曽我 貴也日本郵船株式会社 代表取締役社長 社長執行役員
LEADER 011
LEADER PROFILE

曽我 貴也

Takaya Soga
日本郵船株式会社
代表取締役社長 社長執行役員

1兆円に、目を奪われるな。

曽我 貴也

概要

公開されているインタビュー、有価証券報告書、会社発表資料をもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。

日本郵船の曽我貴也氏は、社長就任直後の2023年4月3日、本店15階ホールで社員に向けてこう語っています。「当社の連結の業績では、幸いにも2期続けて1兆円規模の利益を計上する見込みで、世間的にはどうしてもこの数字に目を奪われやすいですが、前中計で掲げてきた経営課題への取り組みとその成果についてもしっかり認識しておく必要があります」。

記録的な利益の直後に、その数字から目を離すよう促した就任あいさつです。そのうえで、しっかり認識しておく必要があるものとして4つを挙げました。Ocean Network Express社(ONE社)の基盤固め、ドライバルク事業の構造改革、航空運送事業のANAホールディングスへの譲渡、そしてESG経営の推進です。

編集部が検証したのは、その4つのその後と、1兆円の代わりに置かれた基準に数字が収まったかどうかです。

就任後の3年間の親会社株主に帰属する当期純利益は、2,286億円 → 4,777億円 → 2,117億円。1兆円規模が2期続いた後は、2,000億円台が2回、4,700億円台が1回という水準になりました。中期経営計画が目標として掲げたのは「当期純利益2,000〜3,000億円」という幅です。最終年度にあたる2027年3月期の会社予想は、2026年7月30日の上方修正を経て2,400億円となり、この幅の中に入っています。しかも計画策定時に見通しとして置かれた当期純利益2,400億円と、同じ数字です。

ただし、その上方修正の理由として会社が挙げているのは、コンテナ船の運賃市況でした。曽我氏が目を離すよう促した1兆円を生んだのも、同じコンテナ船の市況です。

COMPANY
日本郵船株式会社
SALES
2兆4,236億8,900万円
EMPLOYEES
39,830名
PRESIDENT SINCE
2023年4月
01

経歴

プロフィール

項目内容
氏名曽我 貴也(そが たかや)
生年月日1959年12月4日
現職日本郵船株式会社 代表取締役社長 社長執行役員
社長就任2023年4月1日(就任時63歳)

※生年月日・肩書は2026年6月16日提出の有価証券報告書に基づきます。決算短信では役職名を「代表取締役社長」と表記しています。

経歴

時期内容
1984年4月日本郵船入社
2010年8月自動車物流グループ長
2015年4月経営委員
2018年4月常務経営委員
2020年6月常務執行役員
2021年4月専務執行役員
2022年6月取締役・専務執行役員
2023年4月代表取締役社長・社長執行役員(現)

すべて有価証券報告書の役員欄の記載どおりです。学歴は一橋大学商学部で、ゼミは海上保険を扱っていたと本人が述べています(財界のインタビュー)。有価証券報告書に学歴の記載はありません。

編集部が注目した点。曽我氏が実行することになる中期経営計画は、本人の就任前に発表されています。「Sail Green, Drive Transformations 2026 - A Passion for Planetary Wellbeing -」の公表は2023年3月10日で、開示文書の代表者名は当時の社長・長澤仁志氏でした。曽我氏の社長就任はその約3週間後、2023年4月1日です。

ただし、計画の対象期間はすべて曽我氏の在任中にあたります。期間は2023年度から2026年度までの4年間、決算期でいえば2024年3月期から2027年3月期です。策定を発表した名義は前任者、実行の4年間はすべて本人という関係になります。

なお曽我氏自身は、就任あいさつでこの計画を「こうした中で作り込み、発表したのが、新しい中期経営計画」と述べており、他人が作ったものとしては語っていません。編集部では、名義の違いは「対外的な策定責任の所在」にとどまるものと考え、本記事の答え合わせは曽我氏が実行を担った計画に対するものとして進めます。

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会社データ

項目内容
会社名日本郵船株式会社(Nippon Yusen Kabushiki Kaisha)
本社東京都千代田区丸の内二丁目3番2号 郵船ビル
設立1885年(明治18年)9月29日(2025年に創業140周年)
資本金1,443億1,983万3,730円
従業員数39,830名(連結)/1,370名(単体)(2026年3月31日現在)
売上高2兆4,236億8,900万円(2026年3月期・連結)
報告セグメント定期船/航空運送/物流/自動車/ドライバルク/エネルギー/その他

※設立・本社・資本金は公式サイトの会社概要、従業員数・売上高・報告セグメントは有価証券報告書に基づきます。

編集部が注目した点。連結従業員数は前期の35,230名から39,830名へ、1年で4,600名増えています。有価証券報告書はその背景として「2025年12月、欧州物流企業Waldenグループのヘルスケア物流事業を買収し、同事業を担う42社をYLグループ傘下に迎え入れました」と記しています。利益が縮んだ年に、人と会社は増えているという形です。

なお報告セグメントは2025年3月期の決算から区分が変わっており、従来の「不定期専用船事業」が自動車・ドライバルク・エネルギーの3つに分割されています。本記事のセグメント比較は、この新しい区分に組み替えられた数字どうしで行っています。

03

人物の軌跡

「世間的にはどうしてもこの数字に目を奪われやすい」

2023年4月3日、社長就任あいさつでの発言です。曽我氏は前中期経営計画の4年間を振り返り、新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻、米中間の緊張、英国のEU離脱を挙げたうえで、業績についてこう述べました。

「当社の連結の業績では、幸いにも2期続けて1兆円規模の利益を計上する見込みで、世間的にはどうしてもこの数字に目を奪われやすいですが、前中計で掲げてきた経営課題への取り組みとその成果についてもしっかり認識しておく必要があります」

編集部の見方。この発言が行われた時点の数字を確認しました。2022年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は1兆91億円、2023年3月期は1兆125億円です。創業以来の水準を2期続けて更新した直後に、社長に就く人物が社員に向けて最初に言ったのが「この数字に目を奪われやすい」でした。

そのうえで曽我氏が挙げた4つは、いずれも前中期経営計画の期間に取り組んだ経営課題とその成果として語られています。

  1. ONE社の基盤固め——「発足当初の生みの苦しみを乗り越え、競争力のある確かな事業体としての地位を築くに至っています」
  2. ドライバルク事業の構造改革——「高コスト船の処理もほぼ終え、市況に対する耐性の強化を図ることができました」
  3. 航空運送事業への取り組み——「この唯一の価値ある事業会社を未来にわたって存続させる最善の方法が何であるかを悩み抜き、最終的にANAホールディングス(株)への譲渡という方向を決めました」
  4. ESG経営の推進——「長澤前社長の強いリーダーシップの下で進めてきた」

編集部では、この4つをその後の推移で確認することにしました。利益の絶対額ではなく、本人が「成果」と呼んだものがその後どうなったかを見るのが、この発言に対する筋の通し方だと考えたためです。

「我々が想定もしていないような利益」

2024年2月8日に公開された、雑誌『財界』のインタビューでの発言です。2期連続で純利益が1兆円を超えたことについて問われた曽我氏は、コロナ禍の物流混乱を説明したうえでこう答えています。

「荷主のお客様にとっては、何とか船に貨物を積んで運んで欲しいというのは当然なので、それに伴って運賃が上昇していきました。結果として、おっしゃったように2年間にわたって我々が想定もしていないような利益を上げることができました。ただ、お客様にはずいぶんご迷惑をおかけしたと思っています」

編集部の見方。同じ利益について、就任あいさつでは「目を奪われやすい」、この取材では「想定もしていない」「お客様にはご迷惑をおかけした」と語っています。過去最高益について、市況と物流混乱の影響が大きかったという認識を示し、そこに顧客への言及を添えているという点で、扱い方は少なくとも就任からこの取材までの間、変わっていません。

編集部では、この点を記録しておくべきだと考えました。この後に見る数字は、本人がもともと基準にしていなかった水準からの落差だからです。

「柔軟にそして機敏に仮説の修正を行っていく」

同じ就任あいさつの終盤の発言です。

「今まで以上に思ってもみないことが発生して、事業環境が大きく変わるかもしれません。その時は、マネジメントとして柔軟にそして機敏に仮説の修正を行っていくつもりですし、皆さんのしなやかな行動力にも大いに期待しています」

編集部の見方。計画の初日に「計画を修正するかもしれない」と述べた発言です。この4年間に何が修正され、何が据え置かれたのかは確認できます。後述する答え合わせ④で扱います。

04

経営哲学

答え合わせ①:本人が成果として挙げた4つは、どうなったか

1つ目のONE社。コンテナ船事業を担う持分法適用会社です。曽我氏は「競争力のある確かな事業体としての地位を築くに至っています」と評価していました。

決算期定期船事業の経常利益うちONE社からの持分法投資利益
2025年3月期2,743億円2,471億円
2026年3月期497億円190億円

ONE社からの持分法投資利益は、1年で2,281億円減りました。同期のグループ全体の経常利益の減少額は2,797億円ですから、減少のおよそ8割がこの1社から出ています。決算短信は理由を「新造船の竣工による船舶供給量の増加に加え、関税政策や中東情勢等の影響を受け、運賃市況は不安定に推移した結果、前年度の水準を下回りました」と記しています。

編集部の見方。ここで確認できるのは、「基盤が固まった」という評価と、「利益が市況で振れる」という性質は両立するということです。ONE社の利益が落ちた理由として会社が挙げているのは運賃市況であり、事業体としての競争力の欠如ではありません。曽我氏の評価が外れたと読むことは、公開資料からはできません。

2つ目のドライバルク事業。曽我氏は「高コスト船の処理もほぼ終え、市況に対する耐性の強化を図ることができました」と述べていました。

決算期売上高経常利益
2025年3月期6,072億円181億円
2026年3月期5,510億円95億円

経常利益は1年で約半分になりましたが、赤字にはなっていません。リーマンショック前後に発注した高コスト船が長く負担になっていたという曽我氏の説明を踏まえれば、市況の下降局面で黒字を維持したこと自体を「耐性」と読むこともできます。編集部では、この項目については判定を保留します。比較対象となる過去の下降局面の数字を、同じセグメント区分で揃えることができなかったためです。

3つ目の航空運送事業。これは決着しています。2025年8月1日を効力発生日として、日本貨物航空株式会社とANAホールディングス株式会社との株式交換が実行されました。セグメントの売上高は1,857億円から411億円へ変わっています。

編集部の見方。曽我氏が「悩み抜き、最終的に譲渡という方向を決めました」と語った案件が、本人の在任中に実行まで到達しました。前任体制で決めた方針を、後任が完了させた形です。

4つ目のESG経営。中期経営計画の5つの変革の1つ(EX=脱炭素戦略)として継続されています。有価証券報告書は2030年度目標として「Scope1・Scope2を対象に2021年度比45%総量削減」「低炭素燃料の使用率38%」「代替燃料船の導入隻数51隻」を掲げ、進捗を開示しています。目標年度が2030年度のため、本記事では達成の可否を判定できません。

答え合わせ②:目標は「点」ではなく「幅」で示されていた

ここで、検証の基準を先に確定させます。中期経営計画は、数値を2通りの形で示していました。

1つは「財務目標管理のKPI」として掲げられた幅です。計画資料(2023年3月10日)は、当期純利益を「2,000〜3,000億円(26年度時点の目安)」、ROEを「8〜10%(26年度時点の目安)」、ROICを「6.5%以上」としています。

もう1つは「財務計画の見通し」として示された点です。同じ資料の次の頁は「中期経営計画最終年度は経常利益2,700億円を見込む」と題し、2026年度の経常利益2,700億円、当期純利益2,400億円、ROIC6.5%、ROE10.2%、自己資本比率57%という数字を並べています。

区分当期純利益ROEROIC経常利益
KPI(目標・幅)2,000〜3,000億円8〜10%6.5%以上—
財務計画(見通し・点)2,400億円10.2%6.5%2,700億円

編集部の見方。この区別は重要です。2,400億円や2,700億円は「目標」ではなく「見通し」として書かれた数字であり、達成義務のある目標として扱うと評価が厳しくなりすぎます。本記事では、目標としては幅を、参考としては見通しの数字を、それぞれ区別して用います。

なお、この幅がどこまで実質的な目標だったのかについて、会社が説明した資料は編集部が確認した範囲では見つかりませんでした。

答え合わせ③:最終年度の予想は、4年前に置いた数字に並んだ

就任からの実績と、最終年度の会社予想を並べます。

決算期売上高経常利益当期純利益ROE自己資本比率
2022年3月期2兆2,807億円1兆31億円1兆91億円86.0%55.6%
2023年3月期(就任直前)2兆6,160億円1兆1,097億円1兆125億円48.3%65.6%
2024年3月期(就任1年目)2兆3,872億円2,613億円2,286億円8.9%62.3%
2025年3月期2兆5,887億円4,908億円4,777億円17.2%67.6%
2026年3月期2兆4,236億円2,111億円2,117億円7.1%59.1%
2027年3月期(会社予想)2兆8,810億円2,500億円2,400億円——

※2022年3月期から2026年3月期までは有価証券報告書の【主要な経営指標等の推移】、2027年3月期は2026年7月30日公表の修正後の業績予想です。

編集部が注目したのは、この最終年度の予想が途中で書き換えられていることです。

2027年3月期の通期予想経常利益当期純利益1株当たり年間配当
期初予想(2026年5月11日)1,850億円1,950億円200円
修正後(2026年7月30日)2,500億円2,400億円240円(8月5日修正)

期初の当期純利益予想1,950億円は、目標レンジの下限2,000億円を下回っていました。それが7月30日の上方修正で2,400億円となり、レンジの中に入りました。しかもこの2,400億円は、計画策定時に見通しとして置かれた2026年度の当期純利益と同じ数字です。経常利益は2,500億円で、見通しの2,700億円に対して92.6%にあたります。

ただし、上方修正の理由は市況です。会社は次のように記しています。

「コンテナ船の運賃市況が期初の想定を上回って推移していることから、コンテナ船事業を運営する当社持分法適用会社 OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.の業績が当初想定を上回る見込です。また、ドライバルク事業、エネルギー事業における堅調な市況推移や、円安の進行等も踏まえ、業績予想を上方修正しました」

編集部の見方。曽我氏が「目を奪われやすい」と述べた1兆円を生んだのはコンテナ船の運賃市況であり、最終年度の予想を目標レンジの中へ押し上げたのも、同じコンテナ船の運賃市況です。上げた要因と下げた要因が同じであることは、この会社の事業の性質を示しています。

なお、効率の指標は目標水準に届いていません。2026年6月提出の有価証券報告書は、中期経営計画の目標と直近実績を次のように対比しています。

指標2025年度実績中期目標(2026年目途)
当期純利益2,117億円2,000〜3,000億円
ROIC6.4%6.5%以上
ROE7.1%8.0〜10.0%

目標年度の1年前の時点で、3つのうち2つが目標の水準を下回っています。当期純利益がレンジに収まる一方でROEが下限を割っているのは、分母である自己資本が厚いためです。自己資本比率は2025年3月期の67.6%から2026年3月期の59.1%へ下がっていますが、それでも6割近い水準です。利益額は目標の範囲にあり、効率は範囲に届いていないという分かれ方をしています。

答え合わせ④:修正されたもの、据え置かれたもの

就任あいさつの「マネジメントとして柔軟にそして機敏に仮説の修正を行っていく」という発言を踏まえ、計画の何が動いたかを確認しました。

事業投資の計画は増額されています。2026年6月提出の有価証券報告書は、こう記しています。

「中期経営計画策定時点において2026年度までに予定していた1.2兆円規模の事業投資を1.6兆円規模に増額して実施します。当連結会計年度末時点で中期経営計画期間中の投資が決定している案件は約1.3兆円です」

当初計画から4,000億円の増額です。実際に、2025年12月には欧州のWaldenグループからヘルスケア物流事業(42社)を取得しています。

将来の見通しも引き上げられています。会社は統合報告書「NYKレポート2025」の発行に際して、社長メッセージの内容を次のように説明しています。

「当社社長の曽我貴也によるメッセージでは、中期経営計画の着実な進捗により利益の質が大きく改善しており、環境対応やDX、事業構造改革の成果を背景に2030年度の利益見通しを上方修正したほか、資本政策の強化や株主還元の拡充を進めることで安定的な利益創出を図る(後略)」

※これは会社によるメッセージの要約であり、曽我氏本人の発言をそのまま引用したものではありません。

一方、据え置かれたものがあります。2026年6月提出の有価証券報告書は、最終年度の中期目標として当初と同じ「当期純利益2,000〜3,000億円」「ROIC6.5%以上」「ROE8.0〜10.0%」を掲げています。投資額と2030年度の見通しは動かし、最終年度の目標そのものは動かしていないという形です。

編集部の見方。編集部では、投資額の増額と2030年度見通しの引き上げを、就任時の「柔軟に仮説の修正を行っていく」という発言と整合する動きとして受け止めました。ただし、この2つが本人の言う「仮説の修正」にあたると会社や本人が説明した資料は、編集部が確認した範囲では見つかっていません。

株主還元では、2025年5月8日の取締役会決議に基づく自己株式取得(28,779,900株・取得価額約1,500億円)が2026年4月30日までに完了し、全株消却されています。配当は1株あたり年間325円(2025年3月期)→230円(2026年3月期)→240円(2027年3月期予想)という推移です。会社は配当下限額を年間200円と定めており、期初予想の200円はその下限と同額でしたが、業績予想の上方修正に合わせて240円へ引き上げられました。

05

人物像

リーダーシップタイプ

基準設定型。就任の直後に、社員に向けて「記録的な利益」と「前中計の取り組みと成果」のどちらに目を向けるべきかを自分で示し、その示し方を少なくとも翌年のインタビューまで変えていません。

強み・特徴(編集部分析)

  • 好業績の直後に、その数字を基準から外した。2期連続1兆円という記録の直後の就任あいさつで「世間的にはどうしてもこの数字に目を奪われやすい」と述べ、代わりに前中計で取り組んだ4つの経営課題を提示しました。
  • 前任体制で決めた案件を完了させた。航空運送事業の日本貨物航空は、2025年8月1日にANAホールディングスとの株式交換が実行されました。曽我氏が就任あいさつで「悩み抜き」と語った案件です。
  • 計画は動かしている。事業投資は1.2兆円規模から1.6兆円規模へ増額され、2030年度の利益見通しも引き上げられました。2025年12月には欧州のヘルスケア物流事業(42社)を取得しています。
  • 利益の性質を言い換えない。過去最高益について、市況と物流混乱の影響が大きかったという認識を示し、「お客様にはずいぶんご迷惑をおかけした」と付け加えています。

課題として読み取れる点(編集部分析)

  • 効率の指標が目標水準に届いていません。2025年度実績はROIC6.4%(目標6.5%以上)、ROE7.1%(目標8.0〜10.0%)。有価証券報告書が自ら並べた3指標のうち、目標年度の1年前の時点で2つが目標の水準を下回っています。
  • 利益の変動の大きさは、就任後も変わっていません。在任3年間の当期純利益は2,286億円→4,777億円→2,117億円で、最大と最小の差は2倍を超えます。2026年3月期の減益の8割はONE社1社の持分法投資利益の減少から出ています。
  • 上方修正の理由も市況でした。2026年7月30日の業績予想の上方修正で会社が最初に挙げたのは、コンテナ船の運賃市況とONE社の業績です。目を離すよう促した数字を作ったのと、同じ要因が働いています。
  • 手前の目標は据え置いたまま、先の見通しを引き上げました。投資額と2030年度見通しは修正された一方、最終年度の目標は当初の水準のまま有価証券報告書に掲げられています。「柔軟な修正」がどこまで及ぶのかについて、会社の説明は編集部が確認した範囲では見つかりませんでした。
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編集部総評

社長就任の直後、社員に向けたあいさつで、自社の過去最高益から目を離すよう促した人物です。「世間的にはどうしてもこの数字に目を奪われやすい」——2期続けて1兆円という数字の直後に、その数字を基準から外すところから曽我氏の3年間は始まりました。

編集部が検証したのは、代わりに彼が挙げた4つがどうなったかです。航空運送事業のANAホールディングスへの譲渡は、2025年8月1日に株式交換として実行されました。ONE社は、曽我氏が「競争力のある確かな事業体」と評価したまま、運賃市況の下落で持分法投資利益を2,471億円から190億円へ落としています。ドライバルク事業は「市況に対する耐性」を強化したと本人が述べた事業で、市況の下降局面でも黒字を保ちました。ESGの目標年度は2030年度で、まだ答えは出ていません。

数字の側は、途中で書き換わりました。在任3年間の当期純利益は2,286億円、4,777億円、2,117億円。中期経営計画の最終年度である2027年3月期の予想は、期初には1,950億円で、計画が掲げた2,000〜3,000億円というレンジの下限を割っていました。それが2026年7月30日に2,400億円へ引き上げられ、レンジの中に入りました。この2,400億円は、4年前の計画資料が2026年度の見通しとして書いた当期純利益と、同じ数字です。

ただし、その修正の理由は市況でした。会社が最初に挙げたのはコンテナ船の運賃市況と、ONE社の業績が当初想定を上回る見込みであることです。曽我氏が「目を奪われやすい」と述べた1兆円を生んだのも、コンテナ船の運賃市況でした。下げたのも上げたのも同じ要因だったことになります。

編集部が最後まで判定できなかったのは、「1兆円に目を奪われるな」という基準の置き直しが、どこまで実を結んだのかです。利益額は目標の範囲に戻りました。一方でROEは7.1%、ROICは6.4%で、いずれも目標の水準に届いていません。額は範囲に入り、効率は入っていない。そしてその額を範囲に押し戻したのは、本人が基準から外そうとした市況でした。

創業140年を迎えた2025年、日本郵船の従業員は1年で4,600名増えました。利益が縮んだ年に、買収した42社が加わったためです。事業投資は1.2兆円規模から1.6兆円規模へ増額されました。規模を広げながら、効率の目標には届いていない。中期経営計画「Sail Green, Drive Transformations 2026」の答えは、2027年3月期の決算として出ることになります。

参考情報

参考にした公開情報

本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。