日景 一郎 アキレス株式会社 代表取締役社長
LEADER 003
LEADER PROFILE

日景 一郎

Ichiro Hikage
アキレス株式会社
代表取締役社長

分散を、強みと言い切る。

日景 一郎

概要

公開されているインタビュー、有価証券報告書、企業サイトをもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。

COMPANY
アキレス株式会社
POSITION
代表取締役社長
FOUNDED
1947年
SINCE
創業79年目
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経歴

プロフィール

氏名日景 一郎(ひかげ いちろう)
現職アキレス株式会社 代表取締役社長
生年1961年6月4日
出身東京都
学歴東京農工大学工学部(1985年卒業)

経歴

1985
アキレス入社
2012
取締役に就任
2020
専務取締役に就任
2022
社長に就任
2026
売上818億円
※年は本文の記載にもとづく編集部作成
時期内容
1961年東京都に生まれる
1985年東京農工大学工学部を卒業し、アキレス株式会社に入社
20代半ば〜30代半ば九州の営業所に勤務。中間素材の販売から2次加工まで、一人で担当
2012年取締役に就任
2020年専務取締役に就任
2022年6月代表取締役社長に就任
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会社データ

818億円
REVENUE
2026年3月期
8事業部
SEGMENTS
3部門。シューズは15%未満
1,596名
EMPLOYEES
平均勤続20.8年
1947年
FOUNDED
東証プライム(5142)
商号アキレス株式会社
設立1947年5月30日
事業プラスチック製品等化成品の製造販売(シューズ/プラスチック/産業資材の3部門・8事業部)
上場東京証券取引所プライム市場(証券コード 5142)
売上高818億200万円(2026年3月期)
営業利益29億7,200万円(2026年3月期)
従業員数1,596名(平均年齢43.0歳・平均勤続20.8年)
本社東京都新宿区北新宿2-21-1
資本金146億4,000万円
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人物の軌跡

「シューズの売上は全体の15%を切っています」

日景氏のインタビューで最初に出てくるのは、自社が誤解されているという話です。

「一般消費者は、当社を『シューズのアキレス』『瞬足のアキレス』という認識をされている人が多いと思いますが、シューズ部門の売り上げは全体の15%を切っています。残りの85%以上は、それ以外の7事業が占めています」

同社は3部門8事業部を持ちます。売上の約半分はシート状の製品を作るプラスチック部門、約3分の1は発泡体を作る産業資材部門です。マットレス、住宅用の断熱材、自動車向けの車輌資材、静電気対策商品——一般には知られていない事業が、売上の85%を占めています。

編集部では、この語り出しをこの人物の姿勢そのものと捉えました。経営者が自社を説明するとき、世間の認知を利用することは珍しくありません。「瞬足の会社です」と言えば話は早い。しかしこの人物は、まず認知と実態のズレを数字で示すところから始めています。ブランドの資産を否定するのではなく、それだけでは会社の説明にならないと考えていることが読み取れます。

「事業数が多い」を、弱みではなく強みだと言う

8つの事業部を持つことについて、日景氏は次のように述べています。

「リソースが分散される弱みが懸念されますが、私は逆に強みだと思っています」

そのうえで「八つの事業をいかに融合して価値を作っていくかが重要だと思っています」と続けています。

編集部では、この発言を「言い換え」ではなく「引き受け」として読みました。事業の分散は、外部から指摘されやすい弱点です。それを強みだと言い切ることは、「融合できなければ、ただの分散だ」という責任を自分の側に引き受けることでもあります。実際にこの人物は、融合を掛け声で終わらせていません。

8つの事業を融合するために、事業部を1つ作った

同社には、日景氏が「3年前に作った新しい事業部」と語る防災事業部があります。もともとレジャー用として知られていたゴムボートが救助用途で需要を伸ばし、その技術を応用したエアーテントが感染症対策で医療用に使われるようになったことが背景です。ただし日景氏は、防災事業を単独の新規事業として説明していません。

「防災事業は八つの事業を融合して展開する事業として捉えています。今はまだ救助用ボートとテントが主軸ですが、ウレタン事業部のマットレスを避難所用に提供しています」

そのうえで、こう位置づけています。「防災事業は、社会的な課題を解決する事業の象徴と位置付けています。そうした事業を増やしていくことは、社員のモチベーション向上にもつながります。最近は防災事業をやりたいという入社希望者もいます」。

編集部では、この防災事業を「融合のための器」として設計されたものだと読みました。8つの事業に横串を通すには、共通の目的が必要です。防災という切り口は、シューズにもマットレスにも断熱材にも接続できます。組織を動かすために、事業のほうを作ったという順序が見えます。採用への波及まで語られている点も、狙いが事業単体の売上ではないことを示しています。

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経営哲学

制度ではなく、現場が事業部の壁を越えた

その設計が実際に機能した例として、日景氏は能登半島地震での対応を挙げています。ただしその話は、防災事業部の話ではありません。

「防災事業部ではなく断熱資材事業部に入ってきた話ですが、断熱材を提供しました。輪島市の避難所になっている中学校の体育館の床が冷たくて避難者が眠れないという話でした。当社は戸建て住宅用に断熱材を手掛けているので、断熱材をトラック1台分提供しました」

そして「防災事業以外で製造・販売している製品を防災マーケットにマッチングさせた商品として開発することで、社会貢献ができますし、事業価値を高めていけると思います」と続けています。

編集部では、この一件を「融合が制度ではなく現場で起きた証拠」と捉えました。住宅用の断熱材を避難所の体育館の床に使うという発想は、事業部の分類の外にあります。新設した防災事業部を経由せずに、別の事業部が防災の文脈で動いた——これは、横串が組織図ではなく人の判断の側に通り始めたことを意味します。この人物がその事例を自ら語っている点に、何を成果と見ているかが表れています。

営業を1つのフロアに集めた

融合のための、もう1つの手当ては物理的なものでした。

「2015年に現在の本社に移転した時、営業をワンフロアに集めて、いろいろな事業部の人が打ち合わせをできる空間を作りました。事業部間のコラボレーションによる開発は進んでいます」

編集部では、この施策の地味さに注目しました。事業部間の連携を促す方法として、制度・評価・会議体を作る選択肢もあります。この人物が挙げたのはフロアの配置でした。同社の平均勤続年数は20.8年、平均年齢は43.0歳です。長く同じ事業部にいる人が多い組織で、号令ではなく物理的な距離から変えようとしている——現実的な手順だと考えられます。

伸ばすものと、やめるものを同時に語る

一方で、この人物は撤退の判断も明示しています。

「シューズ事業は海外生産にシフトし、国内生産の終了を決めました。選択と集中という意味では、瞬足はジュニアスポーツシューズブランドとしてはトップなので、瞬足には力を入れていきます。20年間で累計8300万足を売り上げ、コーポレートアイデンティティーとして価値がありますし、ブランドを強化していきます」

編集部では、この2つを同じ文の中で語っている点に着目しました。「国内生産を終了する」と「瞬足のブランドを強化する」は、一見すると逆の話です。しかしこの人物の説明では、同じ「選択と集中」の両面として並んでいます。ブランドは残し、作り方は変える——シューズを会社の看板として維持しながら、売上15%未満という実態に合わせて構造を組み替える判断です。

業績については「満足はしていない」と述べている

同社は2024年3月期まで厳しい状況が続き、その後3カ年の中期経営計画に入っています。その初年度について、日景氏はこう述べています。

「満足はしていないが、滑り出しは順調だ」

直近の有価証券報告書では、売上高818億200万円、営業利益29億7,200万円となっています。

編集部では、この短い一言を、この人物の他の発言と同じ型だと考えました。認知と実態のズレを数字で示し、事業の分散を弱みとして認めたうえで強みだと言い、そして業績についても「順調」の前に「満足していない」を置いています。都合の良い部分だけを先に出さないという一貫性があります。

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人物像

リーダーシップタイプ

編集部の見立てでは、「束ねる型」です。

新しい方向を示して引っ張るのではなく、すでにあるものを組み合わせて価値を作ることに重心を置くリーダーだと考えられます。8つの事業、20年勤続の組織、認知度の高い旧来ブランド——手元にあるものを否定せずに束ね直すという手つきが、発言と施策の両方に共通しています。

強み・特徴(編集部分析)

①

弱点と言われる構造を、引き受けたうえで強みに変える

事業の分散という指摘を否定せず、「融合して価値を作る」という自分の仕事に置き換えています。

②

組織を動かすために、事業を作った

防災事業部は単独の新規事業ではなく、8事業に共通の目的を与える器として設計されています。採用への波及まで見込んでいます。

③

現場の越境を成果として語れる

能登半島地震の対応で、新設した事業部ではなく別の事業部が動いた事例を自ら挙げています。手柄の置き場所が組織図の外にあります。

④

残すものと変えるものを分けられる

シューズの国内生産終了と瞬足ブランドの強化を、同じ「選択と集中」として同時に進めています。

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編集部総評

日景氏の発言を追っていくと、この人物は自社について語るとき、必ず一度「実態は違う」と挟むことがわかります。

シューズの会社と思われているが15%未満。事業が多いのは弱みと言われるが強みだと思う。滑り出しは順調だが満足はしていない。いずれも、聞き手が持っている前提を先に外してから話を始めています。

編集部では、この人物を「会社の見え方と実態のズレを、埋めずに説明する経営者」と捉えました。世間の認知は資産ですが、それに合わせて会社を語ると、売上の85%が説明から抜け落ちます。かといって認知を捨てれば、20年で8,300万足を売ったブランドを失います。どちらも手放さずに、ズレたまま両方を運ぶ——8つの事業を束ね、フロアの配置から変え、防災という共通の目的を後から作ったのは、その運び方の具体だと考えられます。

平均勤続20.8年という組織で、既存の事業を切らずに組み替えていく仕事は、新しい旗を立てるより時間がかかります。「満足はしていない」という言い方が続いているのは、その進行の途中だからだと読めます。

参考情報

参考にした公開情報

  • 週刊エコノミスト「傘下事業の強みを融合して『防災』を創造 日景一郎・アキレス社長」
  • 日刊工業新聞「ニッポンの素材力 トップに聞く(19)アキレス社長・日景一郎氏」
  • ゴム報知新聞NEXT「【新年トップインタビュー】アキレス社長 日景一郎氏」
  • アキレス株式会社 公式サイト「トップメッセージ」「会社概要」
  • アキレス株式会社 有価証券報告書・決算短信(金融庁EDINET)

本記事は公開情報をもとに Leaders Journal 編集部が独自に分析・編集したものです。記載内容の修正・削除のご依頼は、理由を問わずいつでも承ります。お問い合わせフォームよりお知らせください。