川原 仁株式会社クラレ 代表取締役社長
LEADER 010
LEADER PROFILE

川原 仁

Hitoshi Kawahara
株式会社クラレ
代表取締役社長

米国だけが、増えた。

川原 仁

概要

公開されているインタビュー、有価証券報告書、会社発表資料をもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。

クラレの川原仁氏は、2025年7月の取材で事業環境をこう語っています。「今年も半分が経過しましたが、米トランプ関税の影響がじわじわと効いてきたと感じています」。そのうえで「世界経済の不透明感が増しているのは事実ですので、6月以降の業績に若干影響が出てくるかもしれないと懸念しています」と述べました。

編集部が検証したのは、この見立てがその後の実績と整合したかどうかです。川原氏は同じ取材で「米国で作り、米国で販売している事業には影響はない」「それよりも報復関税などによる世界経済の変調の方が当社のビジネスに大きな影響を与える」とも語っていました。

2025年12月期の地域別売上で増えたのは、米国だけでした。他の5地域はすべて減収です。関税がかかる市場そのものではなく、その外側で売上が落ちたという形で、川原氏の見立ては実績の方向と矛盾していません。

一方で、同じ期の営業利益は30.8%減、親会社株主に帰属する当期純利益は76.5%減となりました。「若干」という言葉との距離は大きく開いています。ただし編集部が確認できた公開資料からは、この減益幅を関税や世界経済の変調だけに帰することはできません。減益には、営業段階での262億円の減少と、前期168億円から296億円へ膨らんだ減損損失が重なっています。本記事は、本人の見立てと実績を照らし合わせたところまでを示すものです。

COMPANY
株式会社クラレ
SALES
8,084億4,700万円
EMPLOYEES
12,117名
PRESIDENT SINCE
2021年1月
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経歴

プロフィール

項目内容
氏名川原 仁(かわはら ひとし)
生年月日1962年3月12日
現職株式会社クラレ 代表取締役社長
社長就任2021年1月(就任時58歳)

※生年月日・肩書は2026年3月25日提出の有価証券報告書に基づきます。

経歴

時期内容
1984年クラレ入社
2010年樹脂カンパニー企画管理部長
2016年3月執行役員
2018年1月ビニルアセテート樹脂カンパニー長
2018年3月常務執行役員
2019年3月取締役・常務執行役員
2021年1月代表取締役社長(現)

2016年3月以降は有価証券報告書の記載どおりです。1984年の入社と2010年の樹脂カンパニー企画管理部長は、繊維ニュースのインタビュー記事に掲載された略歴に基づくもので、有価証券報告書には記載がありません。

編集部が注目した点。川原氏の社長就任は、2020年10月28日付の「代表取締役の異動に関するお知らせ」で公表されました。会社が挙げた理由は、次の一文です。

「新たな経営体制のもと、2022年から始まる次期中期経営計画の策定、および実行を担い、当社グループの持続的な成長と企業価値向上により一層推進するため。」

このとき代表取締役社長だった伊藤正明氏は取締役会長に就いています。つまり川原氏は「次の中期経営計画の策定と実行を担う人」として社長に選ばれたことになります。後述する中期経営計画「PASSION 2026」は、この人事の1年3か月後に公表されました。本記事の答え合わせは、川原氏が社長として策定・実行を担った計画に対するものです。

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会社データ

項目内容
会社名株式会社クラレ(KURARAY CO., LTD.)
登記上の本店岡山県倉敷市酒津1621番地
本社業務東京都千代田区大手町二丁目6番4号
創立1926年6月(2026年6月に創立100周年)
資本金889億5,500万円
従業員数12,117人(連結)/4,715人(単体)(2025年12月31日現在)
売上高8,084億4,700万円(2025年12月期・連結)
報告セグメントビニルアセテート/イソプレン/機能材料/繊維/その他

※創立・本店・資本金・従業員数・売上高は有価証券報告書に基づきます。

編集部が注目した点。有価証券報告書の表紙は、本店所在地を岡山県倉敷市酒津と記したうえで、「上記は登記上の本店所在地であり、実際の本社業務は下記において行っています」として東京都千代田区大手町を併記しています。創業の地に本店を置いたまま、本社機能は東京にあるという形です。会社は1926年6月の創立で、2026年6月に100周年を迎えます。川原氏はこの節目を「ワンクラレとして結束を強め、次に何をするのか、グループ全体で考える契機とします」と語っています。

03

人物の軌跡

「米トランプ関税の影響がじわじわと効いてきたと感じています」

2025年7月17日、繊維ニュースの取材での発言です。川原氏は続けて「トランプ関税によるサプライチェーンの混乱は大きなインパクトがあります」と述べ、さらに年初の見通しとの差をこう説明しています。「年初の見通しでは、欧州は緩やかに回復すると予想し、中国も回復の方向に進むとみていました。実際には、欧州の景気は回復が遅れ、中国も不動産不況が続いて回復は想定ほどではありません」。

編集部の見方。この発言でまず確認したのは、川原氏が示した数字の正確さです。同じ取材で「当社の場合、売上高全体の約25%を欧州が、20%強を米国が占めていますので、欧米の動向は無視できません」と述べています。

有価証券報告書の地域ごとの売上高で照合しました。

地域2024年度構成比2025年度構成比
欧州2,065億円25.0%2,037億円25.2%
米国1,835億円22.2%1,881億円23.3%
日本1,721億円20.8%1,618億円20.0%
中国1,236億円15.0%1,197億円14.8%
アジア876億円10.6%842億円10.4%
その他535億円6.5%510億円6.3%

※顧客の所在地を基礎とした分類です。取材は2025年7月で、当時開示されていた直近の実績は2024年度でした。

「約25%を欧州が、20%強を米国が」という説明は、実際の数字と合っています。取材時点の2024年度で欧州25.0%・米国22.2%、その後の2025年度でも欧州25.2%・米国23.3%でした。

「米国で作り、米国で販売している事業には影響はない」

同じ取材で、関税の影響を問われた川原氏はこう答えています。「トランプ関税については、主力のビニルアセテートや活性炭など、米国で作り、米国で販売している事業には影響はないのですが、『ネガティブな要素ではない』程度と捉えています。それよりも報復関税などによる世界経済の変調の方が当社のビジネスに大きな影響を与えます」。

編集部の見方。この見立ては、地域別の増減と矛盾しませんでした。

地域2025年度の前期比
米国+2.5%
欧州△1.4%
中国△3.2%
アジア△3.9%
その他△4.7%
日本△6.0%

6つの地域のうち、増えたのは米国だけです。川原氏が「影響はない」と言った米国が唯一の増収となり、「世界経済の変調の方が大きい」と述べたとおり、それ以外のすべての地域が減りました。

ただし、この表から言えるのはここまでです。地域別売上は顧客の所在地で分類した総額なので、米国で生産・販売する事業が関税の影響を受けたかどうか、また他の地域が減った原因が何であったかは、この集計だけでは判定できません。実際、有価証券報告書はイソプレンについて「中国の建築用途需要低迷に加え、上期に米国関税政策の影響により需要が前倒しとなった結果、第3四半期以降はその反動で需要が落ち込みました」と記しています。米国の増収にも、この前倒し需要が含まれている可能性があります。

同じ有価証券報告書はエラストマーについて「販売数量が増加したものの、米国関税政策により欧州市場等においてアジアの競合メーカーとの競争が激化しました」とも記しています。関税は、需要を前倒しさせてから反動で落とす、あるいは競合との価格競争を激化させるという形で現れたと会社は説明していることになります。編集部では、川原氏が「サプライチェーンの混乱」と呼んだものの中身が、この説明で具体化されていると読みました。

「昭和は元気な時代だった」

同じ取材の末尾のコラムでの発言です。川原氏は「バブル経済が崩壊する前であり、経済全体が成長を続ける中、やればやるだけ成果が得られた。がむしゃらに働いた」と振り返っています。一方で自分の時間を持つことの大切さも語り、当時はウインドサーフィンを楽しみ、「土、日は福井県高浜町や滋賀県の琵琶湖に出掛けていた」と述べています。

編集部の見方。川原氏の入社は1984年で、バブル経済の入口にあたります。この発言は経営判断の検証材料にはなりませんが、「やればやるだけ成果が得られた」時代に社会人になった人物が、後述するとおり「拡大が見込めない事業の縮小・撤退」を繰り返し決断しているという対比として、編集部では記録しておくべきだと考えました。

04

経営哲学

答え合わせ①:策定を担った計画で、目標を上方修正した

川原氏が策定と実行を担うことを期待されて社長に就いた中期経営計画が、2022年2月9日に公表された5か年計画「PASSION 2026」です。長期ビジョン「Kuraray Vision 2026」の実現に向けた計画で、最終年度は創立100周年の2026年度にあたります。

掲げられた3つの挑戦は、①機会としてのサステナビリティ ②ネットワーキングから始めるイノベーション ③人と組織のトランスフォーメーション です。

編集部が注目したのは、この計画の数値目標が途中で引き上げられていることです。

指標(2026年度)当初目標(2022年2月)修正後(2025年2月)
売上高7,500億円9,000億円(上方)
営業利益1,000億円1,100億円(上方)
当期純利益630億円660億円(上方)
ROIC8%9%(上方)
ROE10%9%(下方)
EBITDA1,700億円1,860億円(上方)
EBITDAマージン23%21%(下方)
設備投資(5年間)3,800億円5,000億円

上方修正の理由について、川原氏は2025年7月の取材でこう説明しています。「中計を見直した理由は、織り込んでいなかった事項が出てきたためです。機会としてのサステナビリティでチャレンジングな目標設定にしたのもそうですし、この数年で変化した社会的要請への対応もそうです。それに合わせて業績も上方修正を行いました」。

編集部の見方。この修正には、上げた指標と下げた指標が混在しています。売上高・営業利益・当期純利益・EBITDAに加え、投下資本の効率を示すROICも8%から9%へ引き上げられました。一方で下げられたのは2つです。ROEが10%から9%へ、EBITDAマージンが23%から21%へ。同時に設備投資は5年間で3,800億円から5,000億円へ増えています。

編集部では、この組み合わせを「規模と投資を大きくしながら、株主資本あたりの利益と売上あたりの利益率は、当初より保守的に見た」と読みました。増やした投資が株主資本を厚くする分、ROEの目標を下げる計算になります。

答え合わせ②:上方修正した目標は、最終年度の予想でも届いていない

PASSION 2026の最終年度は2026年度です。会社が2026年2月10日に公表した2026年12月期の業績予想と、2つの目標を並べます。

指標当初目標(2022年2月)修正後の目標(2025年2月)2026年度の会社予想
売上高7,500億円9,000億円8,500億円
営業利益1,000億円1,100億円700億円

売上高は当初目標を1,000億円上回る一方、営業利益は当初目標の70%にとどまる見込みです。上方修正後の目標(9,000億円/1,100億円)に対しては、売上高も営業利益も届きません。

編集部の見方。規模は当初の想定を超えて大きくなり、利益は当初の想定に届かない、という分かれ方をしています。この点について、会社が「目標の見直し」や「未達」と明示的に表現した資料は、編集部が確認した範囲では見つかりませんでした。あくまで会社予想と目標を並べた比較です。

なお、実績の推移は下のとおりです。

決算期売上高営業利益営業利益率親会社株主に帰属する当期純利益ROE
2020年12月期(就任直前)5,418億円443億円8.2%26億円0.5%
2021年12月期(就任1年目)6,294億円723億円11.5%373億円7.0%
2022年12月期7,564億円871億円11.5%543億円9.0%
2023年12月期7,809億円755億円9.7%424億円6.2%
2024年12月期8,269億円851億円10.3%317億円4.3%
2025年12月期8,084億円589億円7.3%75億円1.0%

編集部が注目したのは、就任直前の状態です。川原氏が引き継いだ2020年12月期の当期純利益は26億円、その前の2019年12月期は20億円の赤字でした。この理由について、川原氏自身が就任直後の決算説明会(2021年2月10日)でこう説明しています。「前年に続き、当期純利益は、米国における訴訟関連損失の影響を大きく受けました」。

利益がほぼ消えた状態で引き継ぎ、就任1年目に373億円へ戻し、5年目に再び75億円まで落ちたという推移になります。

答え合わせ③:減損の86.5%が、イソプレンに区分された

2025年12月期の当期純利益は243億円減りました。その内訳は、営業段階での262億円の減少と、減損損失の増加が重なったものです。減損損失は前期の168億円から296億円へ膨らんでいます(増加分は128億円)。減損だけが減益の原因ではなく、本業の利益の落ち込みの方が金額としては大きいという関係になります。

総額296億円の減損のセグメント別内訳を、決算短信で確認しました。

セグメント減損損失構成比
イソプレン256億3,600万円86.5%
繊維19億900万円6.4%
ビニルアセテート11億4,800万円3.9%
機能材料7億8,400万円2.6%
その他1億4,700万円0.5%

減損の86.5%が、イソプレンの1セグメントに区分されています。対象は「イソプレンケミカル事業関連資産及びエラストマー事業におけるスチレン系熱可塑性エラストマー関連資産」で、計上時期は「当第4四半期」と記されています。

編集部が確認したのは、このイソプレンが川原氏の挙げた集中投資先の1つだったことです。2025年7月の取材で、川原氏は中期経営計画の3年間の施策をこう語っていました。

「施策については、ビニルアセテートや活性炭、メディカル、イソプレンに経営資源を集中し、必要な設備投資も実施しています。その一方で、ピークを越え、将来的に拡大が見込めない事業は縮小・撤退を決断しました。」

経営資源を集中すると挙げた4つの事業のうち1つに、その年の減損の大半が区分されたことになります。

ただし編集部では、これを川原氏個人の投資判断の結果と読むことはできないと考えました。理由は3つあります。

第一に、イソプレンのタイ拠点は前任の伊藤氏の時代の中期経営計画「PROUD 2020」から進められていた案件で、川原氏は就任直後の決算説明会でその進捗を報告する立場でした。第二に、有価証券報告書は同じイソプレンについて「タイ拠点の稼働が安定し、当該拠点を活用した拡販を進めました」とも記しています。ただし減損の対象は「イソプレンケミカル事業関連資産及びエラストマー事業におけるスチレン系熱可塑性エラストマー関連資産」と書かれており、この記載とタイ拠点との対応関係は、公開資料からは確認できません。第三に、会社が減損の理由として挙げているのは「事業環境の悪化」であり、その中身として記されているのは中国の建築用途需要の低迷と、関税による前倒し需要の反動、競合との競争激化という外部要因です。

なお、イソプレンセグメントの2025年度は売上高804億円(前期比5.3%増)、営業損失49億円でした。前期の営業損失95億円からは半減しており、赤字が縮小する途中で減損に至ったという経過です。

答え合わせ④:「若干」の規模

最後に、冒頭の見立てと結果を並べます。川原氏の2025年7月の発言は「6月以降の業績に若干影響が出てくるかもしれないと懸念しています」でした。同じ取材のリード文には「目標に向かって確実に進んでいく」と強調したことも記されています。

指標(2025年12月期)実績前期比
売上高8,084億円△2.2%
営業利益589億円△30.8%
経常利益515億円△36.8%
親会社株主に帰属する当期純利益75億円△76.5%

編集部の見方。川原氏が示した方向は、実績と矛盾していません。米国は唯一の増収となり、それ以外の地域が減り、有価証券報告書は「第3四半期以降はその反動で需要が落ち込みました」と記しています。

一方で、「若干」という言葉と上の数字の間には距離があります。ただし編集部では、この距離をそのまま「見通しの誤り」と呼ぶことはしません。理由は2つあります。

第一に、比較の基準が違います。川原氏の「若干影響が出てくるかもしれない」は、期初に会社が置いた見通しからの下振れを指した発言です。上の表は前期比であり、期初見通しに対する下振れ幅を、編集部は公開資料で確認できていません。

第二に、減益の要因を関税と世界経済の変調だけに帰することはできません。営業段階の減少262億円には、原燃料価格や在庫評価差額、事業ごとの需給といった複数の要因が重なっており、有価証券報告書もそれらを並べて記しています。「若干」の見立てが規模として外れたかどうかを、公開資料だけで判定することは編集部にはできませんでした。

言えるのは、次の一点です。関税が直接かかる市場では売上が減らず、その外側で減った。そして本人は、その形を取材の時点で言い当てていました。

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人物像

リーダーシップタイプ

ポートフォリオ再編型。伸ばす事業と縮小・撤退する事業を分けて明言し、実際に両方を実行しています。「拡大が見込めない事業は縮小・撤退を決断しました。これは今後も続けます」という言い方に、その姿勢が表れています。

強み・特徴(編集部分析)

  • 外部環境の読みが、実績と矛盾していない。2025年7月の時点で「米国事業には影響がない」「世界経済の変調の方が大きい」「6月以降に影響が出る」と述べ、いずれも実績の方向と食い違いませんでした。自社の地域別構成比(欧州約25%・米国20%強)も、有価証券報告書の数値と一致していました。
  • 撤退を実行している。2024年の不織布事業再構築、2025年6月のポリエステル樹脂・ポリエステル長繊維の生産終了と、縮小・撤退の判断を続けています(前者2件は繊維ニュースの取材での本人の説明)。有価証券報告書も「将来に向けて改善が見込めない一部の事業・製品においては、事業譲渡あるいは縮小・撤退といった判断を行いました」と記しています。
  • 引き継いだ状態から立て直した実績がある。当期純利益が26億円(その前の期は20億円の赤字)まで落ちていた期の直後に就任し、1年目に373億円へ戻しました。この2期の落ち込みの理由を、川原氏本人が就任直後の決算説明会で「米国における訴訟関連損失」と説明しています。
  • 数字で語り、丸めない。「約25%を欧州が、20%強を米国が」のように、構成比を概数で正確に述べています。

課題として読み取れる点(編集部分析)

  • 上方修正した目標に、最終年度の会社予想が届いていません。売上高は当初目標を超える一方、営業利益は当初目標1,000億円に対して700億円の予想です。この上方修正は、2024年12月期の決算発表の直後(2025年2月)に公表されました。
  • 集中投資先の1つで減損が発生しています。2025年12月期の減損296億円のうち86.5%がイソプレンに区分されました。同セグメントは営業損失95億円から49億円へ赤字を縮小させる途中にありました。ただし関連する投資は前任体制から継続しており、川原氏個人の判断との因果は公開資料から確認できません。
  • ROEが1.0%まで低下しました。上方修正後の目標は9%です。就任以降の推移は7.0%→9.0%→6.2%→4.3%→1.0%で、2022年12月期の9.0%が最高値となっています。
  • 「若干」という表現と結果の間に距離があります。方向の見立ては実績と矛盾しなかった一方、営業利益30.8%減・当期純利益76.5%減という結果との開きは大きいものでした。ただし期初見通しに対する下振れ幅は公開資料で確認できておらず、減益の要因も複数あるため、見通しの精度そのものを評価することは編集部にはできません。
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編集部総評

この記事の検証は、川原氏の見立てを実績と照らし合わせることから始まりました。「米国で作り、米国で販売している事業には影響はない」「それよりも報復関税などによる世界経済の変調の方が大きい」——2025年度の地域別売上で増えたのは米国だけで、他の5地域はすべて減りました。自社の地域構成比も、本人が語った「欧州約25%、米国20%強」のとおりでした。取材の時点で示された方向は、その後の実績と食い違っていません。

それでも、結果は当期純利益76.5%減でした。

編集部が見たのは、この2つが同時に成り立っているという事実です。関税がかかる市場では売上が減らず、その外側で減った。会社の説明によれば、関税は「上期に需要を前倒しさせ、第3四半期以降にその反動で落とす」という形と、「欧州市場等でアジアの競合との競争を激化させる」という形で現れました。川原氏が「サプライチェーンの混乱」と呼んだものの中身が、ここで具体化されています。

減損296億円のうち86.5%がイソプレンに区分されたことも、編集部は事実として記録します。イソプレンは川原氏が「経営資源を集中し、必要な設備投資も実施しています」と挙げた4事業の1つでした。ただしこの投資は前任体制から続くもので、会社が減損の理由として挙げているのは中国の建築用途需要の低迷や競争激化といった外部環境です。同セグメントは営業損失を95億円から49億円へ縮小させる途中でもありました。減損を経営判断の失敗と読むには、公開資料は足りません。

編集部が最後まで判定できなかったのは、「若干」という言葉の重みです。本人がこの言葉で指したのは期初見通しからの下振れであり、その幅を公開資料で確認することはできませんでした。減益の要因も1つではありません。方向を当てた人が、規模をどう見込んでいたのか。それは公開情報の外にあります。

PASSION 2026の最終年度は2026年度、創立100周年の年です。会社予想は売上高8,500億円・営業利益700億円で、売上高は2022年に掲げた当初目標を1,000億円上回り、営業利益は当初目標の70%にとどまります。規模は当初の想定を超え、利益は当初の想定に届かない。川原氏が策定と実行を担った計画の答えは、100周年の年に出ることになります。

参考情報

参考にした公開情報

本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。