斉藤 秀親三菱倉庫株式会社 代表取締役 社長
LEADER 014
LEADER PROFILE

斉藤 秀親

Hidechika Saito
三菱倉庫株式会社
代表取締役 社長

約束の1.5倍、売った。

斉藤 秀親

概要

公開されている会社発表資料、有価証券報告書、統合報告書をもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。

三菱倉庫の斉藤秀親氏は、社長に就任した日の文書で、期限と数字を添えた約束をいくつも並べています。2023年4月28日、就任と同時に発表した決算とあわせて公表した「社長メッセージ」です。末尾に本人の署名があります。

「経営計画[2022-2024]における最終年度の利益目標としている営業利益200億円以上を確実に達成するよう努めてまいります」

「政策保有株式売却については、前期中の約120億円を含め、今後も株式所有先との対話を進めたうえで経営計画[2022-2024]期間中に計画どおり400億円以上売却します。更に売却を進め、政策保有株式の純資産に対する割合を2025年度末までに20%未満とする計画です」

編集部が注目したのは、この文書が「いつまでに、何を、どれだけ」の3つをすべて備えていたことです。期限を切らずに方向だけを述べる社長メッセージは珍しくありません。斉藤氏は営業利益の額、売却額、比率、そして達成期限を、それぞれ数字で置いていました。

編集部が検証したのは、その期限が到来した後に何が起きたかです。

営業利益200億円は、目標どおりの水準で着地しました。売却額は約束の400億円に対し、3年で613億円に達しています。約束の1.5倍です。自己株式の取得も、300億円以上という計画に対して400億円を実施しました。ROEは、本人が6.9%と見込んだ期に7.3%となり、7%台を下回らずに済みました。

編集部が検証した5項目のうち、届かなかったのは比率の1つでした。2025年度末の政策保有株式の対純資産比率は21.6%で、目標の「20%未満」を1.6ポイント上回りました。会社は2026年6月の開示資料に、その理由を「2025年度の株価上昇により目標未達成」と記しています。

売却は約束の1.5倍こなしたのに、比率が届かなかった。この一見矛盾する結果が、政策保有株式という資産の性質をよく表しています。何が起きていたのかを、公開資料でたどります。

COMPANY
三菱倉庫株式会社
SALES
2,734億4,600万円
EMPLOYEES
4,991名
PRESIDENT SINCE
2023年4月
01

経歴

プロフィール

項目内容
氏名斉藤 秀親(さいとう ひでちか)
生年月日1964年7月5日
現職三菱倉庫株式会社 代表取締役 社長
社長就任2023年4月
入社1987年4月

※生年月日は有価証券報告書(2026年3月期)の役員一覧に基づきます。氏名の読みは同社公式サイトの役員紹介ページの表記によります。出身地・学歴は公開情報では確認できませんでした。

経歴

時期役職
1987年4月三菱倉庫入社
2018年4月大阪支店長
2020年4月国際輸送事業部長
2021年6月執行役員 国際輸送事業部長
2022年4月常務執行役員
2022年6月代表取締役 常務執行役員
2023年4月代表取締役 社長(現在)

出典:同社公式サイトの役員紹介ページ、および有価証券報告書(2026年3月期)の役員一覧。両者の記載は一致しています。

入社から社長就任まで36年。支店長を経て、2020年から国際輸送事業を率いています。その在任期間は、同社の国際運送取扱事業が業績を大きく押し上げた時期と重なります。斉藤氏が就任時に振り返った2023年3月期の実績には、次のような説明が添えられていました。

「北米を中心とする世界的なサプライチェーンの混乱、輸送コンテナ不足等にともなう運賃単価の大幅な上昇(2021年から2022年にかけて運賃単価が2倍以上に上昇)」

この期の営業収益は3,005億円、営業利益は230億円で、いずれも当時の過去最高でした。斉藤氏は、自らが事業部長として率いた領域が最高益を記録した直後に、社長に就いています。

前任は藤倉正夫氏です。2018年4月に社長となり、2023年4月に取締役会長へ移りました。斉藤氏が引き継いだ経営計画[2022-2024]は、この藤倉氏体制のもとで策定されたものです。ただし計画の実行期間のうち2023年度と2024年度の2年は、斉藤氏が社長を務めた期間にあたります。

02

会社データ

項目内容
会社名三菱倉庫株式会社
設立1887年4月(「有限責任東京倉庫会社」として設立。1918年3月に現商号へ変更)
本店所在地東京都中央区日本橋一丁目19番1号
証券コード9301
資本金223億93百万円
事業内容物流事業(倉庫・陸上運送・国際運送取扱・港湾運送)、不動産事業
連結従業員数4,991名(2026年3月末。臨時従業員2,719名は含まず)
連結営業収益2,734億円(2026年3月期)
連結純資産3,845億円(2026年3月末)
社長就任年2023年

※設立年月は有価証券報告書の沿革の記載によります。同社の起源は三菱為換店の倉庫業務で、1887年に「有限責任東京倉庫会社」として設立され、1918年に「三菱倉庫株式会社」へ商号を変更しています。従業員数の内訳は物流事業4,588名、不動産事業262名、全社141名です。

03

人物の軌跡

「確実に達成する」——就任日に並べた数字

斉藤氏が社長になった2023年4月28日は、2023年3月期の決算発表日でもありました。同社はこの日、決算の内容と経営の方向性を説明する社長名義の文書を公表しています。

この文書の特徴は、数字と期限の密度です。営業利益200億円以上(2024年度)、政策保有株式の売却400億円以上(2022〜2024年度)、純資産に対する比率20%未満(2025年度末)、自己株式の取得300億円以上(2022〜2024年度)、CO2排出量の50%削減(2030年まで)。それぞれに達成時期が添えられています。

表現も、努力の表明にとどまっていません。

「経営計画[2022-2024]期間中に計画どおり400億円以上売却します」

売却額については「します」と言い切っています。営業利益については「確実に達成するよう努めてまいります」で、こちらは努力の表明に近い書き方です。編集部は、この語尾の使い分けにも意味があると考えました。自社の判断だけで実行できる株式の売却は断定し、市場環境に左右される利益額は努力の形にしている、という読み方ができます。

国際輸送の現場から

斉藤氏の直近の経歴は、大阪支店長(2018年)、国際輸送事業部長(2020年)です。海外の物流網を扱う部門を率いた後に、経営の全体を任されました。

就任時の文書でも、海外事業への言及が具体的です。

「当社は今月26日にベトナム・In Do Trans Logistics社への出資、また28日にアメリカ・Cavalier Logisticsグループの連結子会社化についてプレスリリースを行いました」

社長就任の発表と同じ週に、2件の海外案件が公表されています。就任前から進んでいた案件と考えられますが、いずれも国際輸送の領域です。

「いつもを支える。いつかに挑む。」

就任から2年後の2025年、同社は経営計画[2025-2030]を発表します。斉藤氏の体制で初めて策定された自前の計画です。

現在公開されている社長メッセージ(2025年4月付)で、斉藤氏はこの計画のテーマを紹介しています。

「新経営計画[2025-2030]のテーマは、いつもを支える。いつかに挑む。Supporting Today, Innovating Tomorrow. です。これは、私たちが2024年に策定したパーパスそのものです」

同時に、6年前に公表していた2030年の目標像も書き換えました。

「2019年、私たちは2030年に目指す姿を「MLC2030ビジョン」として公表しましたが、その後数年の間で、気候変動や地政学リスクの高まり、DXの進化等、世界は予想を超える速さで変化しています。このため、今回新たに経営計画を策定するにあたり、MLC2030ビジョンを「トータルロジスティクスと街づくりを世界で展開し、社会のいつもを支え、非連続な成長を実現する」と定義しなおしました」

「定義しなおした」と自ら書いています。前任体制が置いた目標像を引き継ぐのではなく、言葉を入れ替えたことを明示する書き方です。

なお、就任時の文書では「現在策定中のパーパス」と述べていました。2023年4月の時点で作業中だったものが、2024年に「いつもを支える。いつかに挑む。」として完成し、2025年の経営計画のテーマになった、という流れになります。

04

経営哲学

就任日に置かれた約束が、期限を過ぎてどうなったかを1つずつ確認します。

答え合わせ①:営業利益200億円以上——目標どおりの水準で着地

対象は2024年度、決算期でいえば2025年3月期です。

同社が2025年2月に発表した経営計画[2025-2030]の資料には、前計画の振り返りが載っています。

項目2021年度実績2024年度見通し2024年度目標差
営業収益2,572億円2,700億円2,600億円+100億円
営業利益181億円200億円200億円0
ROE5.4%7.9%7.0%+0.9ポイント
DOE2.0%3.0%2.0%+1.0ポイント

出典:経営計画[2025-2030](2025年2月28日発表)7ページ。会社は「経営計画[2022-2024]で掲げた最終年度営業利益200億円、ROE7%の目標は達成見込み」と記しています。

有価証券報告書で確認した2025年3月期の連結営業利益は203億円でした。目標の200億円に対し、3億円上回っています。着地は目標のほぼ真上です。

営業収益は2,840億円で、振り返り資料の見通し2,700億円をさらに上回りました。

なお、上の表のROE 7.9%は2025年2月時点の見通しです。有価証券報告書に記載された2025年3月期の実績は8.2%でした。以下、実績の数字はすべて有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」(連結)から取っています。

答え合わせ②:政策保有株式の売却400億円以上——3年で613億円

「経営計画[2022-2024]期間中に計画どおり400億円以上売却します」の対象期間は2022年度から2024年度、決算期でいえば2023年3月期から2025年3月期の3期です。

各期の有価証券報告書に、売却によって資金化した額が記されています。

決算期売却による資金化額売却した銘柄
2023年3月期120億81百万円上場株式6銘柄の全部、5銘柄の一部
2024年3月期169億1百万円特定投資株式3銘柄の全部、4銘柄の一部
2025年3月期323億86百万円特定投資株式8銘柄の全部、4銘柄の一部
3期合計613億68百万円

出典:2023年3月末の数値は同社「政策保有株式に関する方針」ページ、2024年3月期・2025年3月期は各期の有価証券報告書。

約束した400億円に対して613億円。目標の1.53倍です。しかも売却のペースは年ごとに上がっています。120億円、169億円、324億円と、3年で2.7倍になりました。

期限の翌年にあたる2026年3月期には、1年だけで693億77百万円を売却しています。3年分の約束を1期で超えた計算になります。

答え合わせ③:純資産に対する比率20%未満——21.6%

編集部が検証した5項目のうち、届かなかったのはこの1つです。

同社が2026年6月29日に開示した「企業価値向上への取組み」に、比率の推移が載っています。

年度売却額期末残高対純資産比率
2021年度—1,207億円34.7%
2022年度—1,182億円33.4%
2023年度—1,686億円41.0%
2024年度325億円1,155億円30.5%
2025年度693億円831億円21.6%

出典:「企業価値向上への取組み」(2026年6月29日開示)18ページ。表中の売却額は同資料の表記(億円単位)です。有価証券報告書で確認した上場株式の売却による資金化額は2024年度が323億86百万円、2025年度が693億77百万円で、上表とは数億円の差があります。差の理由は公開情報では特定できませんでした。

期限だった2025年度末の比率は21.6%でした。目標の「20%未満」を1.6ポイント上回っています。会社はこの資料に、次のように記しています。

「2023年度以降縮減加速。保有残高・対純資産比率は半減」

「2025年度の株価上昇により目標未達成」

未達成であることを、会社自身が明記しています。同時に、残高と比率が半減したことも併記しています。

編集部が会社公表の21.6%を再現できるか検算したところ、上場株式804億円に非上場株式27億円を加えた831億円を、連結純資産3,845億円で割った値が21.62%となり、公表値と一致しました。この比率は上場・非上場を合わせた政策保有株式を、連結の純資産で割ったものです。上表の残高も同じ基準です。上場株式だけで計算すると20.91%になります。いずれの基準でも20%は上回りますが、目標との差の大きさは変わります。

同じ方法で過去4期も検算し、いずれも会社公表の比率と一致することを確認しました。以降で扱う数字は、この基準で統一しています。

答え合わせ④:なぜ1.5倍売って、比率が届かなかったのか

ここが、この3年でもっとも読み解きにくい部分です。

手がかりは、2023年度の行にあります。売却を進めていたはずの2023年度に、残高が1,182億円から1,686億円へ504億円増えています。

上場株式だけで見ても同じことが起きていました。有価証券報告書によれば、上場政策保有株式は1,075億11百万円(33銘柄)から1,658億61百万円(32銘柄)へ増えています。この期に169億円を売却し、銘柄数も1つ減らしたうえで、金額は583億円増えたことになります。

理由は、政策保有株式が時価で計上される資産であることです。保有先の株価が上がれば、売却を進めても残高は膨らみます。

会社はこの構造を、2026年6月の資料で数字にして開示しています。

「(株価上昇(期首比約1.4倍)による影響を除き、期首株価で算定した場合の純資産比率は約15%)」

期首の株価で計算すれば、比率は約15%でした。目標の20%未満を、5ポイント下回る水準です。1年間で保有株の価値が約1.4倍になったことが、目標との差を生んでいます。

比率の分母である純資産も、この期に増えていました。3,792億円から3,845億円へ、52億円の増加です。

ただし、この増加は売却によって生じたものではありません。政策保有株式の含み益は、売却する前から「その他有価証券評価差額金」として純資産に計上されています。売却は、それを利益剰余金へ振り替える処理にあたり、純資産の総額を大きく動かしません。2026年3月期の実際の動きも、評価差額金が697億円から499億円へ減り、利益剰余金が168億円増えて、純資産全体では52億円の増加でした。

有価証券報告書は、純資産が増えた理由をこう説明しています。

「配当の支払・自己株式の取得及び政策保有株式の縮減を進めたものの、保有上場株式の時価増加もあり、前期末比52億4千万円増の3,845億1千7百万円となりました」

会社は政策保有株式の縮減を、純資産を減らす方向の要因として挙げています。純資産を押し上げたのは、売却ではなく保有株の時価上昇でした。

つまり比率の分子(保有株の時価)と分母(純資産)は、どちらも同じ「株価上昇」の影響を受けていたことになります。会社が「期首株価で算定した場合の純資産比率は約15%」と示したのは、この影響を取り除いたときの姿です。売却の量ではなく、株価という外の条件が、目標との差を決めていました。

なお、2026年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は547億円で、前期の318億円から229億円増えています。決算説明資料には「政策保有株式の縮減を進めたことにより投資有価証券売却益が大幅に増加しました」と記されており、この増加は当期の利益に表れました。純資産への影響と当期利益への影響は、分けて見る必要があります。

答え合わせ⑤:ROE7%台への早期復帰——見込みを上回り7%台にとどまった

就任時の文書には、次の一節がありました。

「ROEは6.9%を見込んでおりますが、7%台への早期復帰を目指すべく業績、資本効率の向上に取り組んでまいります」

有価証券報告書で確認したROEの推移は次のとおりです。

決算期ROE
2023年3月期7.8%
2024年3月期7.3%
2025年3月期8.2%
2026年3月期14.5%

この一節は、当期(2024年3月期)のROEが6.9%に下がる見込みだという前提で書かれています。実績は7.3%で、見込みを0.4ポイント上回り、7%台にとどまりました。翌期の2025年3月期は8.2%に上がっています。本人が述べた「7%台」の水準は保たれました。

ただし、この数字の中身について、会社自身が注記を付けています。2026年6月の開示資料です。

「2025年度は政策保有株式売却に伴う特別利益計上により大きく上昇」

「政策保有株式売却による影響を除いたROE(5%程度)は株主資本コスト(6~7%)を下回る水準で推移」

2026年3月期の14.5%は、政策保有株式の売却益を含んだ数字です。その影響を除くと5%程度で、会社が自ら置いた株主資本コスト6〜7%を下回ると開示しています。

売却によって当期の利益とROEは押し上げられる。一方で、売却益を除いた本来の収益力は、まだ資本コストに届いていない。同社はこの2つを並べて開示しています。

答え合わせ⑥:自己株式の取得300億円以上——400億円

就任時の文書には、株主還元についての記述もありました。

「経営計画[2022-2024]期間中に300億円以上の実施を計画する自己株式の取得については変更なく、当期から来期中に200億円相当を取得、今後も機動的に実施のうえ株主還元の充実を図ってまいりたいと考えております」

有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書から、各期の「自己株式の取得による支出」を拾いました。

決算期自己株式の取得による支出
2023年3月期100億28百万円
2024年3月期100億28百万円
2025年3月期200億52百万円
3期合計401億8百万円

「企業価値向上への取組み」に掲載された自己株式取得額のグラフでも、この3年は100億円、100億円、200億円と記されています。計画の300億円以上に対して、実績は400億円でした。

本人が「当期から来期中に200億円相当」と述べた2024年3月期と2025年3月期の2期についても、合計300億80百万円で、述べた水準を上回っています。

なお同社は2024年11月に1株を5株に分割しています。以降の1株当たりの数字は分割後の基準です。

答え合わせ⑦:CO2の50%削減——目標の数字が42%に更新された

就任時の文書には、次の一文がありました。

「また、2030年までに排出するCO2を50%削減します」

期限は2030年で、まだ到来していません。ただし目標そのものが、この間に書き換えられています。

統合報告書2025には、現在の目標がこう記されています。

「2030年度までに2022年度比で当社グループScope1+2のGHG排出量42%削減を目指しています」

さらに、その変更の経緯も明記されています。

「2025年3月に公表した『三菱倉庫グループサステナビリティ経営について』において…2030年度GHG排出量削減目標を…42%削減に更新しました」

「50%」から「42%」へ、数字が下がっています。

ただし編集部は、この2つを直接比べることはできないと判断しました。就任時の文書には、50%削減の基準年が書かれていないためです。現行の42%は「2022年度比」と明示されていますが、2023年4月の文書には比較の起点が示されていません。基準年が異なれば、削減率の数字が同じでも意味は変わります。会社が数字を「更新」したと述べていることは事実ですが、それが目標水準の引き下げにあたるかどうかは、公開情報では確認できませんでした。

実績は目標に向かって進んでいます。統合報告書2025のESGデータによれば、Scope1+2のGHG排出量は次のように推移しています。

年度Scope1+2のGHG排出量
2022年度(基準年)76,621トン-CO2e
2023年度69,862トン-CO2e
2024年度62,760トン-CO2e

2022年度比で約18%の削減です。同社のKPI実績表にも「GHG排出量削減率 目標△42% 実績△18%」と記載されており、この数字と一致します。2030年度の42%削減という目標に対して、6年を残して18%まで進んだ位置にあります。

なお、同社の資料には「△50%」という数字が別の文脈でも登場します。医薬品の保冷輸送サービス「DP-Cool」による輸配送のGHG排出量を2018年度比で50%削減するという目標で、こちらは実績54%減で達成済みです。会社全体の目標とは対象範囲が異なるため、混同しないよう注記します。

また、Scope3(サプライチェーン全体の間接排出)は2024年度に1,047,164トン-CO2eで、Scope1+2の16倍以上あります。上記の42%削減目標はScope1+2のみを対象としたものです。

この3年で、事業の形がどう変わったか

項目2023年3月期2026年3月期変化
連結営業収益3,005億円2,734億円△9.0%
連結営業利益230億円159億円△30.8%
経常利益300億円215億円△28.2%
親会社株主に帰属する当期純利益272億円547億円+101.1%
連結従業員数4,708名4,991名+6.0%
上場政策保有株式(銘柄数)33銘柄18銘柄△45.5%

出典:有価証券報告書(各期)およびEDINETの財務データ。

営業収益と営業利益は、就任期を下回っています。ただし就任期の2023年3月期は、本人が「運賃単価が2倍以上に上昇」と説明した特殊な期でした。斉藤氏はこの水準が続かないことを就任時に予告しており、2024年3月期の営業利益を180億円と予想しています。実績は189億円で、予想を上回りました。

純利益が倍増している一方で営業利益が減っているのは、利益の出どころが変わったためです。政策保有株式の売却益という一時的な要因が純利益を押し上げ、本業の営業利益は減少しました。会社が「純利益構成割合が政策保有株式売却益中心から事業利益中心となる」と経営計画に書いているのは、この状態を移していく意思表示にあたります。

事業別に見ると、2つの事業で動きが分かれています。

2025年3月期2026年3月期変化
物流事業 営業収益2,370億96百万円2,380億13百万円+0.4%
物流事業 営業利益138億62百万円126億93百万円△8.4%
不動産事業 営業収益469億72百万円354億32百万円△24.6%
不動産事業 営業利益136億97百万円116億93百万円△14.6%

出典:有価証券報告書(2026年3月期)のセグメント情報。営業収益は外部顧客への金額です。

物流事業の収益はほぼ横ばいで、不動産事業が24.6%減っています。会社の決算説明資料は、不動産事業の減益要因を「分譲マンション販売利益の剥落」と説明しています。マンション分譲は販売の時期によって収益が大きく動くため、単年の比較では振れが出る性質があります。

なお、同社は当期からセグメントの利益指標を営業利益から事業利益(持分法投資損益と資産回転型ビジネス損益を加えたもの)へ変更しています。経営計画[2025-2030]の目標もこの事業利益で置かれているため、営業利益とは別の数字であることに注意が必要です。2026年3月期の事業利益は連結で185億75百万円でした。

05

人物像

公開資料から読み取れる斉藤氏の特徴を3点に整理します。

期限を明示する。 就任日の文書には、営業利益、売却額、比率、自己株式の取得、CO2削減のそれぞれに達成時期が添えられていました。方向性だけを述べる書き方をしていません。

未達を隠さない。 2026年6月の開示資料には「2025年度の株価上昇により目標未達成」と記されています。同じ資料に、売却益を除いたROEが株主資本コストを下回るという記述もあります。自社にとって都合のよい数字だけを並べる構成にはなっていません。

目標を書き換えるときは、書き換えたと述べる。 2025年の社長メッセージで、斉藤氏は前任体制が2019年に公表した「MLC2030ビジョン」について「定義しなおした」と明記しています。GHG排出量の削減目標についても、同社は統合報告書に「42%削減に更新しました」と経緯を記載しました。政策保有株式の比率目標も、2026年6月の開示で「2026年度中に20%未満」へ置き直され、さらに「2030年度までに15%未満」という次の期限が加えられています。いずれも、変更前の数字を伏せずに併記する形をとっています。

今後の焦点として読み取れる点

売却益を除いた収益力。 会社は売却益の影響を除いたROEを5%程度と開示し、株主資本コスト6〜7%を下回ると記しています。経営計画[2025-2030]が掲げる2030年度のROE10%以上は、売却益に頼らない利益で到達する必要があります。

比率目標の再設定。 2026年5月15日に公開された決算説明会の質疑応答(会社が要旨としてまとめたもの)には、2026年度に20%未満を達成する方針と、その後の数値目標は「想定以上の株価上昇等不確定要素があるため」現時点では設定していないという回答が記載されています。その約1か月半後、6月29日の「企業価値向上への取組み」では「2030年度までに15%未満」という数字が示されました。約1か月半のあいだに、次の期限が置かれたことになります。株価という自社で動かせない変数を目標にどう織り込むかは、引き続き論点として残ります。

今期の純利益予想。 会社は2027年3月期について、次の予想を置いています。

項目2027年3月期 予想前期比
営業収益2,800億円+2.4%
営業利益175億円+9.9%
事業利益204億円+9.8%
経常利益216億円+0.2%
親会社株主に帰属する当期純利益230億円△58.0%
1株当たり年間配当金44円—

出典:2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年7月31日開示)。同短信には「連結業績予想は中間期・通期とも期首予想を据え置いております」と記載され、業績予想・配当予想いずれも「修正の有無:無」とされています。編集部で2026年4月30日発表の期初予想と突き合わせ、数値が一致することを確認しました。

営業利益は9.9%の増益を見込む一方で、純利益は58.0%の減少を予想しています。前期の純利益547億円に含まれていた政策保有株式の売却益が、今期は同じ規模では発生しない見込みであることを示す数字です。「売却益中心から事業利益中心へ」という移行の途上で、いったん純利益が大きく下がる形になります。この局面で本業の利益をどこまで伸ばせるかが、2030年度のROE10%以上という目標につながります。

06

編集部総評

斉藤秀親氏の3年を、編集部は「約束の書き方が結果に表れた3年」と読みました。

就任日に置かれた約束のうち、営業利益200億円、売却額400億円以上、自己株式の取得300億円以上、ROE7%台の維持は、いずれも実現しています。売却額は約束の1.53倍にあたる613億円で、期限の翌年には1年だけで693億円を売却しました。上場株式の銘柄数は33から18へ減り、残高は1,686億円から831億円へ半減しています。実行の量という点では、約束を大きく超えました。

編集部が検証した5項目のうち、届かなかったのは比率の1つでした。しかもその理由は、保有していた株の価値が1年で約1.4倍に上がったことでした。期首の株価で計算すれば約15%で、目標を5ポイント下回る水準でした。同じ努力が、市場の追い風によって数字の上では足りなく見える。政策保有株式の比率という指標には、そういう性質があります。

編集部が注目したのは、会社がこの経緯を隠していないことです。「株価上昇により目標未達成」と書き、期首株価で計算した場合の数字も併記しました。売却益を除いたROEが資本コストを下回ることも、同じ資料に載せています。達成した項目と、届かなかった項目と、その理由が、1枚の資料に並んでいます。

CO2の削減目標については、期限の2030年を前に数字が50%から42%へ更新されました。会社は統合報告書に「更新しました」と経緯を記しています。ただし就任時の文書に基準年の記載がないため、2つの目標を同じ土俵で比べることは公開情報ではできません。実績は2022年度比で18%の削減まで進んでいます。

この3年で残ったのは、達成の記録と、もう1つの宿題です。会社は2027年3月期の純利益を230億円、前期比58.0%減と予想しています。前期の547億円を支えていた売却益が、同じ規模では見込めないためです。売却で得た資金を本業の利益に変えることが、2030年度のROE10%以上という次の目標につながります。

同社は比率の目標を2026年度中に置き直し、2030年度までに15%未満という次の期限を加えました。就任日の文書と同じく、期限と数字を添えた形です。

参考情報

参考にした公開情報

資料発表時期内容
社長メッセージ(社長就任・決算発表に寄せて)2023年4月28日就任時の本人名義の文書。本記事の検証対象となった約束の出典
社長メッセージ2025年4月経営計画[2025-2030]とパーパスについての本人名義の文書
経営計画[2025-2030]2025年2月28日前計画の振り返りと新しい財務目標
企業価値向上への取組み2026年6月29日政策保有株式の比率推移、ROEの内訳
有価証券報告書2024年6月〜2026年6月役員の状況、政策保有株式の状況、セグメント情報、財務諸表
統合報告書20252025年GHG排出量の目標と実績、ESGデータ
決算説明資料・質疑応答2026年5月15日2025年度決算の説明。質疑応答は会社が要旨としてまとめたもの
2027年3月期 第1四半期決算短信2026年7月31日今期の業績予想と据え置きの記載
役員紹介ページ—氏名の読み、略歴

出典の性質について

  • 就任時(2023年4月28日)および2025年4月の社長メッセージは、いずれも末尾に本人名義の署名があるため、本人の言葉として引用しています
  • 決算説明会の質疑応答は、資料の冒頭に「本内容は書き起こしではなく、当社の判断で簡潔にまとめたものです」と明記されており、回答者名も記載されていないため、本人の発言としては扱っていません。会社の説明として引用しています
  • 決算説明資料の読み上げ原稿についても話者名の記載がないため、同様に会社の説明として扱いました

本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。