にあたる。2期前の2022年3月期の営業利益960億円と比べれば1.25倍で、どの期を出発点に見るかで印象は変わる。

その目標は1年目に達成された。営業利益1,201億円、純利益1,238億円、ROE13.8%である。そして2年目の2026年3月期には営業利益1,879億円・純利益1,700億円・ROE18.7%となり、前の計画が掲げていた1,400億円と1,000億円、そして2030年度の業績数値イメージとして示されていた純利益1,500億円程度の水準も上回った。

編集部が中身を分解して確認したのは、この変化が建築事業に集まっているという点である。建築事業の営業損益は2024年3月期の561億円の損失から2026年3月期の783億円の利益へ、2年で約1,345億円動いた。同じ期間に工事損失引当金の残高は1,026億7,800万円から764億円へ減っている。売上高が3.0%減るなかで売上総利益が42.8%増えたのは、この採算の改善によるものである。

一方でROE18.7%は、分子と分母の両方が動いた結果である。分子では投資有価証券売却益546億5,600万円が税金等調整前当期純利益の22.2%を占めた。分母では、2024年11月に決議された1,500億円を上限とする自己株式取得のうち、2期で合計1,500億円分(720億5,800万円と779億4,200万円)が実行されている。純資産は9,610億円(2024年3月期末)から9,006億円(2025年3月期末)へ減り、9,899億円(2026年3月期末)へ戻った。

そして2027年3月期は、中期経営計画の最終年度である。売上高は15.8%増の2兆4,200億円が見込まれる一方、営業利益は横ばいの1,880億円、当期純利益は11.2%減の1,510億円という見通しが示されている。

今後の焦点として読み取れる点

1. 最終年度の見通しが横ばいであること。2027年3月期の営業利益予想1,880億円は、2026年3月期の1,879億円に対して0.0%増である。売上高が15.8%伸びる見通しのなかで利益が横ばいという構図をどう読むかは、公開情報からは判断できない

2. 政策保有株式の縮減がどこまで進むか。有価証券報告書には、2026年度末までに連結純資産額の20%未満へ縮減する目標が書かれている(2024年提出分で2030年度末の目標を前倒しした)。2026年3月末の保有額は上場・非上場合計で2,212億円で、同時点の純資産9,899億円に対して約22%にあたる(編集部の計算。会社が用いる分母の定義は確認していない)

3. 【TAISEI VISION 2030】の業績数値イメージの扱い。2021年に示された2030年度の水準(売上高2.5兆円程度・純利益1,500億円程度・ROE10%程度)のうち2つは既に超えている。この表は2024年提出分以降の有価証券報告書には掲載されておらず、達成計画本体での扱いは確認していない

4. 工事損失引当金の残高がどこまで下がるか。2026年3月期に764億円へ減ったが、2022年3月期の141億6,300万円に比べればなお5.4倍の水準である(編集部の計算)。「工事原価総額の見積りの合理性」は6期続けて監査上の主要な検討事項に記載されている

参考情報

1. 大成建設株式会社「第161期有価証券報告書」(2021年6月28日提出)

2. 大成建設株式会社「第162期有価証券報告書」(2022年6月29日提出)

3. 大成建設株式会社「第163期有価証券報告書」(2023年6月28日提出)

4. 大成建設株式会社「第164期有価証券報告書」(2024年6月21日提出)

5. 大成建設株式会社「第165期有価証券報告書」(2025年6月17日提出)

6. 大成建設株式会社「第166期有価証券報告書」(2026年6月16日提出)

7. 大成建設株式会社 公式サイト「株主の皆様へ」(2026年5月)

8. 大成建設株式会社 公式サイト「【TAISEI VISION 2030】達成計画・中期経営計画(2024-2026)」

9. 大成建設株式会社 公式サイト「ごあいさつ」

本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。