憧れを実行に変える力
熊谷氏の著書を読み、手帳に書き、独立し、参考にした事業を作り、本人に会い、合弁会社をつくっています。着想から到達までの距離が短い経営者です。
憧れを、実行に変えた。
公開されているインタビュー、企業サイト、ニュースリリースをもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。
| 氏名 | 安田 暁史(やすだ あきひと) |
|---|---|
| 現職 | GMOコネクト株式会社 代表取締役CEO |
| 生年 | 1983年 |
| 出身 | 愛知県名古屋市生まれ、岐阜県岐阜市育ち |
| 学歴 | 東海大学文学部卒業(2006年) |
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 1983年 | 愛知県名古屋市に生まれる |
| 2006年 | 東海大学文学部を卒業し、株式会社シーエーモバイル(現・株式会社CAM/サイバーエージェント関連企業)に新卒入社 |
| 25歳 | IT関連のクリエイティブ・システム開発事業を軸に、個人事業主として独立 |
| 27歳 | 法人化 |
| 29歳 | GMOインターネット創業者・熊谷正寿氏と出会う |
| 2013年7月 | GMOインターネット株式会社との合弁会社としてGMOコネクト株式会社を設立、代表取締役に就任 |
| 2020年 | 主力だった音楽・ゲーム関連事業からビジネスマッチング事業へ転換 |
| 商号 | GMOコネクト株式会社 |
|---|---|
| 設立 | 2013年7月1日 |
| 事業 | IT・ソフトウェア開発・ビジネスサポート・研修事業 |
| 売上高 | 45億円(2026年12月期見込み・連結) |
| 営業利益 | 8億円(2026年12月期見込み・連結) |
| 従業員数 | 約500名(2026年8月現在・連結/本年度中に650名を見込む) |
| 資本金 | 5,530万円(2022年10月31日現在) |
| 株主 | GMOインターネットグループ株式会社(東証プライム・9449) |
| 取締役 | 熊谷正寿氏(GMOインターネットグループ株式会社 代表取締役グループ代表 会長兼社長執行役員・CEO 兼グループCAIO)、西山裕之氏(同社 取締役副社長)が名を連ねる |
安田氏のキャリアは、憧れの記録から始まっています。
新卒でサイバーエージェント関連企業に入社した1年目、安田氏はGMOインターネット創業者・熊谷正寿氏(現・GMOインターネットグループ株式会社 代表取締役グループ代表 会長兼社長執行役員・CEO 兼グループCAIO)の著書『20代で始める「夢設計図」——必ず“スピード成功”する5つの原則』を読み、そこに書かれていた通りに手帳へ「夢設計図」を描いたと語っています。
その後、25歳で個人事業主として独立し、27歳で法人化。自身の会社でGMOインターネットグループのサービスを参考にした事業を始めたところ、それがグループ社員の目に留まります。
「その方が『代表の熊谷ときっと話が合うよ』とグループ代表の熊谷正寿氏に引き合わせてくれたんです」
そして29歳で熊谷氏と対面し、2013年に合弁会社を設立します。現在、その熊谷氏はGMOコネクトの取締役に名を連ねています。
編集部では、この経緯を単なる幸運としてではなく、この人物の行動様式そのものとして捉えました。 憧れの相手の本を読んで感心する人は多くいますが、書かれた通りに手帳を書き、独立し、その相手のサービスを参考に事業を作った結果として本人に会っている——憧れを、会えるところまで実行に移した人物です。手帳に書いた相手が、いま自社の取締役席にいるという事実が、その到達点を示しています。
GMOコネクトは設立当初、いまとはまったく違う会社でした。スマートフォンアプリの企画・開発と、音楽・ゲームを融合させた事業を手がけていました。2020年、コロナ禍で音楽・ゲーム事業の先行きが不透明になったことをきっかけに、事業をビジネスマッチングへと転換します。
このとき安田氏が語っている内容は、経営者の転換の説明としてはやや異質です。
「前身会社の事業も成功しており、自分の家を建てたり好きな車を買ったり、旅行を楽しんだりしていました。けれど、そういった個人的な楽しみよりも、自分の仲間たちや出会った人たちと一緒にビジネスを作り、それが誰かの役に立つことの方に価値がある。そう感じて、今の道を選びました」
新しい事業を選んだ理由についても、市場規模や成長性ではなく、自身の来歴を根拠に説明しています。熊谷氏や仲間との出会いが自分の人生を作ってきた、人と人が出会って価値が生まれることは今後も変わらない——という認識です。
「人生1回しかないからこそ、一過性の事業ではなく、普遍的な価値のある事業を主軸に置きたかったんです」
編集部では、この転換を「危機対応」ではなく「選び直し」と読みました。 環境変化で事業を変える経営者は珍しくありませんが、多くの場合は次に伸びる市場を探します。安田氏の説明はそうではなく、自分の人生で価値が確認できたものを事業にするという順序です。稼げていた事業を手放す判断の説明に、収益ではなく普遍性を持ち出している点に、この人物の判断基準が表れています。
安田氏は、従来型の交流の場をはっきり否定します。無駄の最たるものとして挙げるのが、対面の名刺交換会です。大勢が集まって名刺を交換し、数分立ち話をしても次につながる可能性は低い、というのがその理由です。
その代わりに設計されたのが、同社のコミュニティ運営です。オンラインの定例ミーティングは毎週開催され、100社前後の参加企業に加えて数十社の新規ゲストが加わります。冒頭ではZoomの機能を使って2〜3名の少人数に分かれ、仕事の話ではなく生い立ちや趣味といったテーマで話す時間を取ります。その後に1社30秒のプレゼン、そして関心を持った相手に1対1の面談を申し込める仕組みが続きます。
安田氏は、行動が起きるには感情が動く必要があり、1時間の会で5分話を聞いただけでは感情は動かない、と説明しています。
さらに同社は2022年から、参加資格を絞った2つの定例ミーティングを運営しています。
いずれも昼の時間帯にオンラインで開かれ、参加者が互いを事前に知った状態で同日夜の会食に臨む、という二段構えの設計になっています。
編集部では、これらの設計に共通する発想を「量を捨てて質を取る」ことだと考えました。 名刺交換会の否定、少人数に分ける進行、30秒に切られたプレゼン、参加資格の限定、そして昼に知ってから夜に会うという段取り——いずれも参加者の数や接触の回数を増やす方向ではなく、一回の出会いが実際に何かになる確率を上げる方向に振られています。同社のミッションが「価値のあるつながりを提供する」であることを踏まえると、この一貫性は意図的なものと読めます。
組織コーチングの導入事例で、安田氏は導入前の自社をこう語っています。
「部署を超えたチーム意識が希薄で、そこが問題でした」
導入後については「かなりメンバーに任せられるようになりました」と述べています。
編集部では、自社の組織課題を実名で公に語れること自体が、この人物の姿勢を表していると考えました。 弱点を隠さず外部の手を借りる判断は、権限を手放すこと——「任せられるようになった」——と同じ方向を向いています。取り繕わない姿勢は、対外的な信頼にもつながります。
同社の売上高は45億円、営業利益は8億円。従業員は約500名を数え、本年度中に650名を見込む規模に達しています。しかし安田氏が自社について語るとき、前面に出てくるのはこうした数字ではありません。
「仕事を楽しみながら成長できる会社」でありつづけたい、「楽しく働く」がモットーである、「仕事=楽しいもの」という世界を作りたい——という表現が繰り返されます。会社の魅力として挙げるのも「未経験者でも安心して働ける環境」です。
一方で、目標については明確に順位を口にしています。No.1を目指したいと思ったのは今の事業が初めてで、それまではとにかく売上や利益が目的だった、と振り返っています。
編集部では、この組み合わせを「順序が入れ替わった経営者」と読みました。 売上と利益が目的だった時期を経て、いまは順位を目指しながらも、語る言葉は働く状態に向いています。規模を否定しているのではなく、規模を目的の位置から降ろしているという理解が近いと考えられます。即戦力ではなく未経験者を前提に組織を設計している点も、この順序と整合します。
編集部の見立てでは、「場をつくる型」です。
安田氏は「人が輝く場を作ること」を目指すと表現しています。自ら先頭に立って牽引するのではなく、人が力を発揮する条件を整えることに重心を置くリーダーだと考えられます。事業そのものが「出会いの場を設計する」ものであること、組織課題に外部の手を入れた判断、権限委譲が進んだという述懐も、この見立てと矛盾しません。
熊谷氏の著書を読み、手帳に書き、独立し、参考にした事業を作り、本人に会い、合弁会社をつくっています。着想から到達までの距離が短い経営者です。
2020年の転換は、稼げていた事業からの撤退です。損失を切るのではなく、成果が出ているものを普遍性を理由に置き換えた判断は、経営者としては珍しい部類に入ります。
25歳で個人事業主として独立、27歳で法人化した後、2013年に大手グループとの合弁を選んでいます。単独で伸ばす道と、大きな看板の下で伸ばす道の両方を知っています。
外部サービスの導入事例で、自社の弱みを具体的に述べています。
安田氏について公開情報を追っていくと、この人物は「つながり」を最初から掲げていたのではなく、選び直した結果としてそこに行き着いていることがわかります。
新卒時代に憧れを手帳に書き、その相手に会うところまで実行し、その出会いが会社になった。そして2020年、成功していた事業を手放すとき、次の事業を選ぶ根拠にしたのは市場ではなく自分の人生で価値が確認できたものでした。事業・社名・ミッションが「つながり」という一語で揃っているのは、後から一致させたのではなく、自分に効いたものを事業にしたからだと考えられます。
編集部では、この人物を「作った事業の内容よりも、その事業が生む状態に関心のある経営者」と捉えました。 売上45億円・営業利益8億円という規模に達しながら、語られる言葉が一貫して働く人と出会う人の状態に向いているのは、その関心の順序が変わっていないことを示しています。
編集部よりビジネスマッチングという言葉は、いまや珍しいものではない。だが同じ看板を掲げる会社の間で、実際にやっていることの中身は大きく違う。安田氏がこの領域を選んだ順序を、本人の言葉で確かめたいと考えた。
安田
新卒で入った会社の1年目に、熊谷さんの『20代で始める「夢設計図」』を読みました。それで、書いてあるとおりに手帳へ夢設計図を書いたんです。25歳で独立、27歳で法人化。自分の会社でGMOインターネットグループのサービスを参考にした事業をやっていたら、それがグループの社員の方の目に留まって、「代表の熊谷ときっと話が合うよ」と引き合わせてもらいました。29歳です。そこから2013年に、合弁で会社を作りました。
安田
名刺交換会って、無駄の最たるものだと思っているんです。大勢で集まって名刺を配って、数分立ち話をして終わる。あれで次につながったことが、私はほとんどないんですね。
人は、感情が動かないと動かないんですよ。1時間の会で5分話を聞いただけでは、感情は動きません。
うちの定例ミーティングは、その逆から作っています。プレゼンは1社30秒。気になった相手にだけ、1対1の面談を申し込める。昼にお互いを知ってもらって、その日の夜に会食へ来ていただく。
強みと言えるものがあるとしたら、この順番だと思います。
「人は、感情が動かないと動かないんですよ」
編集部より公開情報から追えたのは、2020年に事業を切り替えたという事実までだった。その判断の内側で何を考えていたのかは、書きようがなかった。ここが今回いちばん聞きたかったところである。
安田
2020年ですね。音楽とゲームの事業をやっていて、それなりにうまくいっていました。家を建てて、好きな車も買って、旅行にも行っていました。
コロナで先が見えなくなったのが直接のきっかけです。ただ、決め手は別のところでした。個人的な楽しみよりも、仲間や出会った人たちと一緒にビジネスを作って、それが誰かの役に立つことのほうに価値がある。そう思ったんです。人生は1回しかないので、一過性の事業ではなく、普遍的な価値のあるものを主軸に置きたかった。
安田
自分の人生で、実際に価値があったかどうかです。それくらいしか基準がないというか。迷ったときほど、そこに戻します。
編集部より最後に、これから先のことを聞いた。会社の規模の話ではなく、どういう状態にしたいのかという言い方で尋ねている。
安田
人数で言えば、いま500人ほどで、今年度中に650人を見込んでいます。ただ、5年後に見たいのは、その先にある状態です。
仕事を楽しみながら成長できる会社であり続けたい。それが一番です。未経験で入った人が安心して働けるかどうかも、そのための条件だと思っています。
No.1を目指したいと思ったのは、いまの事業が初めてでした。前はとにかく売上と利益が目的でしたから。
安田
憧れの人がいるなら、会える距離まで実行したほうがいいと思います。私は手帳に書いて、そのとおりに動いて、10年かかって会いました。本を読んで感心するだけだと、その日で終わってしまいますから。
あとは、自社の弱いところを隠さないことですね。うちも部署を超えたチーム意識が希薄で、そこが問題でした。外の力を借りて、かなりメンバーに任せられるようになりました。隠していると、その手も借りられません。
公開情報から書いた分析と、ご本人の説明は、大きくは一致していた。2020年の事業転換を編集部は「危機対応ではなく選び直し」と読んだが、ご本人の説明も、市場の見通しではなく価値が確認できたかどうかだった。
ずれたのは順位の扱いである。編集部は「規模を目的の位置から降ろした」と書いた。だがご本人は、No.1を明確に目指すと述べている。降ろしたのは目的の位置で、狙う位置は下げていない。
最も短く答えが返ってきたのは、意思決定の基準を尋ねた質問だった。基準が少ないほど、迷いも短いのだろうと感じた。
取材・文=Leaders Journal 編集部
本記事は公開情報をもとに Leaders Journal 編集部が独自に分析・編集したものです。記載内容の修正・削除のご依頼は、理由を問わずいつでも承ります。お問い合わせフォームよりお知らせください。