稲畑 勝太郎
代表取締役 社長執行役員
経常利益と純利益の目標を1年早く超え、最終年度は売上とROEへ。

概要
稲畑産業株式会社の代表取締役 社長執行役員、稲畑勝太郎氏。2005年12月に就任した。在任は、2026年9月末時点で20年9か月にあたる。
同社は、化学品や合成樹脂、電子材料を扱う専門商社である。稲畑氏の在任中、同社は名前をつけた中期経営計画を5本公表してきた。2011年に策定したIK2013から、進行中のNew Challenge 2026(NC2026)までである。確定した4本の最終年度の目標との答え合わせは、次のとおりである。
| 計画(最終年度) | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | ROE |
|---|---|---|---|---|---|
| IK2013(2014年3月期) | 達成 | 達成 | 達成 | 達成 | 達成 |
| New Challenge 2016(2017年3月期) | 届かず | 達成 | 達成 | 届かず | 届かず |
| NC2020(2021年3月期) | 届かず | 届かず | 達成 | 達成 | 目標なし |
| NC2023(2024年3月期・見直し後の目標) | 届かず | 達成 | ほぼ目標どおり(△1億円) | 届かず | 達成 |
NC2023は、1年目の実績が最終年度の目標を上回ったため、途中で目標を引き上げた。当初の目標と比べると、売上高と各段階の利益はすべて上回っている。
進行中のNC2026(2025年3月期〜2027年3月期)では、2年目の2026年3月期に、経常利益277億円と当期純利益206億円が、最終年度の目標(260億円、190億円)を1年早く超えた。最終年度の会社予想は、営業利益・経常利益・当期純利益で目標を上回る一方、売上高は目標の9,500億円に対して8,900億円である。ROEは2年続けて目標の10%以上に届いておらず、同社は2027年3月期から株主還元の方針を改めた。
経歴
| 時期 | 役職 |
|---|---|
| 1989年1月 | 稲畑産業株式会社 入社 |
| 1995年6月 | 取締役 |
| 1996年4月 | 合成樹脂第二本部長 |
| 1997年6月 | 常務取締役 |
| 2001年7月 | 経営企画室長 |
| 2003年6月 | 取締役 常務執行役員 |
| 2005年4月 | 取締役 専務執行役員 |
| 2005年12月 | 代表取締役 社長執行役員(現任) |
1959年生まれ。1989年1月に稲畑産業に入社し、1995年6月に取締役となった。合成樹脂第二本部長、IT推進室長・PR・IR推進室長、経営企画室長、地球環境室長、海外戦略室長を経て、2005年12月に代表取締役 社長執行役員に就いた。株主総会の招集通知は、取締役候補者とした理由に「合成樹脂セグメントなどの営業部門のほか、人事・情報システムなどの管理部門も担当してきました」と記している。2026年6月の株主総会で取締役に再任され(賛成率98.85%)、社長を続けている。
同社の創業者も、稲畑勝太郎という名である。有価証券報告書の沿革は、「創業は古く1890年10月に稲畑勝太郎が京都市において稲畑染料店を開業したのに始まります」と記している。創業者と現社長の続柄は、本記事で確認した会社の資料には記載が見当たらない(確認日2026-10-02)。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 稲畑産業株式会社 |
| 本店所在地 | 大阪市中央区南船場一丁目15番14号(登記上の本店。経理業務は主に東京本社で行う) |
| 上場市場 | 東京証券取引所 プライム市場(証券コード8098) |
| 連結売上高 | 8,327億円(2026年3月期) |
| 連結経常利益 | 277億円(2026年3月期) |
| 連結従業員数 | 4,719人(2026年3月31日現在) |
同社は、1890年に京都で合成染料の輸入販売から始まった専門商社である。事業区分は、情報電子、化学品、生活産業、合成樹脂の4つで、2026年3月期の売上高は合成樹脂が4,079億円と最も大きく、情報電子が2,393億円で続く。海外19カ国、約70拠点で事業を展開している。会計は日本の基準による。
人物の軌跡
答え合わせ①:最初の計画「IK2013」は、すべての定量目標を達成した
稲畑氏の就任後、名前のついた中期経営計画として最初に確認できるのは、2011年5月に策定したIK2013(2012年3月期〜2014年3月期)である。2011年11月の決算説明会資料は、計画の副題を「営業利益100億円達成に向けて」とし、最終年度の目標を次のように掲げた。
| 指標 | 目標(2014年3月期) | 実績 | 達成率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,500億円 | 5,611億円 | 102.0% |
| 営業利益 | 100億円 | 109億円 | 109.4% |
| 経常利益 | 100億円 | 124億円 | 124.5% |
| 当期純利益 | 60億円 | 86億円 | 144.5% |
| ROE | 7.4% | 8.1% | 達成 |
| 自己資本比率 | 29.1% | 37.7% | 達成 |
| ネットD/Eレシオ | 0.72倍以下 | 0.46倍 | 達成 |
2014年6月の決算説明会資料は、結果を「「IK2013」の定量目標を上回り、売上高及び利益において過去最高を達成」とまとめている。為替の前提は1ドル81.49円で、実績は100.17円だった。
同社の沿革によると、2010年10月、創業120周年を機に「経営理念=Mission」「目指す姿=Vision」「価値観=IK Values」を新しく制定した。統合報告書2026は、この2010年について「現社長・稲畑勝太郎は「第四の創業※」と位置づけ」と記している。
答え合わせ②:New Challenge 2016は、営業利益と経常利益で目標に届いた
2014年6月に公表したNew Challenge 2016(2015年3月期〜2017年3月期)の結果は、次のとおりである。
| 指標 | 目標(2017年3月期) | 実績 | 差異 | 達成率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,200億円 | 5,866億円 | △333億円 | 94.6% |
| 営業利益 | 125億円 | 126億円 | +1億円 | 100.9% |
| 経常利益 | 135億円 | 136億円 | +1億円 | 101.3% |
| 当期純利益 | 100億円 | 96億円 | △3億円 | 96.9% |
| ROE | 8.2% | 7.1% | — | 未達 |
2017年5月の補足資料は、合成樹脂の売上高について「原油安(※)による販売単価下落の影響が大きく、売上高は目標に届かず」と記している。合成樹脂の営業利益は、目標を13.9億円上回った。
答え合わせ③:4年計画のNC2020は、経常利益と当期純利益で目標を上回った
2017年5月、同社は長期ビジョン「IK Vision 2030」を策定した。「連結売上高 1兆円以上を早期に実現」「海外比率 70%以上」「情報電子・合成樹脂以外の事業の比率を1/3以上に」などを掲げ、その最初の計画として、2021年3月期を最終年度とする4年間のNC2020を置いた。
| 指標 | 目標(2021年3月期) | 実績 | 差異 | 達成率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,300億円 | 5,775億円 | △1,524億円 | 79% |
| 営業利益 | 155億円 | 149億円 | △5億円 | 97% |
| 経常利益 | 160億円 | 165億円 | +5億円 | 103% |
| 当期純利益 | 120億円 | 137億円 | +17億円 | 115% |
| ネットD/Eレシオ | 0.4以下 | 0.06 | — | 達成 |
2021年6月の決算説明会資料は、「売上高は大きく目標未達、営業利益は売上高未達により目標未達」「経常利益・当期純利益は、目標を上回る」と総括している。
計画の1年目、2018年3月期には、ドイツの子会社の太陽電池関連の取引で、取引先向けの債権などに約31億円の貸倒引当金を計上した。同期の営業利益は59億円で、前の期の126億円から減った。2018年5月の資料は、仕入・在庫管理や海外子会社の業務ルールの徹底などの対策を示している。営業利益は、最終年度の2021年3月期に149億円となり、過去最高を更新した。
答え合わせ④:NC2023は、1年目で最終年度の目標を超え、引き上げた
2021年6月に公表したNC2023(2022年3月期〜2024年3月期)の1年目、2022年3月期は、売上高6,809億円、営業利益200億円、経常利益216億円、当期純利益223億円となった。いずれも最終年度の目標を上回ったため、同社は2022年6月に目標を改めた。資料は理由を「初年度の実績が、売上・利益ともに最終年度の目標を上回ったため、事業環境や今後の見通し等を踏まえ、最終年度の目標・指標の見直しを実施」と記している。
| 指標 | 当初の目標 | 見直し後の目標 | 実績(2024年3月期) | 見直し後との差異 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,700億円 | 8,000億円 | 7,660億円 | △339億円 |
| 営業利益 | 165億円 | 205億円 | 211億円 | +6億円 |
| 経常利益 | 170億円 | 215億円 | 213億円 | △1億円 |
| 当期純利益 | 160億円 | 225億円 | 200億円 | △24億円 |
| ROE | 8%以上 | 10%以上 | 10.5% | — |
| 自己資本比率 | 50%以上 | 概ね40〜50% | 46.8% | — |
2024年6月の決算説明会資料は、項目ごとに次のように記している。
- 「売上高は、FPD市況の悪化等により、目標未達」
- 「営業利益は、円安の追い風もあり、目標達成」
- 「経常利益は、調達金利上昇を吸収し、ほぼ目標通り」
- 「当期純利益は、有価証券売却益縮小により、目標未達」
- 「ROEは計画達成。財務健全性は目標水準を維持」
自己資本比率の46.8%は、見直し後の目標「概ね40〜50%」の範囲内である。当初の目標と比べると、売上高と各段階の利益は上回り、ROEも当初の目標「8%以上」を達成した。自己資本比率は当初の目標「50%以上」には届いていない。
答え合わせ⑤:NC2026の2年目、経常利益と当期純利益は最終年度の目標を超えた
2024年5月、同社はIK Vision 2030の第3ステージとして、NC2026(2025年3月期〜2027年3月期)を公表した。メインテーマは“投資による成長の加速”である。最終年度の目標は、売上高9,500億円、営業利益270億円、経常利益260億円、当期純利益190億円、ROE10%以上である。当期純利益の目標190億円は、前の計画の最終年度の実績200億円より低い水準に置かれた。
| 指標 | 1年目 計画 | 1年目 実績(2025年3月期) | 2年目 当初計画 | 2年目 実績(2026年3月期) | 最終年度の目標 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,300億円 | 8,378億円 | 8,900億円 | 8,327億円 | 9,500億円 |
| 営業利益 | 225億円 | 258億円 | 245億円 | 261億円 | 270億円 |
| 経常利益 | 215億円 | 261億円 | 235億円 | 277億円 | 260億円 |
| 当期純利益 | 170億円 | 198億円 | 175億円 | 206億円 | 190億円 |
| ROE | 10%以上 | 9.7% | 10%以上 | 9.3% | 10%以上 |
2026年6月の決算説明会資料は、2年目を「「NC2026」2年目は、総じて順調に進捗。各段階の利益で見通しを上回り、経常利益、当期純利益は最終年度目標を超過」とまとめている。2年目の利益は、期初の会社予想(営業利益255億円、経常利益255億円、当期純利益195億円)も上回った。営業利益は最終年度の目標の97%(編集部算出)である。
売上高について、有価証券報告書は「主に情報電子事業の事業環境が悪化したことにより、2年目の計画に対して未達となりました」と記している。ROEについては、「増配や自己株式の取得を実施しましたが、利益剰余金の増加等による株主資本の増加により、2年目の計画に対してやや未達となりました」としている。稲畑氏は、会社サイトのIRページ「株主・投資家の皆さまへ」(2026年7月)で、次のように記している。
定量面では、『NC2026』2年目の計画に対して、売上高は未達となりましたが、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益は計画を達成しました。また、営業利益は6期連続、経常利益は2期連続で過去最高を更新することができました。
営業利益の6期連続の最高益は、2021年3月期から2026年3月期までにあたる。事業ごとでは、化学品と合成樹脂の営業利益が最終年度の目標に届き、情報電子は2026年3月期に70.4億円で、最終年度の目標84.5億円を下回っている。
答え合わせ⑥:最終年度の予想は、利益で目標を上回り、売上高は8,900億円
2026年5月、同社は最終年度の2027年3月期の会社予想を、売上高8,900億円、営業利益275億円、経常利益275億円、当期純利益210億円、ROE10%以上とした。決算説明会資料の見出しは「中東情勢悪化により、世界経済の見通しが不透明ななか、現場力発揮に努め「NC2026」最終年度目標を達成する」である。
| 指標 | 最終年度の目標 | 2027年3月期 会社予想 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 9,500億円 | 8,900億円 | △600億円 |
| 営業利益 | 270億円 | 275億円 | +5億円 |
| 経常利益 | 260億円 | 275億円 | +15億円 |
| 当期純利益 | 190億円 | 210億円 | +20億円 |
| ROE | 10%以上 | 10%以上 | — |
同じ資料の表紙は、「中東情勢悪化による業績への影響は、2027年3月期見通しに織り込んでおりません」と断っている。
2026年4〜6月の第1四半期は、売上高2,436億円(前年同期比+19.4%)、営業利益98億円(同+48.8%)、経常利益101億円(同+38.0%)、当期純利益63億円(同+5.6%)だった。決算説明資料は「売上高・営業利益・経常利益は四半期ベースで過去最高を更新」と記し、通期の予想に対する進捗率を営業利益35.8%、経常利益37.0%としている。化学品と合成樹脂については、「中東情勢悪化に伴う原材料価格上昇」や「一部顧客による在庫確保の動き」により、販売数量・価格ともに増えたと説明している。通期の予想は据え置かれた。
ROEの目標に向けて、同社は2027年3月期から、配当総額をDOE(株主資本配当率)4〜4.5%を目安とし、総還元性向を「50%以上を原則とする」方針に改めた。2027年3月期の配当は、9期連続の増配となる1株143円を計画している。NC2026の答えは、2027年3月期の通期決算で示される。
経営哲学
二大事業に「依存し過ぎない」
IK Vision 2030は、情報電子と合成樹脂以外の事業の比率を3分の1以上にすることを掲げている。稲畑氏は、統合報告書2026のトップメッセージで、この指標の現状を次のように語っている。
しかしながら、この2大セグメントの成長が想定以上に堅調であり、結果として化学品と生活産業の比率が目標値に届いていない状態にあります。昨年にも申し上げましたが、この指標の趣旨は「特定の事業領域に依存し過ぎない」ということなので、合成樹脂・情報電子のなかでも新たな領域の事業が育っているかどうかに目を向けることの方が大事だと思っています。
同じトップメッセージでは、情報電子について、フラットパネルディスプレイ関連の比率の高さを課題と認識し、再エネ関連や半導体関連の育成に注力してきたと述べている。
少数出資から、経営権を持つ投資へ
NC2026のメインテーマは、投資による成長の加速である。稲畑氏は、投資の方針の転換を次のように語っている。
投資に関しては、当社は既存事業とのシナジーを重視してきましたので、結果として商権の獲得などを目的としたマイノリティ投資が中心でしたが、NC2026では、この方針を継承しつつ、経営権の掌握を伴うマジョリティ投資にも舵を切り、成長の加速化を図っています。
同社は、2023年6月に大五通商、2024年6月にノバセル、2025年1月に大五通商を通じて佐藤園を子会社化した。統合報告書2026は、M&Aと事業投資を合わせた直近2年間の成長投資を189億円(キャッシュアウトベース)としている。IRページでは、3社について「順調に収益貢献しており、今後のシナジーの早期発現に向けた取り組みを進めています」と記している。
「泥臭さ」は現場主義
稲畑氏は、社員が自社の商売のスタイルを「泥臭い」と感じていることに触れ、その意味を次のように語っている。
この「泥臭さ」とは、決して否定的なニュアンスではなく、私たちが大切にしてきた現場主義的な働き方や価値観を表した言葉です。
AIについても、生産性を高めるうえで欠かせないツールとしたうえで、現場に足を運ぶ重要性を挙げている。
AIは解は示しても実際に動いてくれるわけではありませんし、参照する情報も元は誰かがインプットしたものです。インプットされる前の情報を得るべく現場に足を運ぶ重要性は変わりませんし、そこで我々は強みを発揮できると考えています。
強い組織の2つの条件
稲畑氏は、「強い組織」の条件として2点を挙げている。「まず1点目は、自立した強い個人で構成されていることです」「2点目は、組織内に理念や価値観が浸透していることです」。後継の経営者については、時期への言及を控えたうえで、次のように語っている。
資格要件を1つ挙げるとするなら「IK Valuesを深く理解し、体現できる人」であると考えています。
最終年度は、まず定量目標
NC2026の最終年度について、稲畑氏は次のように語っている。
NC2026もいよいよ最終年度を迎えていますが、まずは定量目標を着実に達成するとともに、長期ビジョンとのギャップを検証し、IK Vision 2030実現に向けた最終ステップとなる次期中期経営計画の策定に取り掛かりたいと思います。
人物像
リーダーシップタイプ
継続型・積み上げ型。就任から20年あまり、名前をつけた中期経営計画を5本続け、終了した4本では、最終年度の目標と実績を並べて公表してきた。最初のIK2013はすべての定量目標を達成し、その後の計画では、利益の目標に届き、売上高の目標に届かない形が多い。NC2023では1年目の実績を受けて目標を引き上げ、NC2026では2年目に経常利益と当期純利益の最終年度の目標を超えた。インタビュー形式のトップメッセージでは、「私たち」「我々」を主語に、現場主義と組織について語っている。
強み・特徴(編集部分析)
1. 計画を立て、最終年度に答え合わせを公表する
IK2013からNC2023までの4本について、同社は最終年度の決算説明会資料で、目標と実績の差異と達成率を項目ごとに示している。届かなかった項目にも、「目標未達」と理由を添えている。
2. 利益の目標に届く
経常利益は、IK2013、New Challenge 2016、NC2020で目標を上回り、NC2023は見直し後の目標に対して「ほぼ目標通り」だった。NC2026では、2年目に最終年度の目標を超えた。営業利益は、2021年3月期から2026年3月期まで6期続けて過去最高を更新した。
3. 目標を上に引き直す
NC2023では、1年目の実績が最終年度の目標を上回ったため、売上高8,000億円、当期純利益225億円などへ目標を引き上げた。見直し後の目標に対しては、営業利益とROEを達成した。
4. 現場に足を運ぶ
「泥臭さ」を現場主義と言い換え、AIの時代にも一次情報を得るために現場に行くことを重視している。
発言・記載と実績の対応
| 発言・記載 | 出典 | 実績 |
|---|---|---|
| 「営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益は計画を達成しました」 | IRページ「株主・投資家の皆さまへ」(2026年7月) | 2026年3月期 営業利益261億円(2年目計画245億円)、経常利益277億円(同235億円)、当期純利益206億円(同175億円)。売上高8,327億円(同8,900億円) |
| 「利益面では目標を上回ることができました」 | 統合報告書2026 トップメッセージ | 経常利益・当期純利益は最終年度の目標も超過。ROEは9.3%で目標の10%以上に届かず |
| 「まずは定量目標を着実に達成するとともに、長期ビジョンとのギャップを検証し」 | 統合報告書2026 トップメッセージ | 2027年3月期の会社予想は利益3項目で目標を上回り、売上高は目標に対し△600億円。第1四半期の営業利益の進捗率35.8%、予想は据え置き |
| 「化学品と生活産業の比率が目標値に届いていない状態にあります」 | 統合報告書2026 トップメッセージ | 2026年3月期の売上高は化学品1,251億円・生活産業601億円で、合計は売上高全体の22%(編集部算出。同社の指標の算定基準は未確認)。IK Vision 2030の目標は3分の1以上 |
| 「経営権の掌握を伴うマジョリティ投資にも舵を切り」 | 統合報告書2026 トップメッセージ | ノバセル、大五通商、佐藤園を子会社化。直近2年間の成長投資は189億円(M&Aと事業投資の合計・会社の記載) |
| 「「IK2013」の定量目標を上回り、売上高及び利益において過去最高を達成」 | 2014年6月 決算説明会資料(会社の記載) | 2014年3月期 売上高5,611億円、経常利益124億円。定量目標をすべて達成 |
| 「初年度の実績が、売上・利益ともに最終年度の目標を上回ったため」 | 2022年6月 決算説明会資料(会社の記載) | NC2023の目標を引き上げ。最終年度は営業利益・ROEが見直し後の目標を達成 |
編集部総評
稲畑氏の在任は20年を超え、その間に同社は5本の中期経営計画を続けてきた。最初のIK2013は、売上高から利益、ROEまですべての定量目標を達成した。その後の3本では、利益の目標を中心に達成を重ねた。経常利益はNC2016とNC2020で目標を達成し、NC2020では当期純利益、NC2023では見直し後の営業利益とROEも目標を達成した。NC2023の経常利益は見直し後の目標との差が1億円で、会社は「ほぼ目標通り」と総括している。売上高の目標について、会社の資料は原油安による販売単価の下落や、FPD・情報電子の事業環境を理由に挙げている。
進行中のNC2026では、2年目に経常利益と当期純利益が最終年度の目標を1年早く超えた。一方、ROEは2年続けて目標の10%以上に届いていない。会社は、利益が計画を上回って株主資本が積み上がったことを理由に挙げ、2027年3月期からDOEの目安を入れて還元を強めた。利益が伸びるほど資本も積み上がるという関係を、還元の方針でどう整えるかが、最終年度の見どころの一つになる。
最終年度の会社予想は、営業利益・経常利益・当期純利益の3項目で目標を上回り、売上高は8,900億円である。第1四半期は、売上高と営業利益が四半期として過去最高となった。会社は要因として原材料価格の上昇や顧客の在庫確保の動きを挙げている。会社が公表した質疑応答要旨は、在庫確保の動きについて「どこまで続いて、いつ反動が来るのか見通しが難しい」としている。NC2026の答えは、2027年3月期の通期決算で示される。
今後の焦点として読み取れる点
- 2027年3月期の会社予想(営業利益275億円・経常利益275億円・当期純利益210億円)。第1四半期の進捗率は営業利益35.8%、経常利益37.0%で、予想は据え置き
- 売上高の目標9,500億円。会社予想は8,900億円で、情報電子の最終年度の予想は目標を下回る
- ROE10%以上の目標。2026年3月期は9.3%。2027年3月期から導入したDOE4〜4.5%の目安と、総還元性向50%以上の原則
- 中東情勢の影響。会社は2027年3月期の予想に織り込んでいないと明記している
- IK Vision 2030の「連結売上高1兆円以上」「情報電子・合成樹脂以外の事業の比率を1/3以上に」と、次期中期経営計画(公表時期は未公表)
- 後継の経営者の選定。本人は「具体的な時期についての言及は差し控えさせていただきます」としている
参考情報
出典
- 有価証券報告書 第165期(2026年3月期・2026年6月15日提出・主要な経営指標等の推移は2/150ページ、沿革は4〜5/150ページ、中期経営計画「NC2026」の概要は14/150ページ、2年目の進捗状況は33/150ページ、役員の状況は62/150ページ)
`https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YB2W.pdf`
- 2012年3月期第2四半期 決算説明会資料「会社概要および中期経営計画について」(2011年11月29日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/1111kessan_tan_shiryou_1.pdf`
- 決算説明会資料「中期経営計画「IK2013」総括と新中期経営計画「New Challenge2016」について」(2014年6月2日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/1406kessan_tan_shiryou.pdf`
- 2017年3月期 決算説明会資料「中計「New Challenge 2016」の総括と新中期経営計画について」、同 補足資料(2017年5月31日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/1705kessan_tan_shiryou.pdf`
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/1705kessan_tan_shiryou_3.pdf`
- 2018年3月期 決算説明会資料(2018年5月30日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/1805kessan_tan_shiryou.pdf`
- 2021年3月期 決算説明会資料「中期経営計画「NC2020」の達成状況と新中期経営計画「NC2023」の概要」(2021年6月)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/210603kessan_tan_shiryou.pdf`
- 2022年3月期 決算説明会資料「中期経営計画「NC2023」の初年度の進捗と最終年度目標の見直し」(2022年6月8日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/220606kessan_tan_shiryou.pdf`
- 2024年3月期 決算説明会資料「中期経営計画「New Challenge 2023」の達成状況と新中期経営計画「New Challenge 2026」の概要」(2024年6月3日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202409/20240603_01_1.pdf`
- 2026年3月期 決算説明会資料「中期経営計画「New Challenge 2026」2年目の進捗 および「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について」(2026年6月4日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202606/financial_briefing_materials_FY2025_NC2026_2.pdf`
- 2027年3月期 第1四半期 決算説明資料(2026年8月)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202608/financial_briefing_materials_Q1FY2026_jpn_1.pdf`
- オンライン説明会 質疑応答要旨(2026年6月4日)
`https://www.inabata.co.jp/archives/001/202607/260604kessan_qa.pdf`
- 統合報告書2026「トップメッセージ」「社会発展への貢献と成長の歴史」
`https://www.inabata.co.jp/themes/inabata/investor/library/integrated_report/file/integrated_report2026.pdf`
- 株主・投資家の皆さまへ(稲畑産業 ウェブサイト IR情報・2026年7月)
`https://www.inabata.co.jp/investor/management/message/`
- 社長メッセージ(稲畑産業 ウェブサイト・2026年7月1日)
`https://www.inabata.co.jp/company/message/`
- 中期経営計画(稲畑産業 ウェブサイト)
`https://www.inabata.co.jp/investor/management/midterm_plan/`
- 第165回定時株主総会招集ご通知、決議ご通知、臨時報告書(議決権行使結果)(2026年6月)
`https://www.inabata.co.jp/themes/inabata/investor/event/file/notification_165.pdf`
`https://www.inabata.co.jp/themes/inabata/investor/event/file/notification_165_3.pdf`
- 役員・組織図(稲畑産業 日本語・英語ウェブサイト。略歴とローマ字表記の確認)
`https://www.inabata.co.jp/company/officer/`
`https://www.inabata.co.jp/english/company/officer/`
注記
- 本記事は、稲畑産業株式会社が公表した資料を中心に構成し、一部の過年度の数値はデータ提供サービスで補っています。取材は行っていません
- 同社の決算期は3月です。本記事は「2026年3月期」のように決算期で表記しています。同社の資料の「26/3期」「26年3月期」は2026年3月期にあたります。「New Challenge 2023」「New Challenge 2026」は、同社の略称に合わせてNC2023、NC2026と表記しています
- 同社は日本の会計基準を採用しています。「当期純利益」は、親会社株主に帰属する当期純利益です
- 同社の中期経営計画の目標は、いずれも最終年度の単年度の値です。NC2020は4年間、それ以外は3年間の計画です
- 各計画の目標と実績、差異、達成率は、各計画の最終年度の決算説明会資料の記載です。IK2013の経常利益と当期純利益の目標は2014年6月の資料の表で確認したもので、2011年11月の資料の定量目標の箇条には、売上高・営業利益・ROE・ネットD/Eレシオ・自己資本比率が記載されています
- NC2023の売上高の目標は、収益認識に関する会計基準の適用後の値です。同社は、適用前の基準による当初の目標を7,000億円、見直し後の目標を8,300億円と併記しています。2022年3月期から同基準が適用されているため、それより前の売上高と単純には比べられません
- NC2026の「2年目 当初計画」は2024年5月9日公表の年次計画、「期初の会社予想」は2025年5月公表の2026年3月期の業績予想です
- 2012年3月期から2021年3月期までの年度ごとの数値の一部(2018年3月期の営業利益など)は、データ提供サービス経由で確認した値で、各期の有価証券報告書の本体とは照合していません
- 「営業利益は最終年度の目標の97%」「化学品と生活産業の合計は売上高全体の22%」は編集部が算出しました。IK Vision 2030の「事業の比率」がどの数値で算定されるかは、確認した資料に記載が見当たりません
- 2006年から2011年までの期間について、確認した会社の資料(2008〜2011年の決算説明資料、2007年の中間報告書)に、名前のついた中期経営計画の記載は見当たりませんでした(確認日2026-10-02)
- 2027年3月期の業績予想の修正は、会社サイトの最新情報で確認できる範囲(2026年9月18日の公表まで)に見当たりません(確認日2026-10-02)
- 引用した本人の言葉は、会社サイトのIRページ「株主・投資家の皆さまへ」(2026年7月・署名「代表取締役社長 稲畑 勝太郎」)と、統合報告書2026のトップメッセージ(署名「代表取締役社長 稲畑 勝太郎」)からのものです。統合報告書2026のトップメッセージは、「本インタビューは2026年5月に実施しました」と記されたインタビュー形式の文章で、同社がトップメッセージとして掲載したものを本人の言葉として扱っています
- 決算説明会資料の表紙には説明者として稲畑氏の名前がありますが、資料の記載は会社の記載として扱っています。オンライン説明会の質疑応答要旨は、当日の要旨に会社が補足したQ&Aを含むため、本人の発言としては引用していません
- PDFからの抽出では、段組みの文章が交互に混ざります。引用は、段組みの順に並べ直し、空白と改行を詰めて掲載しています。全角・半角の表記は原文どおりです



