河合 利樹 東京エレクトロン株式会社 代表取締役社長・CEO
LEADER 004
LEADER PROFILE

河合 利樹

Toshiki Kawai
東京エレクトロン株式会社
代表取締役社長・CEO

膨張と成長は違う。

河合 利樹

概要

公開されているインタビュー、有価証券報告書、企業サイトをもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。

COMPANY
東京エレクトロン株式会社
POSITION
代表取締役社長・CEO
FOUNDED
1963年11月11日
SINCE
創業63年目
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経歴

プロフィール

氏名河合 利樹(かわい としき)
現職東京エレクトロン株式会社 代表取締役社長・CEO
生年月日1963年8月26日
出身大阪府
学歴明治大学付属中野高等学校 → 明治大学経営学部(1986年卒)

経歴

1986年
東京エレクトロン入社(営業部門)
2010年
執行役員
2015年6月
代表取締役副社長・COO
2016年1月
代表取締役社長・CEO 就任(現職)
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会社データ

設立1963年11月11日
主要事業半導体製造装置事業
資本金549億6,119万円
売上高2兆4,435億円(2026年3月期)
従業員数2,436人(単独)/20,812人(連結)
本社東京都港区赤坂5-3-1 赤坂Bizタワー

※会社データは同社公式サイトの会社概要(2026年8月時点)による。本文中の10年比較には有価証券報告書の数値を用いており、基準時点が異なります。

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人物の軌跡

「内定が出た瞬間、全ての就職活動をやめてしまいました」

河合氏の入社の経緯は、母校である明治大学の公式サイトに本人の言葉で残っています。学生時代はゴルフ部に所属し、就職活動もゴルフを優先していたといいます。

ゴルフばかりやっていたところでこの会社に導かれたので、縁があったのだろうと思います。ゴルフ優先で東京エレクトロンの内定が出た瞬間、全ての就職活動をやめてしまいました。今思えばこれが良かった。(笑)

(明治大学140周年記念サイト インタビュー)

編集部では、この語り方に一つの特徴を見ました。経営者が自らの入社を振り返るとき、その選択を後から意味づけして語ることは珍しくありません。当時からこの産業に将来性を感じていた、という説明の仕方もできたはずです。しかしこの人物は、きっかけは偶然だったと明言しています。半導体製造装置という、いまや日本の主要産業の一つを担う企業のトップが、その入口を「縁」と「ゴルフ優先」で説明しているところに、自分のキャリアを必然として飾らない姿勢が読み取れると考えました。

「1人では仕事を完結することができない」

入社後は営業部門を歩み、2010年に執行役員、2015年6月に代表取締役副社長・COO、2016年1月に社長・CEOに就任しています。組織を率いる立場になってから何が変わったかについて、同じ明治大学のインタビューで次のように述べています。

メーカー企業の場合には製品のマーケティングや開発、製造、営業、納入後のアフターサービスなどがあり、1人では仕事を完結することができないので、組織の連携が重要になります。(中略)社長になってからは特に、自分の能力の限界を会社の成長の限界にならないよう、組織力、チームの重要性を強く意識するようになりました。

(明治大学140周年記念サイト インタビュー)

編集部では、この発言の背景として学生時代の競技経験に注目しました。ゴルフは個人競技です。その出身者が「1人では完結しない」ことを組織論の出発点に置いています。同じインタビューでは、ゴルフ部で1人の遅刻が全員の連帯責任になった経験にも触れられています。個人競技のなかでチームの規律を経験した人物が、組織の連携を経営の中心に据えているという筋道が読み取れます。

「離職率は国内で1%くらいです」

組織について、河合氏は感覚ではなく数字で説明しています。

東京エレクトロンの離職率は国内で1%くらいです。世界中でビジネスを展開していますが、海外子会社を含むグループ全体でも2.5%くらいと、他社と比較して圧倒的に低いです。

(明治大学140周年記念サイト インタビュー)

この数値は取材時点のものであり、現在の水準は今回参照した公開情報では確認できませんでした。

編集部では、この人物が組織を語るときに数値を伴わせる点を特徴と捉えました。「風通しがよい」「一体感がある」といった形容ではなく、離職率という検証可能な指標を持ち出しています。自社の状態を、外部があとから確かめられる形で説明していると考えられます。

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経営哲学

同じ言葉を、別の場所で二度繰り返している

河合氏の発言を時系列に並べると、ある一文がほぼそのまま反復されていることが分かります。母校のサイトでは「自分の能力の限界を会社の成長の限界にならないよう」と語り、業界紙である電子デバイス産業新聞の2023年2月のインタビューでは、こう述べています。

重要なことは自分の能力の限界が会社の成長の限界になってはいけないことで、従業員との会話を通じて自分自身も成長させてもらうことができたし、実際にそれを経営に生かすこともあった。

(電子デバイス産業新聞 2023年2月2日号1面)

編集部では、この一致に注目しました。媒体の性格も、読者層も、取材の時期も異なる二つの場で、同じ命題が繰り返されています。大学の記念サイトは学生に向けたキャリアの話であり、業界紙は半導体業界の関係者に向けた経営の話です。話す相手が変わっても中心にある考えが動いていない点から、これは河合氏が経営を説明するときの中核的な命題の一つだと考えられます。

もう一つ注目したのは、その解決策として挙げられているものが「自分を鍛える」ではなく「従業員との会話」だという点です。トップの能力が上限になることを避ける方法として、自分の成長ではなく他者からの入力を挙げています。

「膨張と成長は違う」

2025年2月の電子デバイス産業新聞のインタビューで、河合氏は市場の拡大局面についてこう語っています。

半導体デバイス市場は30年に1兆ドル以上、50年には5兆ドルに拡大すると見込まれており、これにあわせて製造装置市場も間違いなく拡大していく。この拡大に対して、機械化できるところは機械化して効率性を高めていく必要がある。「膨張と成長は違う」ということを念頭に、さらなる市場拡大にしっかりと対応していきたい。

(電子デバイス産業新聞 2025年2月27日号1面)

編集部では、この「膨張と成長は違う」という一言を、河合氏の経営観を最も端的に表す言葉と捉えました。2030年に1兆ドル以上、2050年に5兆ドルという長期の市場見通しを自ら示しながら、規模の拡大それ自体は成果と切り分けているためです。

有価証券報告書で確認できる10年間の数字は次のとおりです。河合氏の社長就任は2016年1月であり、比較の起点となる2016年3月期は就任直後の決算にあたります。

指標(すべて連結)2016年3月期2026年3月期倍率
売上高6,639億円2兆4,435億円3.68倍
営業利益1,168億円6,249億円5.35倍
当期純利益779億円5,745億円7.38倍
従業員数10,629名20,236名1.90倍
従業員1人当たり売上高6,247万円1億2,075万円1.93倍

編集部では、売上が3.68倍になる一方で従業員数の増加が1.90倍にとどまり、結果として1人当たり売上高が1.93倍になっている点に着目しました。

ただし、この10年は半導体製造装置の市場そのものが拡大した期間でもあります。1人当たり売上高の伸びには市況の寄与が含まれるため、これを経営手腕の証明として読むことはできません。それでも、人員の増加ペースを売上の伸びより抑えた状態が10年続いていることは、「膨張と成長は違う」という発言と矛盾しない結果だと考えられます。なお提出会社単体の平均年間給与は、同じ10年間で903万円から1,380万円になっています(有価証券報告書)。

「短中長期の利益を同時に志向する」

経営者としての役割について、河合氏は2023年のインタビューで次のように定義しています。

短中長期の利益を同時に志向して拡大させる、そして企業価値を向上させることをCEOのミッションとして捉え、これまで取り組んできた。

(電子デバイス産業新聞 2023年2月2日号1面)

編集部では、この「同時に」という語に注目しました。半導体は市況の振れ幅が大きい産業です。実際に同社の売上高は2023年3月期の2兆2,090億円から2024年3月期に1兆8,305億円へ落ち込み、翌期には2兆4,316億円まで戻しています。短期の業績が上下する前提のもとで、短期・中期・長期を順番ではなく同時に扱うと明言している点に、この人物の時間感覚が表れていると考えられます。

AI時代の市場を「すごくエキサイティングだ」と表現する

2024年8月の東洋経済オンライン(有料会員限定記事のため、編集部が確認できたのは冒頭の一問一答のみ)では、AI向け半導体の拡大についてこう語っています。

すごくエキサイティングだ。トランジスタが誕生したのが1947年。23年までの76年間で半導体市場は5200億ドルまで成長してきた。これが30年には1兆ドルを超えるという。今までの成長を牽引したのはパソコンやモバイルだったが、これからはAIを駆使する時代に入る。すさまじい成長をするメインドライバーはAI向けなど先端品になる。

(東洋経済オンライン 2024年8月12日)

編集部では、この語り方に前掲の「膨張と成長は違う」との対比を見ました。市場の見通しについては強い言葉で語り、自社の運営については抑制的な言葉を使っています。外部環境への期待と、自社の運営への慎重さが分けて語られている構造だと考えました。

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人物像

リーダーシップタイプ

組織構築型。個人の突破力で事業を動かすのではなく、自分の能力が組織の上限にならない仕組みを作ることに関心を置くタイプと考えられます。判断の根拠として離職率・市場規模といった数値を用い、組織の状態も数字で説明します。

強み・特徴(編集部分析)

自分を上限にせず、その手段を対話に置く

「自分の能力の限界を会社の成長の限界にしない」という命題を、取材時期も媒体も異なる場で繰り返しています。さらにその方法として自己研鑽ではなく従業員との会話を挙げており、トップの成長を組織からの入力に依存させる考え方をとっています。

偶然を偶然として語る率直さ

入社のきっかけを「ゴルフ優先」と説明し、後付けの意味づけをしていません。自社や自らの経歴を実際より大きく語らない姿勢は、離職率や市場規模を数値で示す語り方と一貫しています。

規模の拡大と成長を切り分ける

市場が2050年に5兆ドルへ向かうという見通しを自ら示しながら、「膨張と成長は違う」と述べています。売上3.68倍に対し従業員1.90倍という10年間の実績は、この切り分けが言葉だけにとどまっていないことを示唆しています。

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編集部総評

河合利樹氏について公開情報を追って最も印象に残ったのは、社長就任を挟む10年間で売上が3.68倍になった企業のトップが、拡大それ自体を成果として語っていないことでした。

半導体製造装置は市況の変動が大きく、直近10年でも1期で売上が17%減った年があります。そうした産業で、市場の見通しには「すごくエキサイティングだ」と強い言葉を使い、自社の運営には「膨張と成長は違う」という抑制的な言葉を使い分けています。編集部では、この非対称が意図的なものと考えました。外部環境の追い風は語ってよいが、それを自社の成果と混同しない、という線の引き方です。

もう一つは、組織の話が必ず数字を伴っている点です。離職率1%(取材時点)、グループ全体で2.5%という数値が本人の口から出てきます。組織の状態を、外部があとから確かめられる形で語る姿勢がうかがえます。

一方で、公開情報から読み取れないこともありました。社長就任は2015年6月の副社長就任から約7か月後にあたります。この引き継ぎがどのような経緯と期待のもとで行われたのかは、今回参照した範囲では本人の言葉として語られていません。また、拡大局面で「膨張」を避けるために具体的に何を断ったのか——どの投資を見送り、どの案件を取らなかったのか——も、公開されている範囲では語られていません。

この人物の経営を理解するうえで最も知りたいのは、増やさなかったものの内容だと考えられます。

参考情報

参考にした公開情報

#媒体・資料内容URL
1明治大学140周年記念サイト河合利樹さんインタビュー(掲載日の明記なし)https://www.meiji.ac.jp/140th/interview/10/
2電子デバイス産業新聞特別インタビュー(2023年2月2日号1面)https://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=7986
3電子デバイス産業新聞特別インタビュー(2025年2月27日号1面)https://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=13695
4東洋経済オンライン東京エレクトロン社長「すさまじい成長に対応」(2024年8月12日・有料会員限定)https://toyokeizai.net/articles/-/789479
5東京エレクトロン株式会社会社概要https://www.tel.co.jp/about/summary/
6有価証券報告書(EDINETコード E02652)2016年3月期〜2026年3月期の財務・従業員データhttps://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
7東洋経済 役員四季報データベース生年月日・出身地・学歴・入社年—

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