磯野 裕之
代表取締役 社長執行役員
読めないと、言い切った。

概要
公開されているインタビュー、有価証券報告書、会社発表資料をもとに、その人物のキャリアと考え方を整理しました。
王子ホールディングスの磯野裕之氏は、2022年4月、原燃料価格が歴史的な水準まで高騰する局面で社長に就任しました。就任から4か月後の取材で、磯野氏はこう語っています。「まだまだ原燃料の価格動向は読めません」。
編集部が注目したのは、この人物が「読めない」と言いながら、規模だけは具体的な金額で示していたことです。同じ取材で磯野氏は「1200億円ほどのコスト増になる可能性があります。これは昨年の当社の営業利益に相当する金額です」と述べています。有価証券報告書で確認すると、前期(2022年3月期)の連結営業利益は1,201億円でした。自社の営業利益が丸ごと消える規模のコスト増を、丸めずに口にしていたことになります。
その2か月前、就任翌月にあたる2022年5月31日、会社は3年後の目標として連結営業利益1,500億円以上を掲げました。この数字は、前の計画から据え置かれたものです。本記事は、磯野氏が語った内容と会社が公表した目標を、その後の有価証券報告書で突き合わせたものです。結果は、利益の目標が2つの計画にわたって未達となる一方、海外展開の目標は2度目で達成される、という分かれ方をしています。
経歴
プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 磯野 裕之(いその ひろゆき) |
| 生年月日 | 1960年5月20日 |
| 現職 | 王子ホールディングス株式会社 代表取締役 社長執行役員 |
| 社長就任 | 2022年4月(就任時61歳) |
※生年月日・肩書は2026年6月25日提出の有価証券報告書に基づきます。
経歴
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| — | 1984年 慶應義塾大学経済学部卒業/1991年 マッギル大学MBA修了 |
| 1984年4月 | 王子製紙(現・王子ホールディングス)入社 |
| 2012年10月 | 王子マネジメントオフィス株式会社 取締役 |
| 2014年4月 | 当社グループ経営委員 |
| 2015年6月 | 取締役 常務グループ経営委員 |
| 2021年4月 | 取締役 専務グループ経営委員 |
| 2022年4月 | 代表取締役社長 社長グループ経営委員 |
| 2025年4月 | 代表取締役 社長執行役員(現) |
学歴は雑誌『経済界』のインタビュー記事に基づくもので、有価証券報告書には記載がありません。1984年4月の入社以降の経歴は有価証券報告書の記載どおりです。
編集部が注目した点。磯野氏は自身について「2000年前後から経営企画に関係する仕事をしてきました」と語っています。入社から社長就任までの38年のうち、20年以上を経営企画の周辺で過ごした計算になります。リーマンショックと東日本大震災を経営企画の立場で経験した人物が、その両方を引き合いに出して「こんなにも短期間で諸情勢が変わる事態は経験がありません」と述べたのが2022年でした。
会社データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 王子ホールディングス株式会社 |
| 本店 | 東京都中央区銀座四丁目7番5号 |
| 発足 | 1949年8月(過度経済力集中排除法による分割で「苫小牧製紙株式会社」として発足) |
| 商号変更 | 1952年6月 王子製紙工業/1960年12月 王子製紙/1993年10月 新王子製紙/1996年10月 王子製紙/2012年10月 王子ホールディングス(持株会社へ移行) |
| 資本金 | 1,038億8,000万円 |
| 従業員数 | 38,757人(2026年3月31日現在・連結) |
| 売上高 | 1兆8,617億円(2026年3月期・連結) |
| 報告セグメント | 生活産業資材/機能材/資源環境ビジネス/印刷情報メディア/その他 |
編集部が注目した点。取材記事では「1873年、渋沢栄一は西洋式の大規模な製紙工場『抄紙会社』を東京・王子に設立した」と紹介されています。有価証券報告書の沿革はこれを「旧王子製紙株式会社は1873年2月抄紙会社として創立され」と記し、現在の会社については「1949年8月過度経済力集中排除法に基づき3社に分割されました。当社はその3社のひとつである苫小牧製紙株式会社として発足し」と書いています。創業の系譜は1873年に遡りますが、法人としての現在の会社は1949年に発足しています。
人物の軌跡
「1200億円ほどのコスト増になる可能性があります。これは昨年の当社の営業利益に相当する金額です」
2022年8月上旬時点の見立てとして語られた言葉です。磯野氏は石炭価格の推移を具体的に説明しています。2021年当初は1トンあたり60〜70ドルで推移していたものが、同年秋から上がり始めて150ドルを超え、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後は400ドル以上の水準まで上昇した、と。そして「当社の場合、石炭に限って言えば100ドル価格が上昇すると年間100億円程度コストが増えます」と述べています。
編集部の見方。この発言の検証は容易です。有価証券報告書によれば、2022年3月期の連結営業利益は1,201億円でした。「昨年の営業利益に相当する」という比較は、実際の数字と合っています。1,200億円はあくまで「ほど」と付けられた概数であり、将来を予測して当てたという話ではありません。編集部が注目したのは、想定されるコスト増の規模を、社内の誰にでも通じる基準(前期の営業利益)に置き換えて説明している点です。経営企画を20年以上経験した人物の数字の使い方が表れている箇所だと捉えました。
では、そのコスト増は実際にどうなったのか。2023年3月期(2022年度)の有価証券報告書は、売上高が価格修正の実施などにより前期を2,365億円(16.1%)上回る1兆7,066億円になったと記し、営業利益については「上記の価格修正の取り組みに加え、販売量も増加しましたが、原燃料価格高騰影響が大きく、前期を353億円(△29.4%)下回る848億円となりました」と説明しています。
1,200億円というコスト増の見通しに対し、営業利益の減少は353億円にとどまりました。編集部では、この差を「価格転嫁が相当程度は機能した」と読みました。ただし有価証券報告書はコスト増の実額を開示していないため、1,200億円がそのまま発生したうえで847億円分を吸収したのかどうかは確認できません。
「ここ5年、6年を見ると売上高が頭打ちで推移しています」
中期経営計画の数値目標について問われた磯野氏は、営業利益にこだわりがあると述べたうえで、こう続けています。「今後を考えた場合、トップラインを伸ばしていかなければ収益面はついてこないと思っていますので、中期経営計画で示した営業利益と純利益を達成するためには、売上高も着実に成長させていく必要があります」。
編集部で売上高の推移を確認しました。
| 決算期 | 売上高 | 前期比 |
|---|---|---|
| 2019年3月期 | 1兆5,510億円 | — |
| 2020年3月期 | 1兆5,076億円 | △2.8% |
| 2021年3月期 | 1兆3,590億円 | △9.9% |
| 2022年3月期 | 1兆4,702億円 | +8.2% |
| 2023年3月期 | 1兆7,066億円 | +16.1% |
| 2024年3月期 | 1兆6,963億円 | △0.6% |
| 2025年3月期 | 1兆8,493億円 | +9.0% |
| 2026年3月期 | 1兆8,617億円 | +0.7% |
※「収益認識に関する会計基準」を2022年3月期(第98期)の期首から適用しているため、2021年3月期以前と以降は基準が異なります。
就任前を振り返ると、2019年3月期の1兆5,510億円から減少が続き、2021年3月期には1兆3,590億円まで落ち込んでいます。就任直前の2022年3月期は1兆4,702億円で、3年前の水準を5.2%下回っていました。「頭打ち」という表現は、実際には減少局面を指していたことになります。
そして就任後の4期で、売上高は1兆4,702億円から1兆8,617億円へ26.6%増えました。この点について磯野氏の言葉は実行されています。
「上に対してモノを言えない企業体質は非常にまずいということです」
検査の偽装などコンプライアンス問題が浮上する企業を見て感じることとして語られた言葉です。磯野氏は続けて、自身の実感をこう述べています。「社長になって数カ月間、社内で私と話す時にどこか構えている人間が多いなと感じています。これは、今までも私と接点があったメンバーに関しても同じです」。
編集部の見方。この発言は、公開情報からは検証できません。組織の風通しを外部の数値で測る方法がないためです。編集部が注目したのは別の点で、就任数か月の社長が「自分に対して社員が構えている」と公の場で言ったことです。同じ取材で磯野氏は、社長就任前の2月から4月1日の幹部社員約300人への講話を準備し、その期間に「社長という重責に対する緊張感が相当高まっていった」とも語っています。緊張していたのは自分の側でもあった、という順序で読める発言です。
経営哲学
答え合わせ:同じ目標が、2つの計画にわたって掲げられた
2022年5月31日、磯野氏の社長就任の翌月、会社は「2022-2024年度中期経営計画」を発表しました。編集部が発表資料を読んで気づいたのは、そこに掲げられた数字が、前の計画から据え置かれたものだったことです。同じ資料の「2019-2021年度中期経営計画の振り返り」ページに、前計画の目標と実績が並べて示されています。
| 指標 | 前計画(2019-2021年度)の目標 | 2021年度実績 | 新計画(2022-2024年度)の目標 | 2024年度実績 |
|---|---|---|---|---|
| 連結営業利益 | 1,500億円以上 | 1,201億円(未達) | 1,500億円以上(据え置き) | 677億円(達成率45%) |
| 連結純利益 | 1,000億円以上を安定的に継続 | 875億円(未達) | 1,000億円以上(据え置き) | 462億円(達成率46%) |
| 海外売上高比率 | 40% | 33.5%(未達) | 40%(据え置き) | 40.8%(達成) |
前計画について、会社自身が「コロナ影響等により一部数値目標未達も、過去最高益達成」と総括しています(2021年度のROEは目標10.0%に対し10.9%で達成)。
つまり営業利益1,500億円以上という数字は、磯野氏が就任する前から掲げられていた目標で、2つの計画にわたって未達となりました。一方、海外売上高比率40%は、同じく据え置かれた目標を2度目で達成しています。海外売上高比率は、2025年3月期の有価証券報告書に「海外売上高比率は前期を5.9ポイント上回る40.8%となりました」と明記されています。
なお、新計画の経営数値目標にはネットD/Eレシオ0.7維持も含まれており、本記事はその達成状況を検証していません。
利益の目標は、半分に届いていません。編集部では、この結果を「外部環境の読み違え」ではなく「読めないと言ったとおりになった」と捉えました。中期経営計画の前提条件として会社が置いていたのは、為替130円/USD、石炭は豪州一般炭300USD/t、原油はドバイ100USD/bblでした。磯野氏が取材で「原燃料と為替の動き次第で読めない部分も当然ありますが」と留保を付けたうえで「外部環境がどこかで安定してくれれば、24年度の目標には到達できると思っています」と述べたのは、この前提を踏まえた発言です。
利益はどう動いたか
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 親会社株主に帰属する当期純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 1兆4,702億円 | 1,201億円 | 8.2% | 875億円 |
| 2023年3月期 | 1兆7,066億円 | 848億円 | 5.0% | 565億円 |
| 2024年3月期 | 1兆6,963億円 | 726億円 | 4.3% | 508億円 |
| 2025年3月期 | 1兆8,493億円 | 677億円 | 3.7% | 462億円 |
| 2026年3月期 | 1兆8,617億円 | 346億円 | 1.9% | 556億円 |
売上高が26.6%増える間に、営業利益は1,201億円から346億円へ71.2%減りました。営業利益率は8.2%から1.9%へ下がっています。
2026年3月期の有価証券報告書は、営業利益の減少を「国内で販売数量が減少した影響や、海外でのパルプ市況悪化等により、前期を331億円(△48.9%)下回る346億円となりました」と説明しています。同じ期の親会社株主に帰属する当期純利益は556億円で20.4%増えていますが、これは「特別利益に賃貸不動産の売却に伴う固定資産売却益を計上したこと等により」と記されており、本業の利益とは分けて読む必要があります。
森林と脱プラスチック:どちらが利益を出したか
磯野氏は取材で、森林資源について「持続可能性が大きく問われる世界の流れの中で、こうした可能性ある山林を大規模に所有しているのは、当社の価値の源泉になるはずです」と語りました。同時に、脱プラスチック製品について「どれだけ売上収益を伸ばしていけるかは大きなポイントになります」と述べています。
2026年3月期のセグメント別業績は、次のとおりです。
| セグメント | 売上高 | 前期比 | 営業利益 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 生活産業資材 | 9,433億円 | +2.8% | 197億円 | +7.5% |
| 機能材 | 2,360億円 | △0.2% | 108億円 | △12.6% |
| 資源環境ビジネス | 3,897億円 | △0.7% | 67億円 | △78.5% |
| 印刷情報メディア | 2,721億円 | △7.2% | 75億円 | △43.5% |
4セグメントのうち増益は1つだけで、それが脱プラスチック製品を含む生活産業資材でした。一方、森林・パルプ・エネルギーを担う資源環境ビジネスの営業利益は78.5%減の67億円です。
ただし、この2つを発言の答え合わせに直結させることはできません。有価証券報告書が生活産業資材の増益要因として挙げているのは王子ネピアの生産体制再構築などであり、脱プラスチック製品の利益寄与は開示されていません(脱プラ包装は、フィンランドWalki社の買収により売上面で伸びています)。資源環境ビジネスの減益も、有価証券報告書は海外のパルプ市況悪化が主因と説明しており、国内はエネルギー事業の販売電力増加で増収増益でした。
編集部の見方。それでも、磯野氏が「価値の源泉になるはず」と語った森林側の事業が直近で最も大きく利益を落としたことは事実です。編集部が読み取ったのは森林資産の価値の否定ではなく、パルプという市況商品を通じて収益化している限り、市況の振れをそのまま受けるという構造です。磯野氏自身が語ったセルロースナノファイバー、バイオマスプラスチック、バイオエタノール、医薬品といった用途は、まだ収益として現れる段階にありません。会社は2026年1月にオーストリアのバイオリファイナリー企業AustroCel社の買収を完了し、2026年2月には医療用医薬品のLTLファーマ株式会社に出資しています。取材で語られた方向に、資本は動いています。
なお、2026年3月期からセグメント区分が変更されています(サステナブルパッケージング事業と液体紙容器事業を「その他」から「生活産業資材」へ移し、グループ本社費用を各セグメントから「その他」へ集約)。前期比較は組み替え後の数値によるものです。
新しい目標は、就任直前期の水準に置かれた
2025年度から2027年度を対象とする「中期経営計画2027」で、会社は次の目標を掲げています。
| 指標 | 2024年度実績 | 2027年度目標 |
|---|---|---|
| 連結営業利益 | 677億円 | 1,200億円 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 462億円 | 800億円 |
| ROE | — | 8% |
2つの計画にわたって1,500億円以上としていた営業利益の目標は、2027年度について1,200億円となりました。1,200億円は、磯野氏が就任する直前に終わった2022年3月期の実績1,201億円とほぼ同じ水準です。現在の計画は、就任直前期の利益水準への回復を3年後に置いていることになります。対象期間も計画の前提条件も異なるため単純比較はできませんが、目標として掲げる数字が下がったことは事実です。
会社はこの計画を「『長期ビジョン2035』実現に向けた基盤を固める『準備期』」と位置づけ、資本効率の改善に重点を置くと説明しています。保有株式の縮減(2024年度から2030年度までに1,200億円)、自己株式の取得(2024年度から2027年度までに1,500億円)、配当性向50%への引き上げが具体策として挙げられています。
人物像
リーダーシップタイプ
数字で状況を説明する経営企画型。磯野氏の発言の特徴は、悪い見通しを具体的な金額と単価で語ることです。「1200億円ほどのコスト増」「石炭100ドルで年間100億円」「21年当初は60〜70ドル、その後150ドル、侵攻後は400ドル以上」——取材の前半はほぼ数字で構成されています。同時に「読めません」「こんなことはあり得るのか」と、見通せないことを見通せないと言う姿勢も示しています。編集部では、予測できることと予測できないことを分けて話す型と捉えました。
強み・特徴(編集部分析)
① 悪い数字を先に、正確に出す
コスト増の見通しを「昨年の営業利益に相当する」と表現し、その比較対象は有価証券報告書の1,201億円と合っていました。都合の悪い見通しを、社内外に通じる基準に置き換えて丸めずに出しています。
② 価格転嫁を進めた
2023年3月期は売上高が2,365億円増え、有価証券報告書はその主因を価格修正の実施と記しています。1,200億円規模のコスト増に対し、営業利益の減少は353億円にとどまりました。
③ 「頭打ち」を実際に破った
就任前は2019年3月期の1兆5,510億円から減少が続き、2021年3月期に1兆3,590億円まで落ち込んでいた売上高が、就任後の4期で26.6%増えました。M&A(Walki社の買収など)と価格修正の両方が寄与しています。
④ 据え置かれた海外目標を、2度目で達成した
海外売上高比率40%は前計画から据え置かれた目標で、2021年度は33.5%と未達でしたが、2024年度に40.8%で達成しました。本人が「絶対的に海外で戦える人材が少ない会社と言えるかもしれません」と課題に挙げた領域です。
課題として読み取れる点(編集部分析)
- 利益率が下がり続けている。営業利益率は8.2%(2022年3月期)から1.9%(2026年3月期)へ低下しました。
- 利益の目標は2つの計画にわたって未達。2021年度は営業利益1,500億円以上に対し1,201億円、2024年度は同じ目標に対し677億円、純利益は1,000億円以上に対し462億円です。
- 「価値の源泉」と語った事業が最も利益を落とした。資源環境ビジネスの営業利益は2026年3月期に78.5%減となりました。
- 新用途はまだ収益になっていない。セルロースナノファイバーや医薬品などは、有価証券報告書で独立した収益として開示される段階にありません。
編集部総評
磯野裕之氏の取材記事を読んで、編集部がまず確認したのは金額でした。「1200億円ほどのコスト増」「これは昨年の当社の営業利益に相当する金額です」——有価証券報告書の1,201億円と照らして、この比較は合っていました。就任4か月の社長が、自社の利益が丸ごと消える規模のコスト増を、丸めずに数字で語っていたことになります。
そのうえで磯野氏は「読めません」と言い、「外部環境がどこかで安定してくれれば、24年度の目標には到達できると思っています」と条件付きで見通しを述べました。
4年後の答え合わせは、条件のほうが実現しなかったことを示しています。2024年度の営業利益は677億円で、目標1,500億円以上の45%。純利益は462億円で、目標1,000億円以上の46%です。一方、海外売上高比率は40.8%で目標を超えました。しかもこの3つは、いずれも磯野氏が就任する前の計画から据え置かれた目標です。営業利益と純利益は2つの計画にわたって未達となり、海外売上高比率は2度目で達成されました。
編集部では、この4年を「売上は伸ばしたが、利益は環境に持っていかれた4年」と捉えました。売上高は26.6%増えて1兆8,617億円になり、磯野氏が「頭打ち」と呼んだ状態は明確に破られています。にもかかわらず営業利益は1,201億円から346億円へ71.2%減り、営業利益率は1.9%になりました。磯野氏が語ったのは「トップラインを伸ばしていかなければ収益面はついてこない」という順序です。売上は本人の言葉どおり伸びました。ただし収益がついてくる段階には、この4年では至っていません。
そして会社は、2027年度の営業利益目標を1,200億円に置きました。磯野氏が就任する直前に終わった年度の水準です。2つの計画にわたって1,500億円以上を掲げてきた会社が、いま3年後の目標に置いているのは、その出発点への回復です。編集部は、これを後退とは読みません。従来の1,500億円が外部環境の安定を前提とした上積みだったのに対し、新しい計画は資本効率の改善と低収益事業の撤退という、自社で決められることを中心に組まれています。読めないものを前提から外した計画、と読むこともできます。
磯野氏は取材の最後に「長い目で見れば、コミュニケーションがよく取れている企業の方が結果は良くなっているのだと思います」と語りました。編集部が注目したいのは、1,200億円という数字が2度目に達成されるとき、それが市況の回復によるものか、本人が語った木質バイオマスや医薬品によるものかです。前者であれば、この4年と同じ構図が続くことになります。
参考情報
参考にした公開情報
- 王子ホールディングス株式会社「有価証券報告書」第102期(2025年4月1日〜2026年3月31日・2026年6月25日提出)
- 同「有価証券報告書」第101期(2025年3月期・2025年6月26日提出)、第99期(2023年3月期・2023年6月29日提出)
- 王子ホールディングス株式会社「2022-2024年度中期経営計画」(2022年5月31日発表)
- 経済界ウェブ「製紙業界の王者が森林資源の活用で時代を動かす 王子ホールディングス 磯野裕之」(雑誌『経済界』2022年11月号/Web公開2022年10月2日・聞き手 和田一樹)
本記事は公開情報をもとにLeaders Journal編集部が独自に分析・編集したものです。記載内容の修正・削除のご依頼は、理由を問わずいつでも承ります。お問い合わせフォームよりお知らせください。



