仁島 浩順
代表取締役社長
最高益を13期つなぎ、3,000億円は2年目の予想へ。

概要
住友不動産株式会社の代表取締役社長、仁島浩順氏。2013年6月に就任した。在任は、2026年9月末時点で13年3か月にあたる。
同社の当期純利益は、2026年3月期まで13期連続で過去最高を更新した。13期は2014年3月期から2026年3月期までで、仁島氏の社長就任後の最初の決算から数えた期数と重なる。
同社は3年ごとに中期経営計画を立て、3年間の累計で売上高や利益の目標を置く。仁島氏の在任中の計画は、第六次から第十次までの5本である。確定した4本の目標との答え合わせは、次のとおりである。
| 計画(期間) | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 |
|---|---|---|---|---|
| 第六次(2014年3月期〜2016年3月期) | 届かず | 達成 | 達成 | 目標なし |
| 第七次(2017年3月期〜2019年3月期) | 達成 | 達成 | 達成 | 目標なし |
| 第八次(2020年3月期〜2022年3月期) | 届かず | 届かず | 届かず | 目標なし |
| 第九次(2023年3月期〜2025年3月期) | 届かず | 届かず | 達成 | 達成 |
一方、同社が「最高業績」「最高益」と書くとき、比べる相手は多くの場合、前の計画の実績である。4本とも、利益は前の計画の実績を上回った。本記事では、「目標との比較」と「前の計画との比較」を分けて書く。
進行中の第十次(2026年3月期〜2028年3月期)では、1年目に3年累計目標の約3分の1を積み上げた。2年目の2027年3月期の会社予想は、経常利益3,000億円である。この3,000億円という水準は、2023年と2025年の公表で、到達の時期が段階的に前倒しされてきた。
経歴
| 時期 | 役職 |
|---|---|
| 1984年4月 | 住友不動産株式会社 入社 |
| 2000年4月 | ビル事業本部事業管理部長 |
| 2007年4月 | 都市開発事業本部副本部長 |
| 2009年4月 | マンション事業本部長 |
| 2009年6月 | 取締役 |
| 2009年9月 | ビル事業本部長 |
| 2010年6月 | 代表取締役(現任) |
| 2013年6月 | 取締役社長(現任) |
| 2025年4月 | 賃貸事業管掌(現任) |
1961年生まれ、島根県出身。1984年に東京大学経済学部を卒業し、住友不動産に入社した。ビル、都市開発、マンションの各事業本部を経て、2010年6月に代表取締役となった。2013年3月22日の取締役会で社長交代が内定し、同年6月に社長に就いた。前任の小野寺研一氏は代表取締役副会長となり、2019年9月から取締役会長を務める。2026年6月の株主総会で取締役に再任され、社長を続けている。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 住友不動産株式会社 |
| 本店所在地 | 東京都新宿区西新宿二丁目4番1号 |
| 上場市場 | 東京証券取引所 プライム市場(証券コード8830) |
| 連結売上高 | 1兆577億円(2026年3月期) |
| 連結経常利益 | 2,892億円(2026年3月期) |
| 連結従業員数 | 14,116人(2026年3月31日現在) |
同社は、東京都心のオフィスビルの賃貸を柱とする総合不動産会社である。事業区分は、不動産賃貸、不動産販売(分譲マンションなど)、ハウジング(リフォームの「新築そっくりさん」と注文住宅)、ステップ(不動産の仲介)の4つである。ハウジングとステップは、2026年3月期にそれぞれ「完成工事」「不動産流通」から名称を改めた。会計は日本の基準による。
人物の軌跡
答え合わせ①:連続最高益は、就任後の最初の決算から始まった
同社の有価証券報告書(2026年3月期)は、2026年3月期の業績を「5期連続経常最高益、13期連続当期純利益最高益更新」と記している。13期は、2014年3月期から2026年3月期までにあたる。
| 決算期 | 当期純利益 | 経常利益 |
|---|---|---|
| 2013年3月期(就任前) | 598億円 | 1,149億円 |
| 2014年3月期(就任1年目) | 697億円 | 1,305億円 |
| 2017年3月期 | 1,035億円 | 1,677億円 |
| 2020年3月期 | 1,410億円 | 2,205億円 |
| 2021年3月期 | 1,414億円 | 2,099億円 |
| 2024年3月期 | 1,772億円 | 2,531億円 |
| 2026年3月期 | 2,125億円 | 2,892億円 |
13年で、当期純利益は598億円から2,125億円になった。新型コロナウイルスの影響を受けた2021年3月期は、経常利益が前の期の2,205億円から2,099億円に減ったが、当期純利益は1,410億円から1,414億円となり、最高益が続いた。経常利益の連続更新は、2022年3月期からの5期である。
社長交代を内定した2013年3月22日のお知らせで、同社は理由を「次期(平成26年3月期)より第六次計画がスタートいたしますが、これに合わせ」と説明している。
答え合わせ②:最初の計画は、「新執行陣が策定した」
第六次計画(2014年3月期〜2016年3月期)は、2013年5月14日に公表された。公表文の代表者名は、前任の小野寺研一社長である。同じ公表文は、計画の背景として次のように記している。
「第六次中期経営計画」は、この新執行陣が策定した経営計画です。
計画の骨子は「最高業績の更新、3ヵ年累計経常利益4千億円の達成」だった。3年累計の結果は次のとおりである。
| 指標 | 目標 | 実績 | 目標との差 | 前の計画(第五次)の実績 | 前の計画との差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆5,000億円 | 2兆4,420億円 | △579億円 | 2兆1,700億円 | +2,720億円 |
| 営業利益 | 5,000億円 | 5,006億円 | +6億円 | 4,372億円 | +633億円 |
| 経常利益 | 4,000億円 | 4,180億円 | +180億円 | 3,291億円 | +888億円 |
骨子に掲げた経常利益4,000億円は、4,180億円で上回った。営業利益も目標に届き、売上高は目標に届かなかった。前の計画との比較では、3項目とも増えている。
答え合わせ③:第七次は、3項目とも目標を上回った
2016年5月12日、同社は第七次計画(2017年3月期〜2019年3月期)を公表した。公表文の代表者名は「代表取締役社長 仁島 浩順」で、以後の計画の公表文もすべて同じである。骨子は「中計最高業績連続更新、3ヵ年累計経常利益4,800億円の達成」で、公表文は「好況に支えられた前六次の環境が七次は続かないという見通しに立ちつつも」と書いている。
| 指標 | 目標 | 実績 | 目標との差 | 前の計画(第六次)との差 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆7,000億円 | 2兆8,868億円 | +1,868億円 | +4,447億円 |
| 営業利益 | 5,500億円 | 6,142億円 | +642億円 | +1,136億円 |
| 経常利益 | 4,800億円 | 5,588億円 | +788億円 | +1,408億円 |
実績は、計画の終了直後の2019年5月の決算説明資料と、第八次計画の公表文(2019年5月16日)の値である。同社は2020年3月期から会計方針を変え、その後の資料では、第七次の実績を遡って改めた値(売上高2兆8,858億円、営業利益6,132億円、経常利益5,578億円)を載せている。どちらの値でも、3項目とも目標を上回る。
在任中の5本のうち、目標をすべて上回って終えたのは、この第七次である。
答え合わせ④:コロナ禍の第八次、利益は前の計画を上回った
2019年5月16日に公表した第八次計画(2020年3月期〜2022年3月期)は、3年累計で経常利益7,000億円を掲げ、「大幅増益を達成した七次の成長ペースを維持し、六次から3計画、9期連続の最高業績更新を目指す」とした。期間の2年目に、新型コロナウイルスの感染が広がった。
| 指標 | 目標 | 実績 | 目標との差 | 前の計画(第七次)との差 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3兆1,000億円 | 2兆8,704億円 | △2,296億円 | △153億円 |
| 営業利益 | 7,400億円 | 6,875億円 | △525億円 | +743億円 |
| 経常利益 | 7,000億円 | 6,556億円 | △444億円 | +978億円 |
| 当期利益 | (目標なし) | 4,328億円 | — | +795億円 |
3項目とも、目標には届かなかった。目標は途中で変えておらず、2021年5月の決算説明資料にも、公表時と同じ目標が載っている。
前の計画との比較では、営業利益、経常利益、当期利益が増えた。2022年5月の決算説明資料は、第八次の総括に「五次(リーマンショックと東日本大震災)を除き、全計画で最高益達成」と記している。ここでいう最高益は、前の計画の実績との比較である。
同じ資料は、事業ごとの振り返りで、不動産賃貸について「オフィスビルは目標超過達成」「コロナ禍でホテル、イベントホールは大打撃」、完成工事(現在のハウジング)について「消費増税とコロナ禍で受注が伸ばせず、七次比増益も目標は未達」と書いている。
答え合わせ⑤:第九次は、経常利益と当期利益で目標を上回った
2022年5月12日に公表した第九次計画(2023年3月期〜2025年3月期)で、同社は初めて当期利益の目標を置いた。骨子は「3ヵ年累計経常利益 7,500億円、当期利益 5,000億円の達成」である。
| 指標 | 目標 | 実績 | 目標との差 | 前の計画(第八次)との差 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3兆円 | 2兆9,218億円 | △782億円 | +514億円 |
| 営業利益 | 7,700億円 | 7,675億円 | △25億円 | +800億円 |
| 経常利益 | 7,500億円 | 7,581億円 | +81億円 | +1,025億円 |
| 当期利益 | 5,000億円 | 5,308億円 | +308億円 | +979億円 |
骨子に掲げた経常利益と当期利益は、目標を上回った。売上高と営業利益は、目標に届かなかった。前の計画との比較では、4項目とも増えている。
第十次計画の公表文(2025年3月28日)は、第九次を「業績目標を達成し終了する見込み」と書いた。編集部は、骨子に掲げた経常利益と当期利益の目標を指す表現と読む。売上高と営業利益は目標に届いていない。仁島氏は、2025年3月期の株主向け報告書「株主の皆様へ」で、次のように記している。
「第九次中計」最終年度の当期業績は、市況回復の進むオフィスビル賃貸を中心とする賃貸セグメントが大幅な増収増益となって業績を牽引し、4期連続の経常最高益と12期連続の純利益最高益を達成することができました。
その結果、第九次中計3か年の累計業績は右頁の通りで、売上高、営業利益、経常利益、当期利益のすべてにおいて前八次中計の実績を上回り、中計最高業績を達成いたしました。
ここでの「中計最高業績」は、前の計画の実績との比較である。
3年の各年度では、経常利益と当期純利益が、いずれも期初の会社予想を上回った。経常利益は、2023年3月期が予想2,350億円に対して2,367億円、2024年3月期が2,500億円に対して2,531億円、2025年3月期は予想2,650億円を2,670億円に引き上げたうえで2,683億円だった。
答え合わせ⑥:経常利益3,000億円の時期は、前倒しされてきた
第九次計画の公表以降、同社は経常利益3,000億円という水準を掲げ、その時期を改めてきた。
| 公表 | 資料 | 3,000億円の時期についての記載 |
|---|---|---|
| 2022年5月12日 | 第九次計画の公表文 | 「2030年度の経常利益3千億円実現を視野に入れ」 |
| 2023年5月11日 | 経営方針の公表文 | 「昨年の中長期展望を前倒し、次期中計で経常利益3千億円突破を目指します」 |
| 2024年5月9日 | 経営方針の公表文 | 「次期十次中計で経常利益3千億円達成の見通し」 |
| 2025年3月28日 | 第十次計画の公表文 | 「1年前倒しで、2027/3期(中期計画2年目)経常利益3,000億円到達」 |
2023年5月の公表文は、前倒しの理由を「コロナ禍で影響を受けたホテルやイベントホール事業をはじめ、各事業において、1年前に比べて先行きの業績見通しが改善したため」と説明している。仁島氏は、統合報告書2025のトップメッセージで、次のように記している。
本年3月に策定した「第十次中期経営計画」においては、主力事業であるオフィスビル賃貸事業の着実な回復・改善などを受け、経常利益3千億円の達成目標を1年前倒しして2027年3月期に達成する目標としております。
第十次の3年累計の目標は、売上高3兆2,000億円、営業利益9,300億円、経常利益9,000億円、当期利益6,500億円である。長期の目標として「今後10年以内 経常利益4,000億円超」も掲げた。
答え合わせ⑦:第十次の1年目は、3年目標の約3分の1
第十次の1年目、2026年3月期の結果は次のとおりである。
| 指標 | 3年累計の目標 | 2026年3月期 実績 | 目標に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3兆2,000億円 | 1兆577億円 | 33% |
| 営業利益 | 9,300億円 | 2,991億円 | 32% |
| 経常利益 | 9,000億円 | 2,892億円 | 32% |
| 当期純利益 | 6,500億円 | 2,125億円 | 33% |
割合は、有価証券報告書の記載である。有価証券報告書は、この結果を「3ヵ年累計目標の概ね3分の1を達成、中計最高業績連続更新に向けて順調な滑り出しとなりました」と書いている。
2026年3月期の当期純利益は、期初の予想2,050億円を2025年11月に2,100億円へ引き上げ、2,125億円で着地した。上方修正の理由として、同社は「不動産販売事業は、好況な分譲マンション市場を背景に、期初予想を大きく上回る増収増益となる見込み」と挙げている。中間期の時点で、仁島氏は2026年3月期の中間報告書「株主の皆様へ」に次のように記していた。
修正後の通期業績予想に対する利益進捗率も約6割に達しており、5期連続の経常最高益と、13期連続の純利益最高益の達成に向けて順調に進捗しているものと判断しております。
事業ごとに見ると、増益の中心は不動産賃貸だった。決算説明資料の事業別の営業利益は、不動産賃貸が1,886億円から2,101億円、不動産販売が642億円から762億円に増えた。一方、ハウジングは215億円から134億円に減り、修正後の予想170億円にも届かなかった。決算説明資料は、ハウジングについて「減収、営業利益率△3.5ポイント(10.6%→7.1%)」と記している。
資本の効率を示すROEは、2022年3月期の9.6%から、2026年3月期は9.2%だった。ROEは、当期純利益を自己資本で割った値である。有価証券報告書に計算方法の記載はないが、期首と期末の自己資本の平均で割ると、記載の9.2%と一致する(期末の自己資本だけで割ると8.6%。編集部検算)。
答え合わせ⑧:2年目の予想は、経常利益3,000億円ちょうど
2026年5月、同社は2027年3月期の会社予想を、売上高1兆700億円、営業利益3,200億円、経常利益3,000億円、当期純利益2,230億円とした。決算説明資料は「2027/3期予想:経常3,000億円に到達 売上、利益全て過去最高更新見込む」と記している。
| 指標 | 3年累計の目標 | 1年目 実績+2年目 予想(編集部算出) | 目標に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3兆2,000億円 | 2兆1,277億円 | 66% |
| 営業利益 | 9,300億円 | 6,191億円 | 67% |
| 経常利益 | 9,000億円 | 5,892億円 | 65% |
| 当期純利益 | 6,500億円 | 4,355億円 | 67% |
会社予想どおりに着地した場合、経常利益の3年累計目標には、最終年度の2028年3月期に3,108億円が必要になる(編集部算出)。営業外の損益の予想は△200億円で、前の期の△99億円から広がる。決算説明資料は、支払利息の増加を織り込んでいる。
2026年4〜6月の第1四半期は、営業利益1,028億円(前年同期比+1.0%)、経常利益1,087億円(同+3.3%)、当期純利益851億円(同+15.4%)だった。売上高は2,810億円(同△4.2%)である。決算短信は、営業利益、経常利益、純利益のいずれも第1四半期の過去最高を更新したと記し、通期の予想に対する進捗率を経常利益36%、純利益38%としている。
純利益の伸びについて、決算短信は「特別損益は管理処分信託を設定した純投資株式の売却益を主因として同149億円の改善」と記している。第1四半期の投資有価証券売却益は約160億円だった(決算短信の百万円の値を編集部が億円に換算)。事業ごとの営業損益では、不動産賃貸が529億円から581億円に増え、ハウジングは営業損失が25億円から40億円になった。ハウジングについて、決算短信は「受注が改善していることに加え、前期に積み上げた受注残が今後計上される見通しで、当事業部門の通期業績予想に対する進捗は計画通りと判断しております」と記している。
同社は通期の予想を据え置いた。2年目の答えは、2027年3月期の通期決算で示される。第十次の3年累計の答えは、その翌年、2028年3月期の通期決算で出る。
経営哲学
建てたビルを、売らずに持つ
同社の収益の柱は、自ら開発して保有し続けるオフィスビルである。仁島氏は、統合報告書2025のトップメッセージで次のように記している。
1970年代初頭からおよそ半世紀にわたり、法定再開発等の手法により多くのオフィスビルを開発してまいりましたが、それを売却せず保有し続けたことで、安定的な収益を積み上げ、2025年3月末時点では運営延床全体で185万坪超、2,700億円を超える営業利益の7割近くを生み出す強固な事業基盤を構築しております。
2025年11月の経営方針の公表文で、同社はビルの売却について「例えて言えば、鉄道会社が線路を売る、メーカーが最新鋭製品を作る工場を売るのと同じで、当社の主力事業の縮小を意味します」と説明した。
一方で、ビル以外の資産は減らしている。取引先などの株式(政策保有株式)を、取得価格で株主資本の10%以下にする目標は、2026年3月期末に7.8%となった。売却に加え、56銘柄(取得価格822億円)を管理処分信託に移したことによるもので、同社は、2028年3月期末までという期限を「2年前倒しで達成することができました」としている。株式の売却益については、決算短信で「特別損失と今後増加が見込まれる金利負担の相殺に」充てると説明している。
3,000億円は「通過点」
2027年3月期の経常利益3,000億円について、仁島氏は会社サイトのIRトップメッセージ(2025年12月)で次のように記している。
当社の持続的利益成長の源である東京都心のプライム資産を更に積み上げるとともに、インド・ムンバイに1兆円を投じて、2027年3月期に達成する見通しの経常利益3千億円を通過点として、更なる高みである4千億円を目指し強固な事業基盤の拡大に邁進しております。
ムンバイの事業について、会社が公表した第十次計画の説明会(2025年4月)の質疑要旨は、第十次の期間中は利益の寄与を見込まず、「本格寄与は十一次中計から」としている。
ROEは、目標に置かない
同社のROEは9%台で推移している。会社が公表した第十次計画の説明会の質疑要旨によると、会社は、ROEについて「ROE は企業の断面を見る指数にすぎないものであり、それ自体を目標とする事は経営の硬直性に繋がり相応しくないと考えております」と回答している。
2026年5月の決算説明資料と経営方針の公表文では、保有する株式の評価差益を除いた自己資本で計算する「実質ROE」を示し、2026年3月期は10.6%とした。同社は「さらなる利益成長により維持・向上を目指す」としている。有価証券報告書のROE(9.2%)とは計算の土台が異なる。
住宅は、既存の家に向かう
仁島氏は、統合報告書2024のトップメッセージで、住宅事業の方向を次のように記している。
当社は、引き続き東京都心のビル賃貸事業を成長ドライバーに据えつつ、新築住宅分野に加えてリフォームや不動産仲介など今後マーケットが拡大する既存住宅事業の強化を推し進め、グループ全体で更なる高みを目指して企業価値の向上に努めてまいります。
会社が公表した第十次計画の説明会の質疑要旨は、当時の完成工事について、新築とリフォームを一つの会社にする「大きな構造改革」に時間がかかるとして、「現在のところは保守的な数値目標とさせていただいております」と説明している。
還元と体制も、利益計画に合わせる
株主還元について、仁島氏は統合報告書2025のトップメッセージで次のように記している。
「配当倍増、100円配」も利益計画に合わせて1年前倒しすることで株主還元を一段と強化するとともに、会社の成長に合わせて取り組んできた経営体制の改革を引き続き進めてまいります。
100円は、2026年1月1日の株式分割(1株を2株)の前の1株当たりの金額である。
経営体制については、会社サイトのIRトップメッセージ(2025年12月)で次のように記している。
2025年は取締役の定数削減と任期短縮のほか、任意の指名委員会を設置するなど、2027年6月の監査等委員会設置会社への移行を見据え、必要なガバナンス改革を進めており、引き続き持続的成長と企業価値の向上に向けた取り組みを着実に推進してまいります。
監査等委員会設置会社への移行は、2026年6月の株主総会で定款の変更が可決された。
人物像
リーダーシップタイプ
継続型・前倒し型。3年ごとの計画を途切れさせずにつなぎ、当期純利益の最高益を就任後の最初の決算から13期続けた。計画の目標との答え合わせは、全項目を上回った第七次から、コロナ禍で届かなかった第八次まで、計画ごとに異なる。そのうえで、経常利益3,000億円の時期は、2023年と2025年の公表で前に寄せてきた。社長名義の文章は「当社は」を主語に書かれ、「私」の一人称は見当たらない。
強み・特徴(編集部分析)
1. 在任中、最高益が13期続いた
2014年3月期から2026年3月期まで、同社の当期純利益は過去最高を更新し続けた。経常利益が減った2021年3月期も、当期純利益は前の期を上回った。
2. 予想を上回って着地する
2023年3月期から2026年3月期までの4年は、いずれも経常利益と当期純利益が期初の会社予想を上回った。2025年3月期と2026年3月期は、途中で予想を引き上げたうえで、さらに上回った。
3. 長い時間軸で、ビルを積み上げる
1970年代初頭から同社が開発し、売らずに持ち続けてきたビルの収益基盤を、在任中も広げた。不動産賃貸は、事業別の営業利益の7割近くを生む。一方で、政策保有株式は、売却と管理処分信託への移管により、比率の目標を2年前倒しで達成した。
4. 目標の時期を、前に寄せる
経常利益3,000億円の時期を、「2030年度」から「次期中計」、さらに「2027/3期(中期計画2年目)」へと改めた。2027年3月期の会社予想は、その3,000億円である。
発言・記載と実績の対応
| 発言・記載 | 出典 | 実績 |
|---|---|---|
| 「この新執行陣が策定した経営計画です」 | 第六次計画の公表文(2013年5月・代表者名は小野寺社長) | 第六次の経常利益4,180億円(目標4,000億円)。売上高は目標に届かず |
| 「前八次中計の実績を上回り、中計最高業績を達成いたしました」 | 2025年3月期 株主向け報告書「株主の皆様へ」 | 第九次は前の計画比で4項目とも増加。目標比では経常利益・当期利益が上回り、売上高・営業利益は届かず |
| 「五次(リーマンショックと東日本大震災)を除き、全計画で最高益達成」 | 2022年5月 決算説明資料(会社の記載) | 第八次は前の計画比で利益が増加。目標比では3項目とも届かず |
| 「経常利益3千億円の達成目標を1年前倒しして2027年3月期に達成する目標としております」 | 統合報告書2025 トップメッセージ | 2027年3月期の会社予想は経常利益3,000億円。第1四半期の進捗率36%、予想は据え置き |
| 「13期連続の純利益最高益の達成に向けて順調に進捗」 | 2026年3月期 中間報告書「株主の皆様へ」 | 2026年3月期の当期純利益2,125億円で13期連続の最高益(期初予想2,050億円、修正後2,100億円) |
| 「それを売却せず保有し続けたことで、安定的な収益を積み上げ」 | 統合報告書2025 トップメッセージ | 2026年3月期の不動産賃貸の営業利益2,101億円(決算説明資料の事業別の値) |
| 「既存住宅事業の強化を推し進め」 | 統合報告書2024 トップメッセージ | ハウジングの営業利益は2026年3月期に215億円から134億円。2027年3月期の会社予想は170億円 |
編集部総評
仁島氏の在任と、同社の当期純利益の連続最高益は、ほぼ同じ長さである。就任後の最初の決算の2014年3月期から2026年3月期まで、13期続いた。この間に当期純利益は598億円から2,125億円になった。
一方、計画の目標との答え合わせは、計画ごとに異なる。第七次は3項目とも目標を上回り、第六次と第九次は骨子に掲げた利益の目標を上回った。第八次はコロナ禍の3年で、3項目とも目標に届かなかった。同社が「最高業績」「最高益」と書くとき、比べる相手は前の計画の実績であることが多く、その意味では4本とも利益を伸ばしている。読み手にとっては、「目標との比較」と「前の計画との比較」を分けて読むことが、この会社の答え合わせの前提になる。
進行中の第十次では、1年目に3年累計目標の約3分の1を積み上げ、2年目の会社予想は経常利益3,000億円である。この数字は、2022年の公表時点では「2030年度」の展望だった。一方で、ハウジングの営業利益は2026年3月期に減り、2027年3月期の第1四半期は営業損失が広がった。決算短信は、株式の売却益を主因として特別損益が149億円改善したと説明している。編集部は、この改善が第1四半期の純利益の増加に大きく寄与したと読む。同社は売却益を金利負担などの相殺に充てると説明しており、本業の利益と売却益の割合が今後どう動くかは、決算ごとに確かめる必要がある。
2年目の経常利益3,000億円に届くかは、2027年3月期の通期決算で示される。第十次の3年累計の答えは、2028年3月期の通期決算で出る。
今後の焦点として読み取れる点
- 2027年3月期の経常利益の会社予想3,000億円。第1四半期の進捗率は36%で、予想は据え置き
- 当期純利益の連続最高益。2027年3月期の会社予想2,230億円は、14期目にあたる
- 第十次の3年累計目標。会社予想どおりなら、最終年度に経常利益3,108億円が必要(編集部算出)。最終年度の会社予想は未公表
- 利益の中身。株式の売却益を含む特別損益と、増える支払利息の動き
- ハウジングの回復。2027年3月期の会社予想は営業利益170億円で、第1四半期は営業損失40億円
- ROEの水準。有価証券報告書のROEは9.2%、会社の示す実質ROEは10.6%。2027年3月期のROEの予想値は、決算説明資料と決算短信に記載が見当たらない
- 2027年6月の監査等委員会設置会社への移行と、次の第十一次計画(公表時期は未公表)
参考情報
出典
- 有価証券報告書 第93期(2026年3月期・2026年6月24日提出・主要な経営指標等の推移は2/168ページ、中期経営計画の達成状況は35/168ページ、役員の状況は58/168ページ、連結損益計算書は99/168ページ)
`https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YI5D.pdf`
- 役付取締役の異動に関するお知らせ(2013年3月22日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/jinji_2013.3.22.pdf`
- 中期経営計画策定のお知らせ(第六次・2013年5月14日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/release_0514_1.pdf`
- 中期経営計画策定のお知らせ(第七次・2016年5月12日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/release_0512_1.pdf`
- 中期経営計画策定のお知らせ(第八次・2019年5月16日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/2019.05.16_release_3.pdf`
- 中期経営計画策定のお知らせ(第九次・2022年5月12日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/ir/pdf/plan20220512.pdf`
- 第十次中期経営計画策定のお知らせ・本体資料(2025年3月28日)、同説明会の主な質疑要旨(2025年4月3日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/release_20250328_1_JP.pdf`
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/tenth_management_plan_jp.pdf`
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/MTMP_QA202504_jp.pdf`
- 決算説明会資料(2016年5月、2019年5月、2020年5月、2021年5月、2022年5月、2023年5月、2024年5月、2025年5月)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/IRPresentationMaterial202503-1.pdf`
- 2026年3月期 決算説明会資料(2026年5月)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/IRPresentationMaterial202603.pdf`
- 経営方針の公表文(2023年5月11日、2024年5月9日、2025年11月11日、2026年5月13日「第十次中期経営計画1年目を終えて 今後の課題への対処」)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/release_20230511-1.pdf`
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/release_20260513_1_JP.pdf`
- 通期業績予想の修正に関するお知らせ(2025年3月28日、2025年11月11日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/release_20251111_2_JP.pdf`
- 2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月6日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/8830_FY2026_1Q.pdf`
- 株主向け報告書「株主の皆様へ」(2025年3月期報告書・2026年3月期中間報告書)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/2025.3houkoku.pdf`
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/2025.9houkoku.pdf`
- 統合報告書2024・2025「トップメッセージ」
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/SRD_IR2025_jp.pdf`
- トップメッセージ(住友不動産 ウェブサイト IR情報・2025年12月)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/ir/top_message/`
- 第93期定時株主総会決議ご通知(2026年6月26日)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/Sumitomo_Realty_Results_of_93rd_AGM-JP.pdf`
- 役員一覧(住友不動産 英語ウェブサイト。ローマ字表記の確認)
`https://www.sumitomo-rd.co.jp/en/corporate/management/`
注記
- 本記事は、住友不動産株式会社が公表した資料を中心に構成し、一部の過年度の数値はデータ提供サービスで補っています。取材は行っていません
- 同社の決算期は3月です。本記事は「2026年3月期」のように決算期で表記しています。同社の資料の「26/3期」「2026/3期」は2026年3月期にあたります。「第九次中計」「九次」は第九次計画と表記しています
- 同社は日本の会計基準を採用しています。「当期利益」「当期純利益」は、親会社株主に帰属する当期純利益です
- 中期経営計画の目標と実績は、いずれも3年間の累計です。第十次の「2027年3月期 経常利益3,000億円」だけは単年度の水準です。第六次〜第八次には当期利益の目標はありません
- 各計画の目標は各計画の公表文、実績と目標との差は各計画の終了後の決算説明資料(第六次=2016年5月、第七次=2019年5月、第八次=2022年5月、第九次=2025年5月)の記載です。前の計画との差は、第六次・第七次は次の計画の公表文、第八次・第九次は決算説明資料の記載です
- 第七次の実績は、計画の終了直後の資料(2019年5月の決算説明資料と第八次計画の公表文)では売上高2兆8,868億円・営業利益6,142億円・経常利益5,588億円、2020年5月以降の資料では2兆8,858億円・6,132億円・5,578億円です。2020年5月の決算説明資料は「2020年3月期期首より、会計方針(住友不動産販売の収益認識基準)の変更をしております」「2019年3月期(第七次)は遡及適用後の数値を記載しております」と記しています。本記事の答え合わせの表は、目標と比べた時点の値として前者を使っています
- 第六次の売上高の実績は、2016年5月の資料では2兆4,420億円、2022年5月以降の一部の資料では2兆4,421億円と記載されています。本記事は前者を使っています
- 2022年3月期から収益認識に関する会計基準が適用されています。それより前の売上高と単純には比べられません
- 年度ごとの業績は、2022年3月期以降は有価証券報告書 第93期、それより前は各期の決算説明資料と、データ提供サービス経由で確認した有価証券報告書の数値です。2014〜2021年3月期の当期純利益は、各期の有価証券報告書の本体とは照合していません
- 事業別の営業利益は、決算説明資料と決算短信の記載で、全社の費用を配分する前の値です。2026年3月期の前の期の値は、事業区分の変更後のものです
- ROEは有価証券報告書の「自己資本利益率」です。計算方法の記載はなく、期首と期末の自己資本の平均で割った値が記載と一致することを編集部が検算しました。「実質ROE」は同社独自の計算で、「保有有価証券の評価差益を除く自己資本を分母とする」と同社は説明しています
- 「2030年度」は同社の年度の表記です。同社は第十次計画の開始を「2025年度より」とも書いており、この数え方では2030年度は2031年3月期にあたります(編集部の読み)
- 「13期」が仁島氏の就任後の最初の決算から始まることは、編集部が数えたものです
- 「1年目 実績+2年目 予想」の合計と割合、「3,108億円」「約160億円」「8.6%」は、編集部が算出しました
- 引用した本人の言葉は、株主向け報告書「株主の皆様へ」(2025年3月期報告書・2026年3月期中間報告書)、統合報告書2024・2025のトップメッセージ(署名「代表取締役社長 仁島 浩順」)、会社サイトのIRトップメッセージ(署名「仁島浩順」)からのものです。いずれも「当社は」を主語とする文章で、社長として会社を代表して書いたものとして掲載しています
- 代表者名の欄に仁島氏の名前がある会社の公表文(計画の公表文、経営方針の公表文など)は、仁島氏の発言としては扱わず、会社の記載として掲載しています
- 第十次計画の説明会の基調説明と質疑要旨には、話者・回答者の名前の記載がありません。仁島氏の発言としては扱わず、会社が公表した要旨として紹介しています
- PDFからの抽出では、行の境目や記号・数字の前後に空白・改行が入り、段組みの文章が交互に混ざります。引用は、段組みの順に並べ直し、空白と改行を詰めて掲載しています。全角・半角の表記は原文どおりです
- 引用はすべて原資料からの複写であり、原文との一致を機械的に照合しています



